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    Zedek_FF14

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    Zedek_FF14

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    シャウラくん曇らせ?SSとある町の喫茶店の一角。
    周りの者達が話に花を咲かせながらティータイムを楽しむ中、
    商人風のヒューラン族の男と、冒険者風のヴィエラ族の青年は、茶会と呼ぶにはいささか殺伐とした雰囲気を出しながら向かい合っている。

    黒紫を基調としたスーツを身に纏った男は無言でコーヒーの香りを嗅いでいるが、青年の方はテーブルに置かれた茶に一口も付けることなく、眼前の男を見据えている。

    ―――が、男が刺さるような視線を意に介することは無く、洋菓子を手に取って口に放り込み、コーヒーを流し込むという行為を交互に繰り返し楽しんでいた。


    「いい加減、キミの結論を述べて欲しいのだが」
    痺れを切らしたヴィエラ族の青年、シャウラ・ルーラーは眼前の男に口火を切った。
    その言葉には淡い期待と、焦りを滲ませている。

    男は目を細めると、コーヒーカップをソーサーの上に置き、青年の眼を覗き込む。
    青年が何を考えているのかを察した男は、”ああ、やっぱりか”という呆れ顔を、瞬時で真顔に切り替え、滔々と話し始める。

    「なら簡潔に。絶霊病の治療法は無い。北洋から東方諸国の流通ルートで一通り聞いては見たがね」
    この商人は、シャウラ・ルーラーという存在が心の底で淡い期待を抱いていることを見透かしている。
    そしてその期待が彼の原動力になっている事も、男は気づいている。

    だからこそ冷徹に、そして淡々と彼の希望を打ち砕く。
    何故ならば期待というのは殆どの事柄において裏切られるモノであり、その苦痛を彼は”何者よりも知っている”。
    全身を苛む痛みから解放される事を願い、忌み嫌う薬に手を染め、それでも尚解放に至らず希望を打ち砕かれ続けた彼だからこそ、この青年の淡い期待を、希望を此処で壊しておく事が本当の意味で慈悲であると、彼は考えた。

    「・・・そうか」

    青年は声色を変えず、冷静に返答する。
    しかし、その目の輝きが一瞬濁ったのを、男は見逃さなかった。

    「ま、そこは君も薄々理解していたと思うがね。俺としては魔法の事はすっぱりと忘れて、別の事に専念することをお勧めするよ」
    「君に言われなくても既にそうしている」
    「ほう」

    男は席を立ちあがると、青年の周りを一巡し、食い入る用に凝視した。
    腰には片手用の細剣が差さっており、そして背中には比較的大振りの盾が添えられている。
    また細身ではあるが、成程確かに満遍なく鍛えられてはいるようだ。
    だけど同時に彼は、青年の致命的な問題に気付くと、こめかみに手を当てながら、再び元の座席に腰を下ろした。

    「君の考えている事は理解しよう、何故なら俺も通った道だからな。大方、魔法が使えないから身体面を強化しようと思ったのだろうが・・・」

    男は哀れみを含めた表情でたった一言、吐き捨てた。

    「君、剣術も向いてないよ」
    「―――は?」

    ―――
    ――


    人目のない、荒れ果てた広場。
    険悪な二人組は、剣を携えて中央に佇んでいる。
    が、商人風の男はいつの間にか着替えたのであろうか、黒と金を基調とした装いへと姿を変え、その背には禍々しい大剣が担がれている。

    「後悔するなよ。こういう事態を招いたのは、キミの言動が原因だ」
    「無論、理解しているとも。ああでも、後悔するのは俺ではなく君の方かもしれんがね」

    怪訝な顔をして、青年は男を睨みつける。

    「どういう意味かな」
    「どういうも何も、”これから君のプライドをズタボロにするかもしれないが悪しからずご了承ください”という意味だが」
    「こんな状況になってもよく減らず口を叩けるね。病気じゃない?」
    「かもな」

