あの時助けていただいた鶴です 本当に意味なんてなかった。ただ頼まれたし、変わってあげようみたいなそんなかんじの軽い気持ちで行った撮影会でまさかあんなことになるなんて、思っていなかったのだ
撮影会は至ってシンプルで雑誌にのせるためだと聞かされていた、のだが
「あの、撮影会って聞いたんですけど」
「ええ、そうですよ?」
メイク担当のスタッフさんは笑顔で話しかけられながら、ロングヘアーのウィッグを被せてきた。それも色は金髪で、まるで誰かを思い出させるような匂わせるように青色のグラデーションになっている。そして、衣装も首もとに青色のリボンがついたしろいろのブラウスに足のくるぶしぐらいまであるサスペンダー付きのロングスカート。リボンと合わせてなのかスカートもまるで青空みたいに綺麗な青色であった。シンプルで可愛らしい格好だと思う、着ている人が男性でなければ、いいんじゃないかと言えるぐらいには女性向けの服であった。
「なんで俺は女装してるんですか」
「あれ?聞いてないんですか?」
「撮影会するから来てほしいって言われたぐらいで……詳しいことは何も」
「えっ」
どうやら事情を説明してもらった話を聞く限り、今日来るはずだった人の代理に俺が選ばれたらしい。深く説明すると俺が断る可能性があったから撮影会としかいってくれなかったみたいだ。そんなことしなくても……とも思ったが、全て知っていたら断る可能性もあったので何も言えなかった。
「……と言うわけです。ごめんなさい、無理矢理付き合わせちゃうことになってしまって。てっきり話は聞いているものだと」
頭を下げるスタッフさんは悪くない
「だ、大丈夫ですよ!詳しく話を聞かなかった俺も悪いですし、写真撮って終わりですよね?」
「そうです!ちなみになんですが、撮影相手の名前は聞いていますか?」
「いや、1人じゃないんですか?」
「えぇ、今回は」
「危ないっ!」
咄嗟のことだった、もしかしたら、俺が飛び出さなくても、勘がいいカイザーであれば避けられたかもしれない。けど、俺がそれに気づいてしまった以上、例えどんな人であろうと放っておくわけにはいかない。包丁を持った相手になにも持たないまま飛び出してしまったことに関しては後悔しているが、間違ったことはしていないと断言できるだろう。
そうして、カイザーを勢いつけて突き飛ばした。思った以上に重かったけど、カイザーの代わりになるように。女性がこちらに向かって走ってくる、俺がカイザーを突き飛ばしたので避けることはできない、ただただ、いずれくるだろう痛みを待っているだけであった。
グサッと俺の左腕に突き刺さった。利き腕じゃなくてよかったと場違いながら思ってしまった。だけど、すぐに痛みが襲ってきた、衣装を貫いて皮膚をまでたどり着いたらしくて、赤い線が刃にそって垂れていくのが分かった。刺したのが、カイザーじゃなくて俺だと気づいたのか、襲ってきた女性はすぐに手を離した。
「ち、ちっがう!あたし、そんなつもりじゃ……」
そのあとの言葉は続かなかった。なかった、とでも言いたそうではあったものの、俺じゃなくともカイザーを刺すつもりだったことは誰が見ても分かる。こんなにも大勢の人も前でやったのだ、言い逃れなど出来ないだろう。もう少し人気のないところでやるべきだったが、そうしたら本人がすぐに気がつくし確実にやれると思わない。
どうやらあの一件でカイザーに面白い女だと思われたらしい、「無防備な姿で俺を助けるなんて、最高じゃないか」と嗤っていた。それを聞きたくなかったが、本人である俺がつい聞いてしまったため、背筋が震える。
「潔、顔色が悪いぞ。大丈夫か?不安不安」
「あいつがいい。ネス、絶対に見つけるぞ」
「はい、カイザーの仰せのままに」
