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    tsukiyubi2nd

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    tsukiyubi2nd

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    昨年のキスの日の明さにになりますが、リハビリがてら再掲します。

    手のひらで包むように修行から帰ってきた蛍丸を労うこと数日、明石国行は頭を抱えていた。

    「あのさ国行。俺、気になったんだけど」

    極の姿になった蛍丸は、出陣の支度を整えながら言い辛そうに明石へと切り出してくる。

    「主さん、最近国行のこと避けてない?」
    「……せやな」

    ついに蛍丸にもばれたか、と明石は天井を仰いだ。



    蛍丸が修行へ向かう少し前から、審神者とはあまり会えない日が続いていた。

    「蛍丸くんが修行に行ってしまったら、しばらく会えなくなるので、今のうちにしっかりお話しをしておいてください」

    主としての配慮に感謝しつつ、明石は来派の部屋で蛍丸や愛染国俊とゆっくり過ごしていた。

    蛍丸が出発した後は、国俊だけを部屋に残すのは偲びないと考えているのか、はなれからお呼びがかることは無かった。

    明石も、たまには国俊と二人でいるのも良いかと思っていたので文句はないが、結果として審神者と離れて過ごす日々がどんどん長引いている。

    いい加減会いに行っても良い頃合いなのでは、と明石は思う。

    しかし審神者は、「蛍丸くんは極めたばかりで不慣れなことも多いかと。私のことは気にせず、側にいてあげてください」と頑なに彼を招こうとしないのである。

    明石としては、こうもお呼びがかからないのはそれなりに寂しいのだが。
    果たして審神者は彼の内心に気づいているのかどうか。

    「…また何か、一人であれこれ考えてはるんやろなあ」

    明石の呟きに、隣にいた国俊は「そう思うんだったら側に行ってやれよ」と呆れた表情を浮かべた。



    審神者が執務室からはなれへ戻ると、玄関に明石国行の靴が揃えて置いてあった。

    …どうしよう。

    彼女が視線を彷徨わせている間に、明石がすたすたと廊下を歩いてくる。

    「お疲れさん。…邪魔させてもろてますけど、ええですか?」
    「…蛍丸くんと愛染くんは、」
    「あいつらなら粟田口の部屋でお泊まり会やで。今日はボードゲームで遊ぶんやって」
    「そうですか…」

    審神者の困ったような反応を見て、明石はやっぱり避けられていたかと苦く笑った。



    「で、何で主はんは自分を避けてはるんでっしゃろか?」

    審神者が部屋に戻るなり、明石は率直に切り出した。

    「…そのようなつもりは、無かったのですが…」
    「へえ、自覚なかったん?こっちはずうっと呼んでもらえんから、もう嫌われてしもたかと」
    「え!?」

    明石が物憂げに目を伏せると、審神者は分かりやすく慌て始めた。

    「ご、ごめんなさい。そんなことは全くないです…、その、……ごめんなさい」
    「謝られたいわけやないんやけどなあ。…突然避けられて、主はんは何を考えてはるんかなあって思っとったわ」

    審神者は困った顔のまま、あのですね、と話し出す。

    「最近、私は貴方に甘えすぎていたと反省しまして」
    「はあ」
    「来派の二振りから保護者である貴方を引き離すのは、主としてどうなのかとか、色々と考えてしまって」

    蛍丸の修行を切っ掛けに、主は彼らの状況に思いを馳せたらしい。

    頼っていた相手に、他に大切な人ができるのは寂しいことだからと言って、審神者は小さく俯いた。



    「成る程、大体分かりましたわ。主はん、」
    「…はい」

    審神者は俯いたまま、明石の言葉を待っている。

    「そういうことは、まず自分に相談してや」
    「はい…」
    「自分らのことを考えてくれたんは、おおきにな。まあでも、こっちはこっちでちゃんと時間作って話したりしてますんでお気遣いなく」

