消え失せろ ただの影だと思うには、その男の輪郭が鮮明に過ぎた。
今年は残暑が長かった。そのせいか、間もなく秋を迎えようとする空には、黄昏れる時機を逃したかのように水色と黄色のグラデーションが広がっている。
「一分一秒でも長く練習したいってーのによ、消防の点検ってなんだよ。そんなの昼間の授業中にやっとけってんだ」
「体育の時間があるからそうもいかないんじゃない?」
「なら授業のコマ変更すりゃいいだろ。何のための日直と黒板だよ」
原付バイクを押す水戸の隣には、部活ができずぶさくさと文句を言い続ける三井がいる。
三井の言う通り、職員室入口の壁には時間割の変更や担当教員の変更が書かれる黒板があり、前日あるいは当日朝の段階でクラス別に変更内容が記入される。
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