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    yama

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    yama

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    「それは人を〜」の続き。
    親友以上恋人未満の丹穹の背中を押したい桂乃芬。
    (桂乃芬視点)

    💚💛それを人は恋と呼ぶ 2「よし、これくらいかな……」
     ロケーションも企画も絶対に最高だと思ったライブ配信を終えて、満足のいく結果にあたしは頷いて溜息をつく。昼から始めた配信も数時間経って、気付けば夜になり、様々な動物や花を模した灯りが点く時間になってた。
     今夜の金人巷は、いつもより華やかでふわふわした可愛い色合いに満ちてる。行き交う人も、普段の年齢層と比べるとかなり若いし、圧倒的に男女二人連れ──つまり、恋人たちが多い。
     もちろん、屋台で酔っ払うおじさんたちもいるけど。
     答えは簡単で、金人巷に最新のトレンドを取り入れたカップル向けの屋台やお店のオープンが重なったから。
     あたしはその新しいお店たちの紹介をするオファーをもらって、各店舗での撮影を終えたばかりだった。思いつきの企画でお客さんに割引チケットを獲得してもらうための簡単なゲームしてもらったけど、それも大成功だったと思う。
     登録者数もさらに増えたし、金人巷に寄付するための投げ銭も五本指に入るくらいの高額を叩き出した。リアルタイムランキングもSNSのトレンドも一位で、これ以上ないくらいの満足感に高揚してる。
     とは言え、インフルエンサーとして認知度が上がったとは言っても、撮影と取材が終わってしまえば、恋する者たちの前ではただの通行人でしかない。
     邪魔にならないように手早く機材を片付けながら、すっかり夕飯を食べ損ねて不満そうにぐぅ、と唸るお腹を撫でる。
     サイトにアップするための編集作業は夜に回して、取り敢えず休憩しようとクレープを買った。けど、周りは恋人たちだらけ。一人でいるあたしは場違いすぎるテーブル席を諦めて、すごすごと店の外に出た。
     お行儀が悪いとは思いつつも、可愛い装飾を施された通りを歩きながら、バターが練り込まれたサクサクの生地を堪能する。口の中に広がる甘さに頬が自然と緩んだ。
     声援をくれる子たちにファンサで応えながら半分ほど食べたあたりで、恋人と寄り添う灰色の髪の人とすれ違った。色合いは少し違うけど、その髪色は照れ屋な恋するナナシビトの少年のことをふと思い出させる。
     あの鱗淵境での撮影以来、彼は忙しく銀河を飛び回っているみたいで、手伝いをお願いする機会に恵まれてなかった。
     動画観たよ!って律儀にメッセージやコメントをくれるから、元気でいるのは知ってるけど。
     あの夜、相手の気持ちがわからない、なんて言いながらも絶対に恋する者の顔をしていた穹。件の親友の彼との関係に進展はあったのかな、って仲睦まじく寄り添う恋人たちを見て思う。
     すーちゃんには「あんまり人の恋路に首突っ込んだらだめだよ」って言われてるけど、気になりだしたらそわそわしてきた。宿に戻ったら連絡してみようかな。
     そう考えながら歩いてたら、酒瓶を片手に近付いてきた酔っ払いのおじさんに押されて、あたしはふらついた。
     無情にも手からすり抜けてくクレープに気を取られたせいで、誰かにぶつかってしまう。けど、弾かれて飛ばされることなく、その誰かにしっかりと支えられた。
    「ごめんなさい……!」
    「こちらこそすまない。怪我は」
    「大丈夫、ないで、す……えっ?」
     反射的に頭を下げたあたしは、ぶつかった相手の顔を見てぽかんと口を開く。相手も同じように瞠目した。
    「た、丹恒くん⁉︎」
    「……桂乃芬、さん?」
     驚いた。だって、あたしが一度会った時のナナシビトとしての彼の姿とは違ってたから。顔を見上げてなかったら、多分気付かなかった。
     違う部分はたくさんあるけど、一番違うポイントは髪型だ。普段の彼は前髪で目が隠れ気味だけど、片方だけ耳に掛けたセットは顔立ちがはっきり見えてる。
    (い、イケメンだ〜!!)
     これは並のイケメンのカテゴリを超越してるな、って見惚れてたら、支えてくれるだけでなく、不必要に触れない配慮をしながらもベンチに座らせてくれた。エスコートまで完璧すぎる。
     やることなすことスマートすぎやしない?なんて思う。
