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    しゃろ

    @syaro_ENTK

    BL二次創作小説だけ。今は宿虎メイン。

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    しゃろ

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    原作軸で『肌で温度を感じられない🐯』前提の宿虎。
    🐯が温度を感じられるのは👅の体温だけ。
    糖度が高い👅、くっつきたがり🐯、濃厚キス有り。
    色々と途中。

    #宿虎
    sukuita
    #宿虎好きと繋がりたい
    #腐術廻戦
    theArtOfTheRape

    その温度しか知らない「ぷはっ」

     宿儺に蹴り落とされ、赤黒い水溜まりに叩き落されたが、思った程ダメージを受け無かった虎杖は直ぐに四つん這いで身体を起こした。

    「完ペキ入ったと思ったのに」

     ぼそ、と独り言を言う虎杖の頭上に、影。

    「う゛ぼっ」

     丁度水溜まりの中で座っている状態になっていた虎杖の頭を踏み潰すように、降りて来た宿儺は虎杖の頭を再び水溜まりに沈めた。

    「ここはあの世ではない。俺の生得領域だ」

     水を飲みそうになり慌てて起き上がろうとするが、うつ伏せになった背中に宿儺が腰掛けてしまいそれは叶わなかった。
     悔しげに水の中で空気を吐き出してポコポコと気泡を発生させるが、そこで服越しに温かいものを感じて動きが止まった。

    「ん? あれ……?」

     虎杖は自分が筋力も体力も一般人離れしていることを自覚している。そして。その驚異的な身体能力の代償かのように、虎杖は肌で温度を感じることが出来ない体質だ。もっとも食べ物や飲み物の温度は分かるので、おそらく口の中に入れば温度を感じることは可能になる。なので熱い食べ物だと気付かずに火傷する、なんて事は起きたこともないが。

     虎杖は幼い頃に祖父と手を繋いだことがある。褒められる際に頭を不器用に撫でられたことがある。だが、その皺の目立つ骨ばった細くも大きな掌の温度を知らない。
     祖父だけではない。同級生と鬼ごっこをした時、触られた感触も触った感触もあるが相手の温度は分からなかった。犬や猫を撫でた時、その毛の柔らかさは分かってもその体温は分からない。虎杖は肌で温度を感じることは一切、全く、出来ないのだ。

     出来ない、はずだった。だが。

     ――…〝あったか、い〟?

     宿儺に背中に腰かけられた虎杖は、その背中に重さとは別の何かを感じていた。まるで温かい飲み物を口にした時のような、だが飲み物と比べるとその感覚は随分と鈍いものだった。ボヤけているかのようにはっきりと感じることは出来ない。だが、それからは確かな熱を感じられた。

    「ちょ、ちょっと待った!」
    「あ?」

     尚も説明を続けようとする宿儺の話を遮ると不機嫌そうな声と視線が返って来たが、虎杖にそれを気にしている余裕などなかった。
     この、自分に感じることが出来る熱が何なのか。ただそれを知りたくて仕方がなかった。

    「なぁ、1回退いてくんね?」
    「言っておくが、あのような騙し討ちは効かんぞ」
    「違うって もう暴れないし殴ろうともしないからさ!」
    「……いいだろう」

     この提案に、宿儺は〝また小僧が何か下らない事を目論んでいる〟と思った。だが、身体が起こせないためにどうにか持ち上げられる首を捻って自分の方を向いている琥珀玉には嘘も企みも見えず。

     そもそも、不意打ちを狙ったようだが殴る事も叶わないようなつまらない小僧の考え。どうせ大した事は出来ないだろうと気紛れに了承してやり、宿儺は腰を上げた。

     背中に乗っていた身体が退いたのが分かった虎杖は、背筋と腹筋だけで上体を起こして立ち上がると宿儺の方へと向き直ると無防備に両腕を緩く広げて歩み寄る。
     それを見ても宿儺は袖の中で腕組みをし、近付いて来る虎杖を観察するかのように目を細めて静かに眺めているだけだった。

    「ん」

     伸ばした腕を宿儺の背中に回してぎゅぅ、と抱きつく。腕組みしたままの上半身にぴたり、とくっ付いたので水を吸った制服から宿儺の着物に水分が写り水滲みが広がっていくが、虎杖がそれに気付いた様子はない。
     ただ、抱きついたまま目を閉じて。何かを感じていた。

