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    ひなげし

    @sleepwhitepoppy

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    ひなげし

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    たみおくんとクリームソーダを飲みに行くお話。

    たみおくんとクリームソーダ こんなに暑い日は、クリームソーダが飲みたくなる。
    たみおくんは、電車以外で好きな事って無いのかな。そんな考えを巡らせては、チラリと隣のソファに座る彼を窺う昼下がり。澄ました横顔はひんやりと冷たそうで、思わず頬に触れたくなる。真っ白で、それこそ上に乗ってるアイスクリームみたいで、お味見したいだなんて邪な感情を抱いてしまう。そんな私の視線に気付いたのか、浅葱色の瞳が眼前に現れて、沈み込む様な優しい声で問い掛けてきた。
    「どうしたの? そんなに見つめて。何か俺にして欲しい事でもあるのかい?」
    たみおくんはそうやって今一番欲しい言葉をくれるのだから、ずるい。
    「いや、大したことじゃ無いんだけどね……その、週末辺りにクリームソーダ飲みに行きたいなぁって。普通のクリームソーダじゃなくて、物語が付いてるの、一つ一つに。ほら!」
    携帯で検索して出て来たサイトを見せつつ、こっそり肩を触れ合わせてみる。すると自然と背中に腕が回され抱き寄せられては僅かばかりの至福に浸る。居心地が良いなあと、つくづく思う。
    「へえ、文豪作家の小説をイメージしてるんだ。どれも知らないけど面白いね。君、小説とか読むの?」
    「うん。本は好きなんだ。自分じゃ到底感じ得ないものを貰えたりするから……。なんか言ってて恥ずかしいね……!」
    好きな事を考えるって、こんなにも心が熱くなって手を扇にして仰いじゃうくらい興奮するんだ。ちょっとだけ、ほんのちょこっとだけ電車になろうと形振り構わず行動する彼の気持ちが分かった気がした。
    「ふふっ、可愛い。ずっとこうして居たいよ。じゃあ、次の土曜日昼過ぎにお店の前で待ち合わせはどう?」
    「うん! 賛成!!」

     レストランはビルの上階にあって、長く続くエスカレーターを登りたみおくんの待つフロアへと急ぐ。どうやら用事があるとかで早く着いていたらしい。このビル全体は本屋さんで、どのフロアを見渡しても本がギッシリと立ち並ぶ様はまるで巨大な図書館だ。圧倒されながらも、心惹かれる本を探索する旅に出た冒険家になった気分でわくわくしてしまう。
    (いけない……!待たせてるんだから早くしなきゃ!)
    真新しい本の匂いにうっとりしながら、エスカレーターを駆け上る。レストランらしき入り口を見つけ、慌ただしく歩みを進めるとお店の前に置かれた椅子に座る彼を発見する。
    声を掛けようと手を伸ばすも、引っ込めてしまった。だって余りにも美し過ぎて、その場の空気を壊したくなかった、完璧で不完全な所が一つも無いその姿は私の心を鷲掴んで魅了した。爪先を揃えて座り、しなやかに伸びた背筋からは上品さが滲み出ている。極め付けは手元の文庫本。普段着のクロスタイとも相性が良く、細く雪のように白い手がページを捲る様子に興奮を隠し切れない。何を読んでいるかは分からないけれど、ブックカバーからこの本屋さんで買った事は間違いない。私は元々、本を読む姿が堪らなく好きだから、この状況には参ってしまう。動画を隠し撮りして永久保存したい。さすがに、この不審者じみた視線に気付いたのか、本から顔を上げて声を掛けてくれた。
    「あ、いたいた。結構並んでたから名前先に書いといたよ」
    「ありがとう! たみおくんも本とか読むんだね。凄く良く似合ってるよ。何の本読んでるの?」
    「……秘密」
    口元に人差し指を当ててクスリと笑う姿は破壊力抜群で、これから飲み食いするというのに食欲を掻っ攫って行って困りものだ。
     暫くすると名前を呼ばれて、店内へと案内される。広々と開放的で奥は一面ガラス張りになっており、外の景色を楽しめる工夫が施されていた。
    「一番奥の空いている席へどうぞ」
    運良く窓際の席へ案内され、二人向かい合わせで席に着く。
    「良い席でラッキーだね。あっ! 見て見て! 電車がちょうど見えるよ」
    駅前のレストランだからか、次から次へと電車が乗り入れて来る絶景が広がっていて、これにはたみおくんも喜ぶんじゃないかと向かいを見遣ると案の定、興奮した様子で窓に張り付いていて微笑ましい。……と思ったのも束の間、例のアレが始まった。ベルトをカチャカチャと外して今にも電車になりそうな例のアレだ。こんな公衆の面前でやめて欲しい、いや、いつもの事か。内心呆れながらも全力で引き止める。
    「たみおくん止めて……! 駅まで遠いんだし、この場所で電車になってもしょうがないでしょう? ほら、今は眺めるのに専念しよ?」
    「えー、せっかく色んな子がやって来るのに失礼じゃないか。ま、君の言う通り距離があるし今日のところは我慢してあげるよ。あぁっ、引っ切り無しに来てくれる……俺の所に……♡」
    紅潮した両頬に手を添えて狂酔する姿を目の当たりにして、そんな気は無くとも色気を感じてしまうから心臓に悪い。
    「ともかく、注文しちゃお? へぇ〜、洋食がたくさんあるんだー! どれも美味しそう……決めた! ハヤシオムライスと『女生徒』にしようかな!」
    女生徒のクリームソーダはかねてよりずっと飲みたかったやつだ。ピンクと青のグラデーションが、まさに文章に出て来る夕靄を表現していて写真で見るだけでも美しい。混ぜたらどんな色になるのか、期待してしまう。
    「ふぅん、じゃあ俺はハヤシライスと『檸檬』にしようかな」

