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    case669

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    【セッしないと出れない部屋】1.恋心芽生える前のレオジャミ
    前にぼやいたやつ…せっくすせっくすうるせーけどすけべ要素は一切ありません…すけべは…長丁場になりそうなので…書くかわかんないです…ってことでぽいぽい

    ##レオジャミ

    壁も床も天井までもが真っ白な部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッド。
    気が付けばレオナとジャミルはそのベッドの上に座っていた。
    二人の間には「セックスしないと出られない部屋」と題された冊子が一冊。
    「………」
    知らずお互い視線を合わせて見つめ合い、そして同じタイミングで顔を顰めた。
    「心当たりは?」
    「あるわけないでしょう」
    「此処に来るまでの記憶は?」
    「残念ながら何も覚えていませんね」
    話ながらもレオナが冊子を手に取りぱらぱらと文字を追い、一緒に覗き込むのも憚られてジャミルは辺りを見渡す。広さは10メートル四方程度だろうか。ベッドの他にはやはり真っ白なチェストが意味ありげにベッドの傍にあるだけ。窓も扉も無く、温度湿度はちょうど良い。二人とも寮服を纏っていて、此処に来るまで何をしていたのか全く記憶が無い。
    読み終えたらしきレオナが舌打ちと共に冊子をジャミルの方へと投げながら立ち上がり、マジペンを手に壁に触れると何か呪文のようなものを唱えていた。それを横目にジャミルも冊子を手に取り一通り目を通す。
    セックスしないと出られない部屋。セックスとは対象者Aの肛門より対象者Bのペニスを挿入し、内部で射精を果たす事。この場合対象者Aの射精の有無は問われず、また対象者AとBをどちらが受け持つかは不問。
    無事にセックスが行われた時、対象者は元の場所に即座に転移する。
    「……なんですかこれ……」
    「知るかよ。テメェもぼさっとしてねえで出る方法探せ」
    ジャミルを振り返りもせずに告げたレオナは相変わらず壁に向かって手を押し付けていた。
    「そういう先輩は何してるんですか」
    「コードの言語を特定している」
    「解読出来るんですか?」
    「俺の知ってる言語ならな」
    三年で習う分野なのかそれともレオナの特殊技能なのかはわからないが手伝えることはなさそうだと判断してジャミルはチェストに近付いて引き出しを開ける。一番上の段には液体がなみなみと入った小瓶がぎっしりと詰められていた。一つ手に取ってみると側面には丁寧に成分と効能が書かれていて、そのどれもが媚薬や精力剤の類でますますジャミルの顔は顰められる。中には違法な興奮剤や幻覚を見るタイプの物まであり、これを使ってどうにかセックスをしろという意図があからさまだった。
    二段目の段には各種ローションと大小さまざまなコンドーム。セックスしろと強要はするがセーフセックスには気を遣うかのような品揃えに眩暈を覚える。
    その時、パシュンと空気が抜けるような音と共に壁が光り、それから一面に魔力の文字が浮かび上がった。
    「……解読成功、ですか?」
    「それはこれからだ」
    「すごいですね、これがこの部屋の魔法のコードですか?」
    「正確にはコードの魔法が部屋を作っているだけだ。ボロがあればそこから崩して出られる」
    壁だけと言わず、チェストにもベッドにも、レオナとジャミルにすら文字が浮かんでいる。よく見ればジャミルも習った事のある古語のようだ。ひとまずチェストは元に戻し、ジャミルもレオナに倣って解読に入ることにする。