     今の宿儺は虎杖に受肉をしているため、その姿は虎杖と鏡写しの様に瓜二つである。当然、身長も体格も虎杖と同じだ。
     そのためか、正面から抱き着いた虎杖は最初首を窄めて肩に顎を乗せていたがどうにも落ち着かないのか。
     背中を丸めて頭の位置を下げ、宿儺の鎖骨辺りに額を擦り付けてから襟巻きに顔をくっ付けるような体勢になった。
     落ち着ける体勢になったからかほぅ、と息を吐くと抱きつく腕に少し力を入れてもう一度ぎゅぅ、とした。

    「……何をしている?」

     虎杖の奇行とも取れる一連の行動を静かに眺め、されるがままになってやっていた宿儺がようやく口を開いた。
     つい先程心臓を抉り出し、虎杖を死なせた張本人である自分が何故今虎杖に抱きつかれているのか。理解出来ない状況に口をついたのは、嘲りでも侮蔑でもない、単純な疑問からの問いだった。

    「……やっぱりだ」

     宿儺の問い掛けは聞こえていたはずだというのに応えず、虎杖はどこかぼんやりとした様子で猫のように密着させた身体を擦り寄せた。

     この行動に困惑したのは宿儺だった。千年以上前の呪術全盛期の時を生き、受肉という形でこうして現代で目覚めた宿儺だが。
     生きていた頃も、呪物となってからも呪いとなった今も。自らを呪いの王と知って尚恐怖や打算を含まず、見返りを求めている訳でも偏見や奇妙な感性の押し付けでもなく。ただ純粋に懐かれる、という経験は初めての事だった。

    「おい、聞かんか」

     何を考えてこの様な行動を取るのか。いくら考えを巡らせても理解が追い付かず、宿儺が再度訊ねると。ようやく虎杖は僅かに頭を上げて宿儺を見た。

    「なあ! オマエ呪いなんだよな? 呪いってあったかいん?」
    「……何のことだ」

     背中を丸めて頭の位置を下げていたため、必然的に上目遣いで見上げてくる琥珀玉に興味と好奇の色が浮かべて尋ねられた問いに。宿儺は怪訝そうに返した。
     眉を歪め、片目を細めたその表情に自分の言った事がちゃんと伝わっていないと察した虎杖は、慌てて説明をした。

    「俺さ、あったかいとか冷たいとかよく分かんないんよ。触った感じは分かるけど温度にだけ触覚? ってのが鈍いんだって。でもオマエはあったかいって分かんの! なんで?」

     そう訊ねてキラキラと輝く琥珀玉に一切の疑念や敵意は無く。
     少なくともつい先程、身体の指導権を明け渡した際に伏黒とその式神を攻撃し、更には自分の心臓を抉り出して死なせた相手に向ける眼差しではないだろう、と宿儺にさえ思わせてしまう程のものだった。

    「……さあ、知らんな」
    「そっか……」

     温かい、と言われても宿儺にその様な現象の自覚は無い。そもそも生前であればまだ分からないが呪物と成り、呪いと成った今の自分に体温と呼べるものはあるのか。
     何より宿儺は虎杖が温度を感じられない特異体質である事も今、初めて知ったのだ。そんな宿儺に答えてやれる事は何も無かった。

     ただ。目を伏せて背中を丸め、さも残念だとばかりに気落ちした様子の虎杖に何故か心臓を鷲掴まれた様な奇妙な感覚を覚えた。

     だから、だろうか。

    「なあ、もうちょっと抱きついててもいい?」

     今までであれば下らないと一蹴していたであろう、虎杖からの頼み事を。

    「……好きにしろ」

     宿儺が代償も無く、すんなりと聞き入れてしまったのは。

    「! おうっ」

     一方の虎杖は。了承されるはずが無い、と半ば諦めの気持ちで申し出た〝抱きついていたい〟という頼み事を拒否されなかった事に素直に安堵し、喜んだ。
     心底嬉しそうに顔を緩め、その喜びを表すように先程よりも少し腕に力をいれて、強く抱きついた。
     目を合わせるために上げていた頭は宿儺の肩口に下ろし、そこに顔を埋めて甘えるように擦り付ける。