    男は背の大剣をゆっくりと引き抜き、右手で握り込んだ。
    だが、どうやら身体が慣れていないのであろう。
    大剣の重みで身体が右側に逸れ始め、男自身も苦痛で顔を歪めている。

    「知っての通り病人でね。だから剣を振れるのは一度だけだ」
    「・・・どこまでオレを馬鹿にすれば、気が済むんだ?」

    剣を握る強さが一層強くなったのだろう、柄から軋む音が響き渡る。

    「馬鹿にはしてない、少なくとも今の君には十分すぎると思っているよ」
    「―――」

    もう会話する気も失せたのだろう。
    ヴィエラの青年は目を細めると剣と盾を引き抜き、臨戦態勢に入る。

    一呼吸し、右足に力を入れる。

    「はぁッ!!」

    そして、格闘士の如き素早さで距離を詰めると、横一文字の胴切を以て勝負に決着を付けようとする。
    が、

    「気迫も、殺気も足りない。更に言うならば、目線の向きでどこを狙っているのかも明白で分かりやすい」

    男は大剣を地面に突き立て杖替わりにし、斬りかかる少年の右頬を目掛け飛び蹴りを浴びせる。
    すかさず左手の盾で直撃は避けたものの、衝撃で後方に吹き飛ばされ、膝を付く。

    「なッ!!」
    「おいおい、まさかこれ剣も要らないパターンか。流石に斜め下すぎるだろ」
    「・・・そんな挑発に、オレが乗ると思うのか」

    態勢を立て直したシャウラは挑発に乗ることなく、深呼吸をし心を落ち着かせる。

    敵を挑発し、誘い込み、絡め取る。
    ズェデクと名乗る男が用いる常套手段であり、嫌という程見てきた例のアレだ。
    だからこそ”乗ってたまるか”と、己自身に暗示をかけるようにし、男の言葉を遮断する。

    攻撃することに変わりはないが、今度は同じ轍は踏まない。
    冷静に、そして確実に、盾を前に構え走り出し、今一度距離を詰める。

    「ほぉ、考えたな」

    男が感嘆したのは言葉による誘導を退けたのもあるが、一番は盾を用いて身を隠し、斬り向かう箇所を限界まで悟らせないように隠蔽した青年の行動である。

    身体を盾で覆い隠されたことで、男は目線や体の向きといった視覚情報から、どこの箇所を狙われるのか推察することが困難となった事に加え、更に言えば、攻撃のタイミングも盾が前面に出ていることでより慎重にならざるを得なくなった為である。

    「これなら、キミの得意戦術も使えない!」
    「参ったね、ならば」

    青年が男の胴に剣を突き立てる刹那、彼の視界は一瞬にして黄土色に染まった。
    その正体は、男が右足で地面を蹴り上げ、盾の上から降り注ぐ形で青年の顔面に叩きつけられたモノ。
    要するに土である。

    「見え―――」
    「こういう絡め手は不慣れか?」

    咄嗟に左手で目を拭い、視界を取り戻そうとしたその瞬間、

    「そういう時は、先に距離を取るべきではないかね」

    男の左足から繰り出される蹴りが、青年の手に握られた盾を、右側からあっさり弾き飛ばし、
    更に蹴りで生じた遠心力を活かし、男は大剣を大きく振り被る。
    その構えは何の迷いもなく、そして絶命を齎そうと頸部を狙った袈裟斬りの構え。

    「ッ!!!」

    視力を取り戻し、男の構えに気づいた青年は咄嗟に右手で身を守ろうとするが、既に遅い。
    そのまま加速すればまず間違いなく少年の右腕と頸椎を両断するだろう。
    だが―――

