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    marukura39bn

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    marukura39bn

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    よだつか しば3
    ※動物病院の描写かなりザックリです。

    「夜鷹つかさくんだね。診察室へどうぞ。」
    そう言って腹の下に滑り込んできた腕に、ひょいと体を持ち上げられた。
    どうして、こうなったんだろう……。

    「名前?……つかさ。」
    衝撃の名付けを口にしたあと、一言二言交わして通話を終えた彼は、十分程スマホの画面を眺めたのち、俺を抱えて近くの動物病院に連れて来た。
    動物病院って即日予約無しでも行けるものなんだ。こんな知識身につけたところで、使う機会は一生来ないだろうけど。
    診察台の上に乗せられて、腹周りが腕から解放される。
    「拾ったってことだけど、警察への届出はもうした?」
    「うん。」
    えっいつの間に。あ、鴗鳥先生が電話の後色々してくれたのかな。思えばこの人が家の近くの動物病院の場所を覚えてるとも思えないし、ここも鴗鳥先生が調べてくれたのかも。流石鴗鳥先生。
    「じゃあ、まずは体重から測っていくね。」
    獣医の先生に一度体を持ち上げられて、ピッと診察台から音がした後、またその上に降ろされた。この診察台、体重計だったんだ。
    「17kgだね。少し重たいけど、筋肉質だから問題はないと思う。毛艶も良いし、人馴れもしているようだから、つい最近にどこかのお家から脱走してきたのかな。」
    先生の手は、頭を撫で、背中を撫で、足を揉み、お腹を触りと全身を隈なく触診していく。診察の為とはいえ、体の至る所を先生に触られて凄く恥ずかしくなってきた。男の先生だったのがせめてもの救いだ。じゃなかったら羞恥心が爆発して今頃発狂してた。いや、今でも十分叫び出したいところではあるんだけど。うぐぐ。
    「ちょっとお股見せてね。」
    (まっ!?)
    「ハウッ」
    「去勢はされてないのか。」
    キョォッ。
    もはや鳴き声にもならず。突然股を開かれた事を恥ずかしく思えばいいのか、去勢の単語にビビればいいのか。人間としての何かがゴリゴリと削られている気がする。主に尊厳とかプライドとかそういう類のものが。
    「とりあえずノミとダニの駆虫薬出しとくね。夜鷹さんは飼い主が見つからなければ、このままこの子を飼うつもりなんだよね?」
    「うん。」
    「それじゃあ、仮登録にして狂犬病予防注射もした方がいいよね。」
    「うん。」
    この人さっきから「うん。」しか言わないんだけど。会話を相手に任せ過ぎでは。スケートのことなら寧ろ一言多いくらい喋るのに。
    先生は彼のそんな態度を全く気にしていないようで、棚から薬の入った瓶と注射器、注射針を取り出した。犬の場合、注射針ってどこに刺すんだろう。人間と同じ腕?血管を探すとかは……それってそもそも可能なのか?
    そんなことを考えているうちに、首の後ろをキュッとつままれ、次いで僅かにチクッとした感触がやってきた。そんなところに刺すんだ。見えない場所に針が刺されているのは、ちょっと怖いかも。
    「予防注射打ったから、散歩とシャンプーは明後日までダメね。それと、近いうちになるべく新鮮なうんちを持ってきて。虫がいないか見るからね。」
    「うん。」
    うん、え、うん……?うんちを持ってくるの?俺、俺の?いや、分かる。検便のために必要なんだっていうのは、人間でもあることなんだし、それは分かってる。けれどその、うんちを持ってくるということは、つまり、夜鷹純が俺の。やめよう。やめようやめよう。これ考えたら駄目なやつだった。俺は犬!柴犬!ペットと飼い主であって明浦路司と夜鷹純ではない!だから、そう、なんか、凄く泣きたくなってきた。
    「それじゃあ後は薬とお会計ね。カウンターの方にどうぞ。」
    なんだか酷い気疲れを起こしてしまった……。

    しおしおになったまま彼に抱えられて、俺は夜鷹純の家に戻ってきた。のだけれど、玄関前には家を出る時にはなかった筈の荷物が大量に置かれていた。もしかしてこれも鴗鳥先生が手配してくれたのだろうか。
    先に家の中に降ろされて、彼が玄関前の荷物を順に中に運ぶのをぼんやりと眺める。
    順繰りに開かれていくダンボールから出てくるのは、ペットフードにケージやペットシーツ、ペットキャリーなんかもある。それと。
    「首輪。つけるよね。」
    夜鷹純みたいな、真っ黒な生地に金色の金具が光る犬用の首輪。ここに来て、俺、本当にこの人に飼われるんだな、なんて思ってしまう。俺を飼うなんて、何一つスケートの為にはならないことだ。寧ろスケート外の面倒を増やすことになるだろう。それなのに。
    返事の代わりに、彼の前に自分の首を差し出してみせる。首にモゾモゾとした感触が伝わって、
    「いいよ。」
    の合図で頭を上げた。さわさわと、最初に撫でられた時よりも随分優しげに頭を撫でられる。
    「つかさ。」
    俺の名前を呼ぶその声は、今までに聞いた彼のどんな声よりもずっと、柔らかいものだった。
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