    「へへ、あったかいってこんな感じなんだな」
    「……」

     何となく、本当に何となく。宿儺は組んでいた腕を解き、虎杖の背に回してその背中に手を添えた。
     背中に回された手に一瞬驚いたのか目を見開いた虎杖だったが、宿儺の暖かさに包まれているのが余程落ち着くのかほぅ、と息を吐いて安心したように目を閉じた。

    「……あったけ」
    「そうか」

     呪いの王の腕の中が落ち着くなど、通常では有り得ない。宿儺は人間にとっても術師にとっても悪でしかなく、その強大な力は天災とすら言えるものだ。
     目の前で呼吸をする事すら生死に関わる。そんな存在の腕の中が落ち着くと宣うことの、なんと豪胆なことか。

    「……小僧。このままで良い、聞け」
    「うん。何?」

     自分は一体何をしているのか。何故この小僧に好き勝手を許しているのか。考える事を放棄した宿儺は虎杖の背中に腕を回したまま、当初の話の続きを伝えることにした。

    「オマエの心臓を治し生き返らせてやることは可能だが、条件がある」
    「生き返れんの」

     驚いてガバッと頭を上げて凝視してくる虎杖を横目でチラ、と見て、更に続ける。

    「条件がある、と言うているだろう」
    「……なんだよ、条件って」

     警戒するように眉間に皺を寄せ、睨みを利かせたが、未だ宿儺に抱きついたままその腕の中に収まっている虎杖の姿は。なんとも矛盾しているように見えた。

    「一つは俺が〝契闊〟と唱えたら一分間身体を明け渡すこと。そして小僧、オマエがこの約束を忘れることだ」
    「駄目だ」

     思いの外早い拒否に、宿儺は内心驚いた。理由はどうであれ、自分に抱きつくなどという行動を取った虎杖であれば、拒否をするにしてもまず悩むだろうと思っていたためだ。

    「考える余地も無く、か」
    「当たり前だろ! 宿儺がそんな約束するなんて何が目的か知らねぇがキナ臭すぎる」
    「キナ臭い、なァ」

     宿儺は意味有り気に嗤うと、虎杖の背中に添えていた手の片方を虎杖の後頭部へと伸ばして掴むと顔をぐっ、と近付けた。

    「俺の腕の中に収まり、落ち着き、剰え安堵の表情を浮かべて置きながらキナ臭い、なァ?」
    「ッ」

     宿儺が琥珀玉を覗き込んで嗤ってやると、虎杖は面白いほど顔を赤くし、それを隠したいのか再び宿儺の肩口に顔を埋めた。

    「うるせぇよ。それに……これは、それとは関係ないだろ」
    「ケヒッ」

     肩口に顔を埋めたまま、拗ねた子供のように言い返す虎杖に。宿儺は嘲りではない笑い声を零した。

    「関係ない、なァ。まあ構わんが。ではその一分間は誰も殺さんし傷つけんと約束してやろう」
    「……そんでも駄目だ」

     追加した内容に少し悩んだようだが、虎杖はやはり拒否をした。宿儺の腕の中で何やらもぞもぞと身じろぎ、一度は閉じた口を開く。

    「今あったこと全部忘れるんだろ? 宿儺があったかいって忘れるなら、駄目だ」

     肩口にグリグリと額を押し付けたまま、首を振って嫌だと伝えてくる虎杖に宿儺は目を細めた。
     だがそれは不快だからではなく、どちらかと言えば快に通ずる感情からだと、何となくだが宿儺は理解した。

    「ならば心臓を治してやった後で」
    「わっ、」

     虎杖の背中に添えていた手に、後頭部を掴んでいた手に、力を込めてぎゅっ、と強く抱き締めてやる。

    「こうして、一等優しく触れてやろう」
    「……ほんとに?」

     後頭部を押さえられているので頭を上げられず、どうにか首を動かして宿儺の顔を見上げた虎杖の琥珀玉には期待と喜びの色が浮かんでいた。

    「嗚呼。約束してやる」

     目を三日月型に歪め、口角を上げて嗤う呪いの王を見たところで。虎杖の意識は途絶えた。


        ◇


    「……なんだっけ」

     心臓が治り、五条の考えにより一時的に死んだことにし呪力操作の修行という名の映画鑑賞の一日目を終えた虎杖は、用意された部屋のベッドで横になったまま。ぼそ、と呟いた。