    数分後。
    「腹立つくらいにシンプル過ぎてボロが無え」
    「脱出の鍵は条件を満たす事のみ、それが無い限りはこの魔法の創造主ですら内部に関与出来ず、内部からも外に出られないって、それならこの魔法の創造主は何がしたいんですか?」
    「頭イカレてるやつの考えなんざ知るかよ」
    どっかりと大の字になってベッドの上に寝転がったレオナは苛々しているようだった。突然、さほど仲良くもない後輩とセックスしろと言われれば誰でもそうなるだろう。ジャミルとて胃の底がむかむかしている。だが。
    「私怨による犯行にしては……現場を録画して弱みとして握るならまだしもそれは不可能なようですし……」
    「こういうわけわからんのは大抵愉快犯だろ」
    「何が面白いんですか」
    「俺がわかるわけねえだろうが」
    「でも」
    「外界から完全に遮断された亜空間で出来る事なんざねえよ。探偵ごっこしてぇなら出てからにしろ」
    「その「出た」ところで犯人による新たな襲撃がある可能性はありませんか?」
    「そもそも俺たちはどんな状況で此処に来たかもわかってねぇんだ。出たら仲良く牢屋で拘束されてる可能性だって否定出来ねえ」
    「だったらなおさら対策を考えないと」
    「此処から出ることすら出来てねえ状態で何の対策を練るんだよ。優先順位考えろ」
    「じゃあしますか?セックス」
    レオナの言葉が止まり、その目はただ天井を映していた。何かを思案するような間、ジャミルはただ唇をへの字にして待つしかない。
    無音が流れたのはそう長い時間では無かった。はあ、と重苦しい溜息のあと、ごろりと向きを変えたレオナが頬杖をついてジャミルを見た。
    「するしかねえだろうが……そもそもお前、男としたことあるのか?」
    「あるわけないでしょう」
    「じゃあ男相手に勃つか?」
    「俺の性的嗜好は異性愛なので経験はありませんね。でもこの場合、挿入される側になるのは俺でしょうから先輩さえどうにか勃起していただければ問題ないのでは?」
    「へぇ、自らケツを差し出すのか」
    「どれだけ怠惰で自分勝手な先輩でも、王族様にそんな事させられないでしょう」
    「っは、いい心がけだ。ただ生憎と俺も同性には興味無くてな」
    「あっちのチェストに各種薬が揃っていましたよ。合法なものから違法な物まで」
    「用意の良さに反吐が出るな」
    「毒見が必要であれば俺がしますよ。出来れば違法な物は使いたくないですが」
    「ジャミル」
    レオナが、初めて名を呼んだ。その声は何処か呆れたような、諦めたような、笑いを含んだものだった。
    のっそりと身を起こしたレオナが胡坐を組んで座る。そして人差し指一本でジャミルを呼ぶ。
    「……なんですか」
    今までだって、同じベッドの上、大して離れた場所に居たわけでは無かった。それをさらににじり寄り、レオナの目が許す場所まで近付いて同じく胡坐を組む。膝が触れそうな程に近かった。
    「手、出せ」
    言いながら、レオナの両の掌が差し出されていた。その上に手を乗せろと言わんばかりに。
    「はあ……」
    同性同士で手を重ねる事への忌避感は拭えなかったが、拒絶出来る理由をジャミルは持ち合わせていなかった。そっと一回り大きな掌の上に自分の両手を置くと、皮手袋越しにも高い体温が見た目を裏切って優しくジャミルの手を握った。
    「テメェは、俺がヤクでもなんでもキめて無理矢理おっ勃たせてテメェに突っ込めばセックスだと思ってるみてぇだけどな」
    ジャミルの手の甲を、滑らかで暖かな皮がそっと撫でる、ただそれだけだった。それだけなのに、落ち着かない気持ちになる。他人と手を繋ぐなんて、最後にいつしたかも覚えていないくらいに昔の記憶だ。
    「そういうのはレイプって言うんだ。セックスじゃねえ」
    「でも、冊子に書いてある限りでは、それでもセックスと認められる筈です」
    「知ったこっちゃねえよ」
    「じゃあどうしろと」
    「俺を好きになれとは言わねえが、拒絶するな。受け入れろ。テメェが嫌がる事はしねぇよ」
    気付けば、先ほどよりもレオナとの距離が縮まっていた。綺麗な顔が吐息の触れそうな程近くにある。心なしかジャミルの鼓動が早まっていた。
    「な、……んだか口説かれてるみたいです」
    「口説いてんだろうが。セックスはもう始まってんだよ」
    「は、」
    軽く、握られた手を引っ張られただけだった。普段ならば簡単に拒絶し、振り払えるほどの弱い力。それなのにジャミルの身体はいとも簡単にレオナの方に倒れ込み、はからずとも真正面から抱き着くような形になってしまった。ジャミルよりも一回り大きな体は確かにいかつい男の身体である筈なのに心臓が跳ねる。
    「で、俺に抱かれる覚悟は決まったか?」
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