カイザーたちが話している内容をなにも信じたくなくて、視界にいれたくなくて目を背けた。頭を抱えたかった。中のいい人はたくさんいるけれどこんなことを相談できる相手もいない。どうしたものかと1人悩んでいた。すると、あのときのスタッフさんから着信が来ていたようで急いでこの場から離れる。
「もしもし?」
「あっ、よかった!さっきカイザーさんから電話があって、あのときの彼女を教えてほしいって言われて。とりあえずごまかしたんですけど……」
「けど?」
「カイザーさん、どうしても潔さんに会いたいらしくて、上の人たちの話じゃまた撮影会をやるみたいですよ」
「は?」
なんだかうまく言いくるめられた気がするが、気のせいだと思い込んだ。
腕に巻かれた包帯を見るたびに悲しげな表情をするのはなんでなんだ。俺の時はしなくて私になったときだけなのが腹が立つ。カイザーが俺が俺であることを知らないから仕方ないかもしれないが、よく知っている人物に
ネスの視線がそろそろきつくなってきた。いくらカイザーのことが心配だからってあんなにも見る必要はないと思うんだが、
ひぃーーー。めっちゃ見てくんじゃん、視線が痛いと同時にカイザーに気がある女性達もこちらを見るので、今の俺は注目の的になっている、正直気まずい。そもそも、俺の女装の何が気に入ったんだコイツ。まさか、まだ俺が男だって気づいてないのか?それはそれで
内心は滅茶苦茶焦っている、ネスなんかに知られたらすぐにカイザーに報告するだろうし
バレることだけは絶対に避けたい。なんとしても俺の全てをかけて今日のデート?を終わらせなければと胸に誓った。生憎、ネスはもう居ないだろうしカイザーさえ何とかすればいいんだ。
「あんた、カイザー様のなんなの?とっとと消え失せなさいよっ!!」
カイザーの近くにいた赤いドレスを着飾っている女の人がこちらに歩いてきた。その周りには何人か人が集まっている。誰かから教えてもらったけど、取り巻きってやつかな。彼女達がカイザーのファンだと言われれば妙に納得してしまう。
俺だって帰りたい!!だけど仕事だからと、いや、でも、帰っていいなら帰るか!
「ええ、では、帰りますね。それではごきげんよう」
カイザーが俺の髪にキスをした。厳密に言えば、俺の髪ではなくウィッグなんだけれど、それは結構効果があったらしい。周りの人たちが悲鳴を上げて叫んでいるなんとも悲惨だ、目も当てられない。当の本人は笑って俺の方を見ている、威嚇ができて嬉しそうだ。そうえばよく愚痴を溢していたなと思い出すだから、喜んでいるのか。俺は嬉しくないのだけど。
頬ほんのり赤く染めるカイザーに対して、俺はだんだんと青ざめていった。そんなカイザーが何を考えているのか、全く分からないけどこれだけは分かる。こいつぜってぇわざとだろ。
バキッ!
何かが壊れる音がした、え。カイザーチェッカー触ったよな?壊した?マジで?
俺のことを女だと思ってるカイザーならまさか力業で捕まえることなんてしないよな?しないよね?ね?
「あぁ、ほら、こっちにこい」
あれ?カイザーが優しい。これってもしかして夢かな?いや、夢じゃない。よろけそうになった俺の腕を捕まれてベッドへと投げ込まれる。おいおい、俺の扱いが雑すぎないか??好き、なんだよな?好きな人にする態度ではなくないか?
「初めてなんだ。こんなにも、誰かを、好きになるなんて」
顔を赤く染めながら、告白?をしてきた。言っていることは分かるが伝える相手が違うと思う。そういったことは彼女なりなんなり、ん?待てよ、こいつ、初めてって言った?これが初恋?
「おまえ、男なのか」
幻滅しただろうか。
「愛してる、ミヒャ」
ほわほわとした夢心地みたいな
あぁ、やらかした。カイザーと致してしまったなんて誰かに話をしたら、どうかしていると思われるだろう俺もそう思う。マジで?マジじゃん。
やっばぁ!
