「暑い……」
「夏ですからね。温度、下げますか?」
「いい、おまえが体調崩したらダメだろ。アイスでも食べるか……」
「……アナタ、今日アイス食べるの何個目ですか?」
「まだそんなに食べてないから大丈夫だって。……三個目か?」
「はあ、お腹壊しますよ」
「大丈夫大丈夫」
「なんですか、その根拠のない大丈夫は。夕飯だって食べられなくなりますよ」
「子供じゃないんだから大丈夫だって」
「夕飯、食べられなくなって夏バテしても知りませんからね」
わざとらしくため息を吐いた夏準は、そう言いながらも俺とアンの体調に気を配った食事を準備してくれているのを知っているので申し訳ない気持ちがないわけではない。でも、この暑さから逃れるために涼を取りたいのだ。一番手軽なアイスに手を伸ばしがちな自覚もあるが、夏のあいだだけなので目を瞑ってほしい。
ちらり、と時計に目をやって今の時刻を確認する。まだ夕飯の時間まではそこそこあるようだ。夏準に作って貰った夕飯はきちんと食べられると思うけれど、夏準が俺のためを思って言ってくれていることも分かっているので悩ましい。カップアイスに伸ばしかけた手を引っ込めて、細いアイスキャンディーを一本取り出した。
「夏準は?アイス食べるか?」
「いらないです。というかアレン、アイス買いすぎなんですよ。うちの冷凍庫の何割がアイスで埋まっていると思ってるんですか?」
「それはその……ごめんなさい」
夏準に謝りながらミルク色のアイスキャンディーを取り出して、開封して舌先で舐める。
今、俺たちが居るリビングはほんのりと涼しいかも、くらいの室温なので冷凍庫から取り出したアイスはみるみるうちにその姿を保てなくなってきていた。
「……それって、そうやって舐めるものなんですか?」
「え、そうじゃないのか?おまえはどうやって食べるんだよ」
「ボクはそういったアイスは食べたことがないので分かりません」
「そういえば、おまえがアイスキャンディー食べてるところ見たことないかも……うわっ」
ほんの少し目を離した隙に、溶け出したアイスキャンディーが液状になってたらりと腕を伝ってしまった。ひんやりとした感覚に、無意識のうちに情けない声が出てしまった。白い道筋を残すそれを慌てて舌で舐めとる。
「ちょっと、何やってるんですかもう……」
「ありがと」
はあ、と本日二回目になるため息を吐いた夏準が手渡してくれたティッシュで腕を拭ったものの、まだべたべたしている感覚が残っていて少々気持ち悪い。
「べたべたする……」
「それ、もう買うのやめたほうがいいのでは?」
「えー、でも味が好きなんだよこれ」
「少なくとも、外で食べるのはやめたほうがいいですね。また同じことするでしょう、アナタ」
「わ、分かってるよ……家でしか食べないから心配するなってば」
「分かったならいいですけど」