    「なんか、足りない気がする」

     布団の中で仰向けから横向き体勢を変え、背中を丸めて自分の身体を抱き締めるように両手でそれぞれの二の腕を掴む。
     それでも、何かが足りないという奇妙な感覚は拭えなかった。

    「なんだっけ、この感じ。……さむい?」

     思い当たった〝寒い〟という感覚に、首を傾げた。虎杖は温度が分からない。肌で熱い寒いを感じる事が出来ないのだから〝寒い〟なんて感覚は知らないはずだ。
     だが、今虎杖の身体は間違いなく〝寒い〟と訴え、埋めてくれる何かを求めて足りないと伝えてくる。

    「俺、なんでさむいなんて……」
    「小僧」

     訳も分からず布団の中で独り言を漏らす虎杖の耳に、あるいは脳内に、聞き慣れてしまった声が響いた。
     途端に、虎杖の意識はどこかに堕ちて行く。

    「ぅおおおおおおお」
    「喧しい」
    「へ……は なんで宿儺が」

     堕ちた、と思った先には宿儺がいた。どうやら虎杖は牛骨の上に落下しそうになっていたのを宿儺がパーカーのフードを掴んだことで止められたようだった。

     ――…コイツ、ほんとに俺と同じ身体かよ

     片腕で虎杖の体重も落下で掛かる重力も受け止め、支えきった宿儺に驚き目を見開いた。
     だが、直ぐに気を取り直して眉間に皺を寄せて睨み付けた。

    「てか何の用だよ。俺寝るとこだったんだけど」

     つい先日、自分の心臓を抉り出して死なせた相手だ。虎杖の態度は当然だった。はずだった。

    「ふむ。良し良し、しっかり忘れているな」

     宿儺は聞き取れない程の小声で何事かを呟くと虎杖を自分の目の前に下ろし、両腕を広げて伸ばし掛けたが。ふと、動きを止めた。

    「――え、ほんとに何なん?」

     奇妙なポーズで固まった宿儺を見て怪訝そうに虎杖が言う。
     一方。何事か考えていたらしい宿儺は目を三日月型に歪め、口角を上げて嗤いながら口を開く。

    「寒いのだろう? ほれ、こっちだ」
    「……なんで知ってんだよ」

     ギリ、と睨み付ける眼差しを鋭くした。虎杖が温度を感じられないことを知っているのは、身内であった祖父だけだった。
     高専の面々には話しておらず、況してや宿儺に教えるなんて有り得なかった。むしろ普段はそうだと察せられないよう、虎杖自身注意して行動していた程なのだ。
     もしや、自分の脳内を覗かれたのか? 将又何かしらの際に勘付かれたか? ぐるぐると答えの見えない考えが巡るが、今の虎杖にはこの同様を宿儺に知られないように振る舞う事しか出来なかった。

    「ケヒッ、さてなァ。……嗚呼、そう睨むな。そら」

     そう言うが早いか、宿儺は更に腕を伸ばして虎杖の背中に回した。〝温かい〟掌が背中に添えられ、促すが強制では無い力加減で宿儺の方へと背中を押された。

     ――…〝あったかい〟?

    「一等優しく、触れてやろうな」

     背中に添えられた掌の暖かさに驚き固まった虎杖は、何の抵抗もなく宿儺の胸に身体を預け、その腕の中に収まった。
     ぎゅっ、と強く抱き締めてやると驚いた虎杖が腕の中で跳ねた。当然だ。虎杖は〝温かい〟を感じたことがないのだから。
     そう、ないはずだった。

