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    kyosukekisaragi

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    ワンライ『独占欲』

    独占欲とは。
    けもドリくん×飼育員伏黒くんが結ばれる話。

    #虎伏
    ItaFushi

    それは即ち、愛。「伏黒、別の檻行ったでしょ。匂いついてる」
    「あー……狼のところに。担当の先輩が、出張研修だから」
     虎杖の指摘に、伏黒が決まり悪そうな顔をした。
    「駄目だよ、彼奴伏黒のこと狙ってるもん」
     虎杖は知っている。
     一匹狼という表現が正にぴったりな馴れ合いを嫌う狼の獣人が、偶に手伝いで訪れる伏黒には気を許していることを。そして、伏黒はどちらかと言えば、猫より犬派であることを。
     伏黒はこの獣人園に就職する際、イヌ科の担当で希望を出していたようだ。「まあ、確かにイヌ科の担当で希望は出してましたけど――」。廊下の向こうで他の職員に話を振られて、応える伏黒の声。発達した聴覚は正確に一言一句を拾い、ショックを受けた虎杖は思わず耳を塞いでしまった。つい十日程前のことである。
     自分の担当に伏黒が充てがわれたのは全くの偶然。そう虎杖は認めざるを得なかった。伏黒が入所したタイミングで、丁度保護された子虎の虎杖がやって来た。狼には既に別の担当がついていたから、奇跡的に虎杖の担当が伏黒になっただけ。きっと伏黒は今でも、狼とかそういう類の獣人の世話に憧れていることだろう。
     けれども、そんな事実を抜きにして虎杖はどうしても伏黒が好きだった。違法の見世物小屋で散々な目に遭い警戒心の強かった幼い自分を、伏黒はよく慈しんでくれた。人間が怖くて差し出された伏黒の手を噛んでも、トイレが上手く出来なくても、食事の際にテーブルの上を汚しても、優しく頭を撫でてくれた伏黒。毎晩本を読んでくれて、怖い夢を見た時は一緒に布団にくるまってくれた人。だから虎杖は次第に伏黒に心を開き、いつしか伏黒のことを大好きになっていたのだ。
     そういう訳だから、伏黒が犬派であるというのを耳にしてしまった時は、少なからず絶望した。けれども、伏黒が日々自分に与えてくれる愛情や優しさに、偽りは見えなくて。故に立ち直りはしたものの、当然、虎杖的には伏黒が狼の檻に入るなんて内心許せないのである。
    「何だよ狙ってるって……」
     呆れたように眉を下げる伏黒。
     獣人は総じて縄張り意識や独占欲が強い。虎の獣人である虎杖も例に漏れずである。そのことを、獣人飼育の専門学校を出たプロフェッショナルである伏黒はよく知ってる筈だ。が、伏黒はどうにも虎杖を可愛い可愛いと言って、幼子のままに扱っている節がある。虎杖がまだ人間で言うと中高生くらいの幼さの残るなりをしている為か――伏黒曰く、虎杖は身体つきは立派だが、童顔らしい――、いまいち虎杖の縄張り意識だとかを大事に捉えている様子もない。
    「お前もしかして、ヤキモチ妬いてるのか」
    「そうだよ。伏黒から他の奴の匂いすんの、やだ」
    「悪かったよ……ほら」
     虎杖専用のガラスケースの中は、来園者から見えるスペースと見えない居住用スペースに分けられている。今一人と一匹が対峙しているのは後者。伏黒は設置されたふかふかのソファーに腰を下ろして、両手を広げた。伏黒が休暇をとった時、はたまた出張で虎杖の住むガラスケースに丸一日来れなかった時、伏黒は虎杖を甘やかそうとする。
    「狡いよ、そうすれば俺がいつでも機嫌直すって思ってんでしょ」
    「何だ、違うのか」
     隣に腰は沈めたものの、いつものように飛びついて来ない虎杖に、伏黒が寂しそうに腕を下ろす。途端、虎杖の胸の奥が罪悪感で痛んだが、今日はそういう訳にも行かなかった。
     もじもじとして唇を引き結ぶ我が子同然の虎を、伏黒が真摯に見つめて来る。やがて、端正な伏黒の顔が近付いて来て、虎杖の額に彼の温度の低い熱が伝わって来た。
    「虎杖、言ってみろ。何か不満があるんだろ? お前ここ数日様子が変だったぞ」
    「――伏黒、やっぱ虎より狼のが好き?」
    「は?」
    「だってこの前……」
     言いかけて口をつぐむ。けれども、虎杖、と優しく諭されると心の柔らかな部分がぐずぐずになってしまう。結局虎杖は、ここ数日の悩みの種だった、口にするのも恐ろしいことを吐露した。
    「――伏黒は犬派だって言ってるの、聞いちゃったよ」
     伏黒がきょとんとしたように瞬きをする。しかし何かを思い出したらしく、ああ、と視線が斜め上を彷徨った。再び虎杖に合わせられた目には、心なしか優しい色が灯っていた。
    「俺が真希さんと話してたやつか。お前は何処まで聞いたんだ?」
    「確かにイヌ科で希望は出してましたけど、って伏黒が言うから……怖くて耳塞いじゃった。伏黒、もしも狼の担当いなくなったらそっち異動したい?」
    「馬鹿。逆接の後が肝心なところだろ」
     伏黒が苦笑する。
    「イヌ科で希望は出してましたけど、今は虎杖以外のことを考えられません」
    「へ」
    「って言ったんだ、真希さんに」
    「伏黒……!」
    「勝手にお前の担当外すなよ。お前が立派に成獣になって、子供が出来て、その子の面倒見るのが俺の目標だ。それまで絶対担当譲る気ねえし……」
     不貞腐れたように唇をつんと尖らせる伏黒。虎杖は先程とはまた違う意味で、胸がきゅうとなった。
    「伏黒! じゃあ、俺の担当しか考えてないってこと? 伏黒、俺の赤ちゃん見たいんだ?」
    「そう言っただろ……」
     伏黒の目元がほんのりと色づく。丁度来園者に開かれたガラスケースから見える、桜の花の色と一緒だ。今日も伏黒は、綺麗で可愛い。
     嬉しい、嬉しい、嬉しい……!
     先程までささくれ立っていた気持ちが、伏黒の言葉一つで簡単に高揚してしまう。でも仕方ないのだ。だって虎杖は。
     伏黒からその言葉聞けるの、待ってた!
    「伏黒、大好き……!」
    「――俺も好きだぞ」
     伏黒が照れ混じりに、そっと返してくれる。
     すっかり幸せな気持ちになって、ぐるぐると喉が鳴ってしまう。伸ばされた伏黒の手に顔を擦り付けながら、虎杖は上目で問うた。
    「伏黒に、俺の匂いつけて良い?」
    「さっきから良いって言ってんだろ」
     再び広げられた腕。伏黒の胸に、虎杖は飛び込んだ。
    「あ、馬鹿っ、お前もう大きいんだから加減しろって……!」
     ソファに伏黒の身体が沈み、ぎしりと音を立てる。伏黒の腕に尻尾を巻き付けて、体の自由を緩やかに奪う。虎杖は目の前の薄い唇に確かめるように何度もキスを送り、満足すると、今度は伏黒の服の中に頭を突っ込んだ。
     ざり。舌で少し勃起した乳首を舐めると、伏黒が僅かに身体を跳ねさせた。
     ここまでは日常茶飯事。子虎の戯れ合いだと、伏黒も口では力加減を咎めつつ、抵抗はしない。されるがままに、擽ったそうに微笑んでいる。キスをするのも、乳首を舐めるのも、赤ちゃん虎が母親のミルクを欲しがる名残なのだと、伏黒は信じ切っているのだ。
     虎杖は成人男性である伏黒からしたら、幼い姿をしているかもしれない。けれども、獣人の精神年齢は人間の倍速で上がって行くわけで。とっくのとうに虎杖は繁殖期を迎え、伏黒に手を出せる好機を狙っていたのだった。
    「伏黒、俺の赤ちゃん見たいって言ったもんね?」
    「虎杖……?」
     獣人の精子は、生物の種類、男女問わず、孕ませることが出来る。舌なめずりをした虎杖に、伏黒が漸く危機感を覚える頃には、色々な意味で手遅れだった。



