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    oriron_kon

    主に妄想の呟きを文章化。リンバスは5×7と2×7が気になる。

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    oriron_kon

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    囚人たちが水平思考ゲームで遊ぶだけの話。
    有名なウミガメのスープの問題を独自で都市風に弄っているので「問題になってないよ」などの疑問があるかと思いますが、雰囲気を楽しむ程度に読んでいただけたら幸いです。
    ※これを書いた人はヒース推しであることを前提にお読みください。Notカプの全年齢向け。

    水平思考ゲーム 案内人ヴェルギリウスがファウストと一緒に次の仕事についての打ち合わせをしている間、待機中の囚人たちは暇潰しに最適なネタを探すのに躍起になっていた。
     ボードゲームだと数は限られてるうえ、大体遊び尽くしてしまった。
     暇を潰すのに手頃な話題も手札がない状態だ。
     どうしたものかと悩む中、部屋から戻ってきたドンキホーテが一冊の本を掲げてきた。

    「これを見よ!これで遊べば時間などあっという間に過ぎるに違いない!」
    「あん?なんだよ、みんなで仲良く読み聞かせしましょってか?」
    「むふふ、それは我が推しフィクサーの武勇伝を聞かせる時にとっておきたいでござりまする」
     ヒースクリフの煽りを次の約束だと解釈するかのようにうっとりと目を細めたドンキホーテは再度、本を突きつけた。
     その本は、セブン協会を通して関わってきた数々の事件が問題文として記載されており自分たちで推理しながら解き明かしていくゲームブックであった。
     早口で熱弁するドンキホーテが言うに、かつてセブン協会を代表していた1級フィクサー、アガサの他にも優れた推理力を持つ人物が何人がいたらしい。
     そのうちの一人が事件を簡略的にまとめ直し、新入りフィクサーたちの推理力を鍛える目的でマニュアルとして配ってきたのが始まりだそう。
     そんな噂を聞いた事務所や組織の代表たちも新入りを鍛えるのに丁度いいと複製を求める声が予想より多かったため、改めて編集し販売したのがこの本”魚のスープ”だとか。
     実際にあった事件がモデルになっているのもあり、暇を持て余していた囚人たちもじんわりと興味を持ち始めた。
    「水平思考ゲェムとは、懐かしき遊戯なり」
    「ふむ、古き朋も嗜んでいた覚えあり。よもまた耳にする日が来とは嬉し」
     と嬉しそうに反応していたイサンの口からルールが説明される。

     あえて重要な情報を切り離した簡素的な問題文を主題者が読み上げ、一人以上の回答者が問題文に対する質問を投げかける。
     質問について主題者が”YES”か”NO”かと返したのを材料に隠れた答えを回答者が見つけるのがこのゲームだ。
     回答者全員が一回ずつ質問をしてから回答権が得られるのが一般的なルールだが、参加者が多いので質問も回答も思いついた時に限る特別ルールが今回設けられた。

     司会の適正が高そうなウーティスが主題者候補に挙がりかけたが、何度も本を読み返していたドンキホーテが流れを掴んでいるだろうの判断で話が進む。
     ちなみに本のタイトルにもなっている”魚のスープ”も一部のフィクサー間では有名な話らしい。

     U社からの依頼を受けた事務所の一味が予定より数日遅れて到着した。
    「噂で聞いていたよりもあの湖が広すぎました、文字通り骨が折れる思いでしたよ」
    「途中で採れた魚が唯一の食料でした」
     ひどく疲弊した様子で語る代表を含め、事務所の全員を保護しつつU巣で仕事をさせてから二日後、一人残さず発狂した全員が湖に飛び込んだ。
     何故、事務所の一味は発狂したのか?

     雰囲気を掴ませる狙いで試しに問題文を読み上げた途端、U巣から来たイシュメールが大方予想がついたと言いたげに強い嫌悪感を示しだした。
    「すみません、ここからの答えは聞きたくないです」
     と彼女の表情が暗くなったのに全てを察してしまった囚人たちも、それはいいから次の問題へ移ろうと急かすなど軽く騒ぎになってから数分後、改めてゲームが再開される。 

     とある事務所の代表が何者かに殴られた形で死んでいた。
     通報があった日、事務所の中で一番背が高い男性に容疑がかかった。
     しかし、小柄な女性が真犯人として捕まった。
     どうやって女性は代表を殺した?

     とドンキホーテは問題文そのまま読み上げた。
     要は、背が高い男性なら簡単に殴れるだろうとの見解で話は進んでいたが最終的には小柄な女性が真犯人だったというオチだ。
     それを前提に女性がどうやって殴り殺したかを突き止めるかが今回の問題だろう。
    「ここからはそなたらが質問をする時間である!」
    「理解した」
    「質問ねぇ…いざ、質問しろって言われても特に思い浮かばないなぁ」
     投げかけるべき質問について各々が頭をひねってる中、恐る恐るとグレゴールが手を挙げる。
    「ベタなので悪いが…そこは事故じゃないのか?」
    「いや、今回は他殺だとここに書かれておる」
    「事故と他殺だと意味が変わるのですか?」
    「事故はその場の感情に振り回された結果、他殺は前から抱える感情に身を任せた結果」
     シンクレアの疑問を良秀が素早く答えた。
    「事故なら突き飛ばすなり殴りつけるなりですぐ終わる、他殺なら足がつかないように工夫する必要がある。それだけだ」
    「フッ、捕まるのが怖いからってわざわざ証拠を隠すような手間を…」
     なんだかずれた目線で語っているが、確かに最初は別の人物が疑われてたぐらいだ。簡単に証拠が見つからなかった意味では計画的殺人の線が強いだろう。
     その流れで行くと、代表が座っているところを後ろから殴った案も消える。それでは身長差どころが誰でも可能となるから。
    「お約束といえば、殺されたのは事務所の中で、ですか?」
    「うむ、ここが重要なポイントであるな」
     ホンルの質問は核心を突いていた。
     現場が外だったら代表に恨みを抱いていた誰かが殺した可能性のせいで特定が遅れていたかもしれない。不謹慎だが中で殺されてたおかげで素早く犯人像が絞れたと考えると幸いと言うべきか。
    「現場が中といふことは、階段など段差の多き内装と考ふとも?」
    「ううむ…至って殺風景な部屋だった、としか書かれてないのである…」
    「兵を造りたらむ設備はそこにはあらずといふことか」
     ここで囚人のほとんどは、簡易的なテーブルセットや書類をしまう棚など最低限の家具が置いてある程度の部屋を想像した。
     階段を利用すれば高いところから重い物を落とせたかもしれないが否定されたようなものだ。