     暫くして、オーダーしていたものがテーブルへと運ばれて来た。ほくほくと湯気を纏いながらやって来たハヤシオムライスは、置かれた振動で半熟の卵がぷるんとして何とも美味しそうだ。それと、お待ちかねの『女生徒』も下から上へ気泡を運びながら見事なグラデーションで私を虜にする。てっぺんに飾られた小さなマシュマロとさくらんぼが健気で可愛らしい。
    「うわぁ〜! 可愛いー! 写真いっぱい撮っちゃお♪」
    アルバムが同じ写真で埋め尽くされる程撮りまくっていると、たみおくんのも運ばれて来た。
    オムライスは勿論の事、『檸檬』の佇まいが凛としていて大変美しい。クリームソーダだけれど、アイスが乗っていないのも斬新で、下に沈んだびいどろゼリーを引き立たせている。レモン果汁が添えられている仕掛けも楽しい。
    「たみおくんのも凄い綺麗だね! 見惚れちゃう……」
    「ふふっ、君が見惚れてどうするの? 俺も偶には撮ろうかな」
    そう言って、徐にいつものカメラを首から下げてシャッターを切る。珍しい、たみおくんが電車以外の写真を撮るなんて。それ程までに、価値のある一杯だと思ってくれたのだろうか。見た目にも鮮やかで味覚も楽しませてくれるクリームソーダが私は、好きだ。
    お互い満足いくまで写真に収めた後、各々今度は舌を喜ばす。濃厚なデミグラスと蕩けた卵が絡み合い絶妙な味わいを醸し出している。『女生徒』も優しい甘さで、本の中のどこか夢見がちな思春期の少女を鮮明に思い起こさせる味だった。大満足だ。
    たみおくんはと言うと、レモン果汁を掛けて「あんまり変わらないね」とか何とか夢の無い事を宣っている。もっと味の感想を聞きたいのに。じっとり視線を注いでいたら、
    「飲みたいんでしょう? ほら、口開けて?」
    慣れた手つきで“あーん”をさせるから恥ずかしさで立ち去りたくなる。差し出されたスプーンに、おずおずと唇を付けゼリーを吸い込む。爽やかで後味が少し酸っぱくて、何処か空虚な味がした。面白い。
    「美味しい……これ、本読みながら飲んだら粋だよね!」
    「そうだね。それに、この建物に来たらやっぱり頼んでおかないとって」
    「えっ……たみおくん、檸檬の舞台が此処の本屋さんって何で知ってるの? この前、どれも知らないって」
    確かそう言っていた筈だ。このラインナップで知ってる話は無いと。
    とすると、調べてくれた? わざわざ今日の為に? まさか実際に作品を読んでくれたとか? 文字を読むのって、相当な時間と労力が要る。それは私が一番分かってる。だからこそ、そんな事してくれたのなら感動で泣いてしまいそうだ。そう言えば用事があるって早く此処に着いていたのは、飲む前に本で予習する為だろうか。
    そんな都合の良い事を考えれば考える程、口元が綻んでしまってしょうがない。
    「乗り気じゃなさそうなのに調べてくれたの? もしかして、さっきの本も……?」
    「っ……! 君って、そう言う所鋭いよね……。あんまり知られたく無かったのに、一度も読んだ事無いなんて……。君があんまりにも楽しそうに話すから、読んでみたくなったんだ。確かに、色々貰えた気がするよ。……ありがとう。はぁ……言ってて恥ずかしくなる」
    今度はたみおくんが照れる番。絶対目を合わせてくれない俯いた顔は、白肌にさくらんぼみたいな紅が際立ちクリームソーダより見入ってしまう。
    「こちらこそ、ありがとう。好きな事を共有するのってこんなにも嬉しくて、泣きそうになるくらい感動的なんだね」
    声の端が、感情を抑え切れずに震えて上擦る。そんな私を心配したのか、パッと此方を見てくれた彼の面持ちが益々涙腺を刺激していく。不安げな、けれど好奇心と羞恥心の入り乱れた熱った顔。今日見た景色の中で、一番綺麗だった。
    「大袈裟だよ。これからはもっと、色んな“好き”を一緒に味わっていこう?」
    これ以上、好きが加速したらどうすれば良いのか。いや、そんな思考はシャットアウト。