     ――…なんで。知らないのに。

    「なんで宿儺、あったかいん?」
    「さてなァ」
    「なんで、俺、宿儺のあったかいの、知ってるん?」

     〝温かい〟を知らないはずの虎杖の身体には、何故か宿儺に抱き締めされた暖かさに覚えがある気がした。

    「……さてな」

     背中を優しく擦る掌の暖かさが心地好くて、もっと沢山〝温かい〟を感じていたくて。虎杖は背中を丸めて首を窄め、甘えるように宿儺の肩口に額を擦りつけた。

    「……あったけ」

     宿儺の暖かさに包まれているのが余程落ち着くのかほぅ、と息を吐いて安心したように目を閉じた虎杖の頭に、宿儺は首を傾げるようにして頬擦りをした。

    「宿儺」

     ふいに、虎杖が口を開いた。

    「なんだ」

     宿儺は静かに、それに答える。

    「もうちょっと……このままでもいい?」

     額を肩口につけたまま、不安げな視線で宿儺を見上げて訊ねる。

    「好きにしろ」

     拒絶ではなく了承を得られて。目を見開いた虎杖は、ふにゃりと嬉しそうに顔を緩めて再び目を閉じた。
     おそるおそる腕を宿儺の背中に回し、少し迷った後、肩甲骨辺りの着物をきゅっ、と掴んだ。

    「……ん」

     宿儺の腕の中で落ち着き、宿儺の暖かさに安心した虎杖は。そのままゆっくりと意識を更に底の方へと堕としていく。
     いつの間にか背中から後頭部に移り、不器用に頭を撫でてくれる掌が酷く、優しくて心地好かった。


        ◇◇


     虎杖が映画鑑賞という名の修行を開始して早数日。目的であった呪力の制御も、少しずつではあるが精度が上がってきていた。
     修行のためにと用意された部屋の中から出ることが出来ないというのは決して便利ではなかっただ。生活に必要なものは全て揃えられていたので、極端な不便さを感じさせる事もなかった。

     虎杖はこの部屋の中では殆どの時間をソファーの上に座り、映画鑑賞をして呪力の制御を身体に叩き込み。
     就寝時間になればベッドに横になり、宿儺の生得領域を訪れてはその温かな腕の中に収まって眠る日々を過ごしていた。

     この生活が始まってからは。座ることを許された宿儺の膝の上に腰掛け、その身体に背中を預けて寄り掛かる。虎杖を宿儺が緩く抱き締めるのが当たり前になった。
     虎杖は寄り掛かった身体の温もりを感じられ、身体が触れていない部分も宿儺の腕に包まれているので寒さを感じることはなかった。

     ある日、虎杖はいつものように宿儺の膝に腰を下ろそうとして少し考えた後、横向きに宿儺の膝に腰掛けた。背中を預けていた胸に肩を預け、背中を丸め、鎖骨に頬を乗せて目を閉じる。

    「……なんだ」

     いつもと違う体勢で膝上に落ち着いた、横向きになったことで見えるようになった虎杖の顔を複眼だけで見下ろした宿儺が訊ねる。
     虎杖はゆっくりを目を開けると、片手を持ち上げて宿儺の着物の襟が合わさっている部分を軽く掴んでふにゃりと笑った。

    「顔が見えた方が落ち着くんよ。あと」

     そう言って、腰を捻って開いている手を宿儺の胴に回してぎゅぅ、と抱きつく。

    「俺だって抱きつきたい。……だめ?」

     宿儺は答える代わりに虎杖の頬に掌を添える。親指を顎の下に滑り込ませて下顎を押し、自分の方を向かせた。

    「宿儺……?」

     駄目か、という問いに答えず奇妙な行動を取る宿儺に不安になった虎杖は眉をハの字にして震える声で訊ねるが、それでも宿儺は答えない。
     無言のまま虎杖に顔を近付け、指一本程の隙間を開けて止まる。ますます困惑する虎杖に呆れたように目を細めて溜め息を吐く。

    「色気の無い。いや経験が無いのか」
    「はぁ」

     突然の暴言に声を荒げると小声で「うるさ」と返される。揶揄われているのか、嫌がらせなのか。ただ、先程の申し出は受け入れられなかったのだと思った虎杖は宿儺の手から逃れようと背中を仰け反らせて抵抗した。

