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    case669

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    ファレレオワンドロ
    【初めてのキス】【体温】

    ##兄レオ

    国の代名詞でもある、燃え尽きる直前のような鮮やかな紅蓮に染まった王の寝室。空の色に負けない立派な鬣の海に眠る穏やかな顔。馬乗りになった身体は、まだ暖かかった。
    こんなにも穏やかな気持ちで兄の顔を見るのはいつぶりだろうか。
    秀でた額から、意思の強さをうかがわせる太い眉を撫で、堀の深い鼻梁を通って唇へと指先が触れる。まだ柔らかい。この唇がたくさんの言葉を紡ぐのを聞いた。良いことも、悪いことも、此処から溢れだした音はいつだってレオナの心を乱した。それも、もう二度と聞くことは無い。
    その唇よりも雄弁だった兄の二つの瞳は今や目蓋の向こうに封じられた。二度とレオナを映すことはない。レオナ以外を映すこともない。最期にレオナだけを焼き付けて伏せられた目蓋に、自然と唇を寄せていた。二度と開くことが無いようにと、子供騙しのようなおまじない。ちぅと微かな音を立てて啄み、離れてもその目蓋は伏せられたままで、そういえばこの男は死んだのだなと何処か他人事のように思う。この距離にレオナが在るのに、ただ静かに動かないままの兄が少しだけ慣れなくて、少しだけおかしかった。
    兄は、死んだ。レオナが殺した。
    きっと今頃、兄の命の灯火が消えたことに気付いた呪師たちが慌てふためいていることだろう。すぐにこの部屋にもやってくるに違いない。
    幸せな時間は長くは続かない。だが後悔は無かった。今ここにあるのはレオナと、あとはただ朽ちるだけの国王だったモノだけ。額を重ねれば、夕焼けの海にレオナの夜が訪れる。
    間近の兄は、動かない。レオナが何をしても、何も言わない。二度とレオナを知ることは無い。
    だから、初めてレオナから唇を重ねた。柔らかな縁を食み、歯を抉じ開けるように舌を潜り込ませて動かぬ粘膜を絡ませる。応えが無いことだけは物足りなかったが、自らの意思で求めた兄の唇に夢中になって味わう。たぶん、ずっとこうしたかったのだと思う。
    やがて、遠くに重々しい複数の足音がこの部屋を目指しているのを聞く。タイムリミットはすぐそこまで迫っていた。あえかな水音を残して離れてから、名残惜しさに頬を一撫でし、そうしてポケットに潜ませていた魔法石を握り締める。レオナが15の誕生日の時に兄からもらった宝物。一度も使うこと無く引き出しの奥に仕舞われていたが、ついに活用するに相応しい舞台が整った。
    レオナは兄だったものも、レオナ自身も、他の有象無象に奪わせる気はない。近付く足音を聞きながら、自分の内側へと意識を集中させてゆく。
    「俺こそが飢え、俺こそが渇き――――」



    目を空けた視界に映る見慣れた天井、それから滲んだオレンジ色。余りにも急激な覚醒に理解が追い付かずにやけに重い目蓋を瞬いていると、オレンジ色が近付いてきてレオナの目元へと覆い被さろうとするので反射的に押し退ける。
    「……うぜぇ」
    「つれないね、魘されていたから慰めてあげようと思ったのに」
    滲む視界をどうにかしようと乱雑に腕で目元を拭えばそこはぐっしょりと濡れ、こめかみまで伝っていた。
    「そんな擦るんじゃない」
    そう言ってレオナの腕を取った兄が、懲りもせずに唇を重ねようと近付くので顔を背けて逃れる。
    「そういうの求めてんなら義姉貴んトコに帰れよ」
    「お前とだってしたい」
    「俺はテメェのちんぽ以外に用は無ぇよ」
    「そうかい?ならご期待に応えなければね」
    そう言ってにこにことレオナをまさぐり始めた兄に選択を間違えた事に気付くが、このやる気になってしまった話の通じない男と今更押し問答をするのも面倒で、ため息一つで身を委ねる。
    「そう言えば、どんな悪夢を見たんだい?」
    「……覚えてねぇよ」
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    やなぎ くみこ

    DONE #かなすな_二時間の宴 「信じられない」
    カリジャミの子供、ジェレミーが出てきます(名前は某アニメでアラジンとジーニーをモチーフにしているキャラから拝借しました)
    ナチュラルに男体妊娠させてます
    信じられない アジーム家の当主、カリム•アルアジームの嫡男であるジェレミー•アルアジームに、母親はいない。


    「またジェレミー様が消えた!」
    「探せ探せ! きっと宝物庫にいるはずだ!」
     ジェレミーにとって家はダンジョンとほぼ同義だ。入り組んだ廊下、宝物の数々。そして執事や使用人はモンスターで、間違って鉢合ってしまえばその場で戦闘だ。大体彼らの方が達者で見つかれば即勉強部屋に戻されてしまったり、安全な場所に連れて行かれてしまうのでジェレミーは極力見つからないように息を潜め、足音を立てぬよう細心の注意を払って屋敷中を駆け巡る。
     奴らは目敏いが隠れることに関しては自分の方が上だと自負しているジェレミーは、今日も人の気配を察してサッと身を隠す。自分を探しているであろう相手が数歩右往左往する足音がジェレミーの耳を喜ばせた。暗闇の中で小さくなったまま「クププ」とほくそ笑み、そろそろ違う場所に移動しようかと脚を伸ばしたとき、被っていた壺がスポッとどこかへ行ってしまった。
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