     翌日。
    「お前の為に、女の子の獣人のお見合い写真沢山用意してたのに……園長にどう説明すれば」
     ソファには、うつ伏せになったままもごもごと呻く裸に剥かれた伏黒がいた。白い身体にはあちこちに噛み痕やら、キスマークやら、体液やらが飛び散っている。
    「赤ちゃん、って俺が産むのか……イメージと違え」
     ぶつぶつと言っているが、虎杖は聞こえないふりをする。
     虎杖とて、心身共にもう立派な成獣だ。伏黒が世話を焼きたがった虎の獣人の子供は、伏黒自身が孕みたいという意味ではないのくらい分かっている。伏黒が自分に隠れてこそこそとお見合い写真を集めてたことだって然りだ。
     でも、分別つく成獣だからこそ気付いていたのだ。虎杖が無垢なふりをして伏黒の乳首に吸い付く際、彼が少なからず感じているのを。戯れ合いの一環で少し強引に組み敷くと、美しい翡翠が揺れるのを。だから今回虎杖としては、降って来た好機を着実に拾っただけなのである。現に伏黒は、嫌がる素振りは見せなかったし、虎杖を咎めることもしない。そこが余計に愛しかった。
    「でも、気持ち良かったでしょ」
    「――うん」
    「これで、伏黒は俺のものだね」
     そっと身体に飛び散った体液を舐めとって綺麗にしてやりながら、虎杖は榛色の瞳を弓形に細めたのだった。
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