    「…すみませ、「はい、そこまで」」

    審神者の謝罪を遮って、明石は彼女の唇に人差し指を軽く当てた。

    「謝られるよか、甘やかして欲しいんやけど」

    な?と明石は人差し指で、今度は彼の唇をとんとん、と叩いた。



    これは困ったことになったと、審神者は明石から視線を逸らした。

    明石が彼女に何をして欲しいのかは分かるのだが、藪から棒に色々と考えたせいで頭の中が一杯一杯なのである。

    今は一応主として彼に向き合っていたつもりだったので、急に恋人としての対応を求められても気持ちがうまく切り替えられないと思う。

    明石はといえば、小首を傾げたまま笑って彼女を眺めるだけで何も言ってくれない。

    「あの、ちょっと待ってくださいね。心の準備をしますので」
    「嫌なんやろか?…悲しいわあ。自分、やっぱ嫌われたんかなあ」

    悲しいと言うわりに、明石は楽しそうだ。

    彼女が自分から明石に「そういうこと」をするのは大半が閨事の時ばかりだったので、今それを求められるのは少々困ってしまう。

    「ほ、ほっぺたではだめでしょうか…?」
    「んー?せやなあ、主はんがそうしたいんやったら、しゃあないですけど」

    彼の言葉を要約すると、頬では不満ということである。
    面白がられているのは分かるが、原因は彼女の行動にあるので文句を言う訳にもいかない。

    審神者は深く呼吸をしてから、意を決したように「目を閉じていてください」と呟いた。



    「………」

    明石が目を瞑って数秒間、審神者はじっと彼の顔を見つめていた。

    「……………まだやろか?」
    「…黙ってください」
    「はいはい。」

    今まさに挑戦しようとしていたのに、話しかけられると気持ちが萎んでいくのである。

    眺めていて、やっぱり明石はとても綺麗だと思う。

    触れるのを躊躇するほど端麗な顔立ちに、これからすることを考えて竦んでしまう。

    明石が聞いたら何を今更と笑われそうだけど、まだ明るい時間帯に彼の顔を見つめていると否応無しに思考が巡る。

    側にいるだけでも、本当は恐れ多いことのような気がするのに。

    これ以上考えたら何もできなくなると、審神者は腹を括って目を閉じた。



    「動かないでくださいね?」
    「はあい。」
    「…い、行きますよ?良いですね?」

    自分は何をされようとしてるんやろか。

    明石が突っ込みそうになった瞬間、唇に軽い痛みを感じた。
    思わず目を開けると、両手を口元に当てて慌てている審神者と視線が絡んだ。

    ああ、歯がぶつかったのかと明石は納得する。

    それと同時に、くすぐったいような笑いが込み上げてきた。



    しまった勢いをつけすぎた、と審神者は頬を染めて俯いた。

    だから、急かさないで欲しかったのに。

    半ば八つ当たりのようなことを考えながら、明石へ視線を向ける。

    「…へたくそやん…」

    揶揄するような言葉とは裏腹に、明石はとても穏やかに笑っていた。
    からかわれているのとは、少し違う気がする。

    「…これでも頑張ってみたのですが」
    「うん、そうやろな」

    ひとしきり笑ってから審神者を抱きしめると、明石は彼女の髪を優しく撫でた。

    「これが嬉しいんやから、自分、お安い男やなって。おかしなってしもうて」
    「なんだかとても失礼な事を言ってませんか?」
    「いやちっとも。寧ろ主はんを褒めてます。どんだけ下手でも喜ぶんやで?お得やないですか」

    うまく言い包められている、とは思うけど。

    「貴方が言うと、そんな気がしてきます。…そういうことにしておきます」
    「おおきになあ。で、主はん」
    「…はい」
    「仕切り直し、今度は自分からしてもええですか?」

    明石の言葉に、審神者は耳まで真っ赤になる。

    「優しくしてくださいね。…本当は、とても寂しかったです」

    明石は、ほんまにあかんお人やなと笑ってから、ゆっくりと彼女に口付けた。

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