     さっきから遠巻きにこっちを見てる女の子たちが、丹恒くんが動くたびにキャーキャー騒いでて、その気持ちは痛いほどわかる。顔良し所作良しの青年がいたら目で追っちゃうよね。
     イケメンな丹恒くんはというと、すぐそばにあった屋台から仙人爽快茶を買ってあたしに「どうぞ」って渡してくれた。あたしが恐縮する暇を与えずに、「丁度飲みたいと思っていたから」って微笑みながら。行動までイケメンすぎる。欠点が見当たらない。
    「ありがとう。助けてもらったのに、さらにご馳走してもらっちゃって」
    「気にしないでくれ。穹のことに関しての礼も、まだしていなかったから」
    「そんな……」
     あたしが無理に穹にお願いしてたことなのに。どこまで出来た人なんだろう。奢ってもらった仙人爽快茶をありがたくいただきながら、横に座って同じようにストローに口をつける横顔を見た。
     涼しげで感情は読み取れないけど、丹恒くんは隣にいると落ち着きを感じさせる雰囲気を持ってる。無言でも苦手を感じさせない空気感は、どこか穹と似てる気がした。どっちがそうさせてるのかはわかんないけど、気の合う者同士は一緒にいると似る、を穹と丹恒くんは体現してると思う。
     それにしても。明らかにめかし込んでるところを見ると、これはもうアレよね、ってそわそわしてくる。
     ナナシビトとしての任務や依頼の最中じゃないよね、って訊きたい好奇心がむくむくと湧いてきてるし、自分の中のわくわく感を抑えきれる自信がなくなってきてた。
     訊くだけ野暮なのはわかるよ。こんなお洒落して、肉汁たっぷりの串焼きを食べに行くだなんてきっと有り得ない。かと言って、日頃忙しい二人がアンテナを張ってデートプランを練ってるのか心配になる。穹から聞いたことのあるデートコースは、あくまでも親友としての域を出てなかったから。
     うっかりしたらまろび出てきそうな好奇心を抑えながらどう切り出そうか悩んでると、丹恒くんのスマホがぽぽん、と鳴った。ポケットから取り出して操作すると、丹恒くんがふと考えるように眉を寄せる。
    「……待ち合わせ?」
    「ああ、今から穹と……だが、どこの店に行くかをまだ迷っているようで。俺も屋台くらいしか寄らないからどうしたものかと思っているところなんだ」
     丹恒くんが苦笑しながら口にした言葉を訊いて、「へぇ、そうなんだ」と相槌を打ちながら、あたしは脳内で両手を天に突き上げて歓声をあげた。表情筋が緩くなるのを止める努力を放棄したい。
     やっぱりあの時のあたしの勘は正しかった。
     かつての相談者Aとその親友であるBは、晴れてくっついたんだってわかったから。この確定事項に心のニヤニヤは止まらない。
     それと、こうなったら今日の取材で得た情報を駆使して、あたしが二人のデートを助けてあげるんだ、ってやる気が満ち溢れてきてた。
    「ねぇ、丹恒くん。助けてくれて仙人爽快茶まで奢って貰っちゃったあたしからのお礼、受け取ってくれない?」
     損はさせないよ!って囁いたら、突然の提案にきょとんとしてたけど、少し考えてから丹恒くんはこくりと頷いてくれた。
     穹が好みそうなスイーツを提供してるお店と、丹恒くんに似合いそうな落ち着いた雰囲気のお店の地図。それと、オープンイベント後にお店の人から貰ってたクーポンをスマホに送ったあたしは、時間だから、とベンチを立った丹恒くんの背中を見送る。
     一度振り向いた彼に手を振ると、ぺこ、と頭を下げた。律儀で真面目なところはすごくかわいい。かっこいいのにかわいいという、最高のギャップ。なんて罪作り。
    「デート頑張ってねー!!」
     あっという間に頭しか見えなくなった後ろ姿に向けた声は、きっと届いてると思う。柔らかく口元を緩めてるのか、それとも頬を染めて聞こえてないふりをしてるか、わからないけど。
     それはともかく。あとはあれ。穹が問題。
    「穹、大丈夫かなあの子。今日の丹恒くん、いつも以上にかっこよすぎるもんね」
     多分だけど、あんな丹恒くんを見たらすごい挙動不審になると思うし、ずっと落ち着かないだろうし、もしかしたら顔を見られないかもしれない。でも丹恒くんには、そんな姿も全部かわいく見えちゃうんだろうな。
     何はともあれ、二人が幸せならそれが一番。
     今度メッセージでデートのことを聞いてみようとにまにましながら、「教えてくれたお礼に」とさらに奢ってもらったクレープをありがたくいただいた。
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