    「なんだよそれ。そんな嫌ならそう言えばいいだろっ」
    「嫌とは言っておらんだろうが」
    「だって……!」

     折角遠ざけた顔は項を掴まれ、無理矢理引き寄せられる。再び僅かな隙間を残して近付いた宿儺の顔に目を固く閉じる。

    「抱きつくのは構わん」

     その言葉を聞いて、虎杖はそろそろと瞼を持ち上げる。だがまだ不安が残っているのか、開いたのは片目だけだった。

    「じゃあ……だったらさっき!」
    「……ハァ、少し黙れ」

     虎杖があれこれと喚き出す前に項を掴んだ手を更に引き寄せ、喋ろうと開いた唇に噛み付くように自身の唇を重ねた。

    「んぅ」

     何の脈絡も無くキスをされた虎杖は驚き、両目を見開いて目の前の宿儺を凝視した。
     主眼を閉じた宿儺は開いている唇の隙間に長い舌を射し入れ、舌先で虎杖の舌の側面を先端から付け根へ、ゆっくりとなぞった。

    「ふ、んん……」

     口の奥に到達した舌はそのまま虎杖の舌を伝って裏側へと滑り、ヒダを擽るように舌先を細かく動かす。
     口内で温度を感じることは出来る虎杖だが。感じたことの無い熱さの舌に敏感な箇所を刺激されて戸惑い、生理的な涙で目を潤ませた。動かしやすくするためか僅かに開けた唇の隙間から、悩ましげな声が漏れる。

    「ぁ……ん、すくっ、んぅ」

     ヒダを押し潰そうとしてくる舌先から逃れるように舌を上顎に貼り付けるが逃がしてはもらえず。晒された裏側の真ん中を先端へと滑った宿儺の舌は、舌同士でキスをするように無防備な虎杖の舌の先端に舌先を押し付けて、虎杖の口内から出て行った。

    「ハ、ぁ……す、くな……なん、?」

     宿儺の感覚ではほんの少し舌で遊んでやっただけなのだが、過敏だったのかそれだけで力無く凭れかかり、息も絶え絶えといった状態のまま潤んだ目で見上げてくる虎杖に。満足したように目を細めて口角を上げた。

    「あったかい、が良いのだろう」
    「へ? ――あっ」

     告げられた言葉の意味が理解出来ず、呆気に取られた虎杖だったが。ややあって合点がいった。

     先程口の中に侵入し、虎杖の舌を好き勝手にいじめた宿儺の舌は、驚くほど熱かった。
     もしかして。宿儺は〝あったかい〟が好きな自分にあの熱を与えようとしたのだろうか、と虎杖は思い至った。

    「あったかい、ってより熱かったんだけど」
    「好かんか」

     感情の読めない表情で見下ろしてくる顔の頬に、指を伸ばす。ここでもし、好きじゃ無いと答えれば今後先程の熱さを与えられる事はないだろう。

     ――…熱い。けど、もっと。

     初めて与えられた熱さに浮かされたのか、将又純粋に快感に浮かされたのか。まだぼやける頭のまま、虎杖は返事をする。

    「熱いけど好き。なあ、もっと宿儺のあったかいの、俺にくんない?」
    「……ケヒッ」

     力が抜けてズリ落ちていた虎杖の背中を抱え直される。再び僅かな隙間を残して近付いた宿儺の顔に今度は目を閉じたりせず、眩しそうに潤んだ目を細めた。
     軽く開いた唇から僅かに覗かせた舌先は、期待からか微かに震えている。

    「いいだろう」

     下りてきた唇がゆっくりと重なり、じんわりとその温もりが虎杖の唇に伝わる。

     ――…あったけ……。

     ただ唇を重ねているだけの温かさが、心地好さが頭の中まで浸透して力が抜けそうになるが。熱い宿儺の舌が差し出した舌を掬うように舌の裏側に入り込んだのが分かり、どうにか踏み止まる。
     宿儺の舌は舌の裏側から表へと回され、虎杖の舌に巻き付いた。まるで舌を抱き締められているような状態に、虎杖は熱さとは別に気恥ずかしさとむずむずと擽ったいような感覚を覚えた。

     頭のどこかで、五条先生にも伏黒達にも言えない事が増えた。と思い浮かんだが。
     寄り掛かった身体の温かさに、背中を支える手の温もりに、口内で自分の舌に絡みつく舌の熱さに、そんな後ろ暗い気持ちはゆっくりと溶かされていった。
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