小指の花に小さな勇気を。「ケーキ屋さんいきたい」
三人掛けの円テーブルに二人。
頬杖をつきながら唇を尖らせる不機嫌なサザを斜向かいに、アシェルは食後のコーヒーに口をつけた。
カップの金縁に、薄くリップを引いた形の良い唇がそっと合わさる姿に、隣の卓の女子学生が、ほうっとため息をついたが、もっと盛大なため息がサザの口からこぼれて、アシェルは伊達眼鏡の奥にあっても静かに輝く瞳で視線を流し、『続けて?』と合図する。
サザは項垂れながら、すっかり空になったケーキ皿の、ベリーソースで描かれたハートの模様をフォークでなぞった。
右手小指に咲いたピンキーリングの花、中央の石がちかちかと照明の明かりを拾って光る。
「フルーツいっぱいのカラフルなタルト食べたい。クリームがこれでもかと乗ったシフォンでも良い。ケーキ屋さんじゃなくてもいい。パンケーキのお店とか、アフタヌーンティー出来るとことか、そういう雰囲気のある場所がいい」
3750