    「な、一振りで十分だったろう?」

    男は両手剣を振り被った状態で動きを寸前で止め、そのまま背中のホルダーにしまい込んだ。

    ―――
    ――


    地面に座り込んだ男は、気だるそうに首を上げながら、佇んでいる青年に問いを投げる。

    「何故病人である俺が、君の盾を簡単に弾き飛ばせたのか、教えてやろうか」
    「・・・ああ、それは聞いておきたいかな」

    青年の目線は合わず、言葉に勢いは無い。
    どうやら勝てると思っていた相手に負けて、少し落ち込んでいるらしい。

    「盾に付いている傷の付き方だよ」
    「傷?」
    「左側面の傷の数が、右側面に比べて圧倒的に多い。これはつまり、必要以上に左半身を用いて、攻撃を受け止めている証拠に他ならない」
    「・・・そういえばキミ、武器商人だったね」

    男は目を細め、口角を上げた。
    だけどそれは皮肉めいた笑いではなく。同意を示すモノであった。

    「そこで俺はこう推察した。”シャウラ・ルーラーという人物は、右側面からの攻撃は受け慣れていないのではないか?”とね」

    男は持論を滔々と語り続ける。

    「が、これだけではあくまでも推察だ。だから俺は君の攻撃を観察した。身体の軸がどこにあるのか、剣と盾の角度、そして何より、目線がどこに向いているのかを念入りに」
    「・・・」

    口元に手を添え考え込みながら、男が戦闘中に積み上げたロジックを、青年は食い入るように聞いている。

    「そして確信に変わったのは、右頬に向けて放った蹴りへの対応が遅れた時だ。そういった積み上げを踏まえた上で改めて問うのだが・・・その右目、きちんと見えているのか?」

    この男の言動から察するに、大方右目が弱いことも感づいているのであろう。
    青年はそれを無言で肯定した上で、その先の問いを男に投げる。

    「要するにオレは、戦う前からキミの掌で踊らされてたと?・・・ならば猶更解せない、何故こんな真似をしたんだ?」
    「質問の意図がわからないが」

    駆け引きでもなんでもなく、純粋に青年の問いに困惑をしている。

    「聞き方を変えるよ。自分の利益を価値基準とするキミが何故、こんな1ギルにもならない事に時間を割いたんだ?最初から結果が分かっているなら、いつもの君なら説き伏せて、嘲笑って終わると思うんだけど」
    「ああ、要するにあれか。なぜ非生産的な真似をしたのかと聞いているのか」
    「そうだね」

    問いを受けた男は熟考を始める。
    確かに合理性を重視する男にとって、今回の行動は何の得にもならない。
    無駄に時間を割き、体力を消耗し、思考を割く非合理な行動。
    シャウラ・ルーラーという青年に問いを投げられるまで、己自身全く気付いていなかったのである。

    故に男は目を丸め、その問いへの答えに詰まってしまった。

    「確かに、何故だろうな。・・・何故だ?」
    「いやオレに聞かれても・・・」

    男の脳内では思考が巡る。
    ”何故非合理な行動に至ったのか”
    ”行動そのものに利が有ったか。否、身体的苦痛を増しただけである”
    ”ではシャウラ・ルーラーという人物に何かしらの意味があったのか。これも否、彼個人に特筆すべき才は無い”
    ”つまり眼前の青年に、利益を度外視した何かを感じたから行動に移した?・・・この俺が?”

    まぁ確かに親近感を抱く点は無くはない。
    病に苦しめられ、自分の望まぬ行動を強いられていること。
    その果てに、薬物に行き着いたこと。
    そして何より、”生きる事への執念、その証が刻まれたモノ”を好いているであろうこと。
    けれどそれこそ―――

    「いや、うん。・・・うん?なんだろうな、この感情は」
    「・・・?何をブツブツ言ってるんだ?キミは」

    自分の世界にのめり込み、周りが見えなくなっていた男はビクッっと驚いた反応を示し、フリーズする。

    「あ、あ~。まぁ俺も人間だからそういうこともあるよねって話だ。ところで、一つ頼みがあるのだが」
    「何かな」
    「運んでくれないか、動けん」
    「・・・・・・・」

    青年の白い眼差しが、男の身体を貫き続けた。
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