可愛い扱い(蜘蛛ケー)
土蜘蛛をこよなく愛するケータにだって、彼に対する不満が全くないわけではない。その最もたるものが彼からされる子供扱いだった。
もちろんのこと、まだ11歳のケータは世間一般から見れば子供の枠を出ないことぐらいはわかっている。気の遠くなるほどの長い時間を生きている土蜘蛛にとっては尚更だろう。もし彼がただのともだち妖怪だったなら気にも留めないはずだった。ただならぬ関係だからこそ気になるのである。
彼に頭を撫でられたり、抱き上げられたりする度に、ケータの一端の男としてのプライドが疼くのだ。これでは普通の子供と扱いが変わらないじゃないかと。恋人同士であるからこそ対等に扱ってもらいたいと思うのは当然のことだった。
そのために、彼とのデートの最中にこちらへ伸ばされた手を目にするなりケータは唇を曲げた。休日のさくら中央シティの地下街は人通りが多い。はぐれないようにという意図だろうなと察しはしたものの、幼い子供みたいに手を繋がれるのは納得がいかなかった。そもそも親とだって今じゃ滅多に手なんか繋がないのである。恋人にされるのはますます癪に障った。
「……ケータよ、どうしたのだ。手を」
隣を歩く土蜘蛛が不思議そうに言いながら手の平を揺らす。指先まで整った造形でありながら、見慣れた父の手よりもごつい印象を受ける。愛する彼の一部であるはずのそれをケータは胡乱な目で睨んだ。
「子供じゃないんだから、手なんか繋がなくていいよ。別に迷子になったりしないし……」
言葉尻が拗ねたように掠れる。土蜘蛛は目を見張ったのち、真面目な顔で「何を申すか」と言った。
「お主が抜け目ないことは吾輩とて重々承知しておる。無論、そう簡単にはぐれなどせぬこともな」
そのまま彼は表情を変えず、ごく当たり前のことを言うような調子で続けた。
「お主があまりに愛らしいゆえ、繋ぎ留めておかねば吾輩の気が済まぬのだ」
——ケータにはもう強情を貫く理由は残されていなかった。熱を帯びた頬を隠すように俯く。そう、と返すことだけが今の自分に唯一許された反応だった。
土蜘蛛が自分の欲求を通すための方便である可能性にはとっくに気が付いている。それでも、好きな相手に言われる可愛いの威力には抗えなかった。もう一度彼の手がこちらへ伸ばされる。今度は抗えなかった。重ねた彼の手はひんやりとしていたけれど、ほどなくしてケータの手の平の熱をいくらか奪って同じ温度に馴染んだ。