    もう、好きにして。






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    ひなげし

    DONEキメ学軸の自鬼小説。以前、相互様が描いて下さったイラストを基に放課後の他愛ないお話を書かせて頂きました。狂蠱ちゃん、むら鬼ちゃん、そしてヒナギクの日常。
    キメ学自鬼小説 『放課後アソーテッドスノー』 ──ゴールド、グリーン、ピンクとアクア。キャンバス疾る平行線、交差するのは角を曲がったあのお店。




     普段の授業なんてものは正直、まともに受けたためしがない。頭の中で、執筆中の構想を練りながら適当にやり過ごす。窓際の一番最後の席。考え事をするにはもってこいのこの席で、学生らしからぬ不健全な妄想を企て頭に花を咲かせる。締切も近いし、早く仕上げなければならない。そんな様子に気付いたのか、先生が時折指名して来るけれど何ら問題はない。文字を考えるのが私の仕事のようなものだから、黒板の問いを読み解いて上手く言葉を紡げば良い。今日も悔しそうに着席を促す先生の顔を、内心嘲笑してやりながらスカートを整えつつ席に座る。この下らない授業が終われば、やっと自由の身だ。やっと本当の私になれる。窓の外を見ると、グラウンドが白く染まって銀色の非日常があった。年に数回、降るか降らないかの土地柄だから物珍しさに視線が勝手に吸い取られていく。幸いにも、しんしんと降り積もる雪は止んで何とか放課後集まれそうだ。ホームルームで担任が「足元に気を付けるように」なんて当たり前の事を言う。もう少しまともな言葉を考えられないのか、いや、仮にそうだとしたらこんな職には就いていないか。悪態を吐いて相変わらず窓の外を眺めていると思いの外暇潰しになったらしい、チャイムが鳴って生徒達が一斉に下校し始めた。読み掛けの本を机から引っ張り出して鞄に入れながら席を立つ。コートを羽織ってマフラーを巻いていたらクラスの女子数人に、お茶でもどうかと誘われた。生憎今日は先客が居る、こんな雪の中でも会いに行きたい程の先客なのだ。目の前の彼女達には悪いけれど丁重にお断りし、いつになるのやら分からない“また今度”をして教室を後にする。冷え込んだ廊下は、普段よりも賑わっていて歩きづらい。部活動のバックを背負った生徒がチラホラ見えて、成る程流石にあのグラウンドでは中止になったのだと悟る。一階の下駄箱まで辿り着き、自分の扉を開けると色取り取りにラッピングされたお菓子やら雑貨やらが御出ましになって中々靴を取らせてくれない。
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    ひなげし

    DONE自鬼小説。狂ヒナで書かせて頂きました。
    狂蠱様とヒナギクの出会いから、合わせ技(混成血鬼術)が生まれるまでのお話。
    ※前半、魘夢さん出てきます。後半、狂ヒナでかなり触れていますのでご注意下さい。
    自鬼小説『重なり』 いつか崩れていくとしても、重なり合う、僅かに開いた隙間から。




    「ねえ」
    いつもの声が聞こえて振り返る。
    私は相変わらず霊園で出会した餌を苗床にして、のらりくらり喰い繋いでいた。自分の狩場でも無い癖に。
    「あら、魘夢さん。私の元にいらっしゃるという事は、御身体が寂しいのかしら?」
    「…………お前は本当に頭の中がお花畑で愚かだねぇ。違うよ。今日はお願いがあって此処に来たんだ」
    普段ならば、特訓と称して媾い合う頃だ。
    私は他の鬼とは少し事情が違っている。鬼の長であり全ての始まり、“あの方”から直々に血を戴いてはいない。“あの方”の寵を受ける鬼は特別に配下を作る事を許されており、配下にされた者は術や容貌、仕草や考え方に至るまで主であるその鬼に与えられる事となる。上弦の鬼であれば自身の血を一時的に“あの方”の血へと昇華出来るが、それ以外の階級の低い鬼は不可能な為、人間に直接そのまま流し込むのだ。それは言ってしまえば、“あの方”の血が極端に薄く支配される範囲もごく僅か、それ故に主である鬼は配下に対して自身の嗜好を一定量植え付ける事が出来る。但し、鬼としての力も脆弱だから各々特訓が必要なのである。
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