ここに長居するのは危険だと俺の五感がそう言っている。
仕返しにキスのひとつでもしてやろうかと考えたが、起きてしまっては元も子もないのでやめておいた。簡単にお礼を書いたメモを残して去っていく。申し訳ないけど俺はまだバレるわけにはいかない!!絶対に!そう改めて決意して部屋を出た。
もしもの時のためにお金を持ってきていて良かったと思ったし、今日が休みで良かったとも思った。昨夜の行為のせいでところどころ体が痛いし、とてもサッカーができる状態ではなかったからだ。1日で全快するとはこのい思わないが少しでも体を休ませたい。あのバカイザーめ、手加減ぐらいしろよと心の中で口を吐いたまま、帰路へと向かった。
家に帰って鏡を見ると思った以上に跡が凄かった。執着心がやばいやつだとは知っていたけどまさかここまでとは、想像以上に追われてるみたいだ。
「カイザー?浮かない顔ですがどうかされましたか」
「あぁ、逃げられたんだ。俺が閉じ込めておかなかったばかりに」
「カイザー選手と一緒に表紙になるなんて!さすが潔選手ですね。」
「あ、あ………あはっ、あはは、あ、ありがとう、ございます……」
戸惑いながらも雑誌を受けとる。バレてしまった。まわりの目線がとても痛い。こうなったら逃げるしかない。運のいいことにカイザーはここにはいない。だけど、ネスがいるので逃げても伝えられるが、今日という日を逃げれればなんとかならないかと考えていると、いつの間にかは後ろに来ていたネスに気がつくことができなかった。肩に手を乗せられた、それもおもいっきり。
「い、痛い痛いっ!!」
「このくそくそ!なんでカイザーから逃げた?」
「」
「俺が男だって、ちゃんと言ったってば!」
やらかしたことが多すぎてなんのことをさしているのか分からない。
「くっ、殺せ!」
「なにをバカなことを、くそ世一のことなんか殺しませんよ。カイザーが来るまでおとなしくしてくださいね?ね。」
しぶしぶ電話に出るネスの隙をついて逃走した。嫌そうな顔をしていたからしばらくは大丈夫だろう。ここから出口まで3分ほど、いくらネスでも追い付くのは難しいだろう。外に出られれば俺の勝ち、そう勝利を確信したところで浮かれていたんだろう。出口までもう少しのところ、曲がり角で誰かにぶつかった。
「ご、ごめん」
「それ、俺の写真集か?なんで世一が持ってるんだ?」
「うっ、」
腕で隠していたつもりだったのに、バレてしまった。確かに俺がもらっているならカイザーも見本をもらっているはずだ。だから、うっすらと見えた表紙で分かってしまったのだろう。一番会いたくなかった人に会うなんて最悪だ。今になってネスに掴まれた肩がズキズキと痛み始めてきた。
「それの発売日はもう少し先だろう?関係者ならともかく、世一がなんで……」
なにかに気がついた様子で、こちらを見つめるカイザーの目線が痛い。なんでこうゆうときだけ察しがいいんだよ。もっと別のところで活用してほしいぐらいだし、いっそ前みたいに勘違いだと思い込んでくれた方が楽だった。
「まさか、お前」
「こら~!くそ世一!!」
カイザーがなにか話そうとした瞬間に、ちょうど都合よくネスが現れた。電話はどうやら終わったようで、俺が逃げたことに怒りながら走ってくる。カイザーがそれに驚いて、視線が俺からネスの方へと動く。その隙を俺は見逃さない。手早く
「カイザー!世一を止めて」
「あぁ、」
待ってください。俺、カイザーより足早くないんだよ。捕まるに決まってる
「いやだ!俺はまだ抗いたいんだーっ!!」
背後から抱きしめられる形で捕まってしまった。
「うぅーー!離せ!!」