     第一発見者は最初に疑われていた背の高い男性で、仕事から帰ってきたら代表が頭から血を流しながら絶命していた。
     真犯人も別の用事で外出していたということが後の質問で判明される。

    「単純にさ、物を投げりゃいいんじゃね?」
    「おっと、物を投げつけたような痕はなかったと書いてあるぞ」
     ヒースクリフの発想もあっさりと否定され、短い舌打ちが聞こえた。
     石など硬い物を投げる手段なら高低の差も関係ないが、何かの破片も見つかってないそう。
    「あの、どっちかが義体だったりしますか?」
     義体施術に深く関わっていた肉親を持つシンクレアらしい質問だ。ドンキホーテは本の内容を読み直してから首を横に振った。
    「違うな、生身だったと言われている」
     思ってたのと違うなぁと引き下がるシンクレアの反応を見たイシュメールは不思議そうに首を傾げた。
    「義体のどこが重要なんですか?」
    「父から聞いたことがあります、フィクサーの中には義体に特殊な機能を取り入れたいリクエストをつけてくる時もあるとか」
     例えば、足の長さを自由自在に調整できる技能をつけることで、高い棚にある道具を取るための手間を省きたい、とか。
     詳しい補足を聞いた囚人たちはそれぞれ納得の声をあげた。
    「逆に被害者の義足を外したタイミングでポカンッ!も無いってことか」
    「だとしたら強化施術があるじゃないか、脚力を強化すればいい」
     グレゴールのぼやきにウーティスが便乗するも、それをドンキホーテが否定する。
    「うむ…強く足を蹴った痕跡はない、と書いてあるでござるな」
    「まぁジャンプしたら物音がすごいだろうし、天井にぶつかってしまうでしょうね」
     確かに天井がある室内で強化施術がかかった状態でジャンプするには念入りの調整が必須となる。他の人に見られずに事を進めるのも大変だろう。
    「…彼女が何かの台に乗っていた以外に考えられない」
     質問というよりほぼ断言に近い発言だったが、ムルソーの言葉にドンキホーテは目を輝かせた。
    「良いところに目をつけましたな!その通りである!」
    「え?普通に踏み台を使ってたわけ?」
    「…あぁ、義足もない強化施術を使った痕跡もない」
     ハッとウーティスが驚きの表情を見せる。
     まさに灯台下暗し。自分より背が高い相手の頭部に辿り着くには単純に踏み台などで高さを調整すれば良かったのだ。
     都市の常識に囚われていた囚人たちは思わず感嘆の声をこぼした。セブン協会のフィクサーもつまずきやすいのことでわざとそういった問題も入れてるみたいだ。
     ここで新たな疑問が生じる。
    「待てよ、被害者の前で堂々と踏み台を出したってことだよな?それってすぐ見つからないか」
    「そうですよ、いきなり置いたら怪しいじゃないですか」
    「…防御したと思われる痕は」
    「無かった、と書かれてまする」
    「えぇー堂々と踏み台を置いて、それでもバレずにあっさりと殴ったってことぉ?」
     ありえないわーとロージャが絶句する。
     身長の差を埋めるために踏み台を用意していたとはいえ、目の前に設置された被害者が防御することなく殴られて死んだとは想像しにくい。
     首をかしげる囚人たちの中、ポツリとヒースクリフがこぼした。
    「踏み台を使うこと自体が不自然じゃない理由をこっちが作ればいいじゃねぇのか」
     そんな呟きにイサンも、あぁなるほどと共感した。
    「しかり、移ろひ無しと言はれたりき。それは初めより移ろひ無かるべく犯人の仕組みし可能性もありき」
     一瞬、沈黙が空間を包んだ。
     ヒースクリフ曰く、犯人が踏み台を用意しても変だと思われない条件が既にあった。
     引き継いだイサン曰く、何も変化がなかったと言われているが犯人があえて何も起こらないように弄った可能性もある。
    「高いところにある物を取ってこいとか言われたらさ、まぁ普通、踏み台を用意するよな」
    「さるはその場に頼まれたりきとは考へがたし」
     二人の発言で察しがついたと思わしきウーティスが顎を指でさする。
    「前から命じられたことを準備が整ったのを機に実行した可能性が高いな」
    「準備といえば電球だな、お前が変えてこいってよく押しつけられてたわ」
     嫌なことを思い出したように顔をしかめたヒースクリフのぼやきをきっかけに、ここからはあっという間に話が進んだ。 

     彼女は命じられていた電球の交換をするために踏み台を用意していた。
     そのまま交換すると見せかけ、棚上に何かが見えると嘘を被害者の注目を棚上へ向かせようとする。
     言われるがまま背を向けながら彼女との距離を詰めてしまったのを最後に隠し持っていたレンチで強打され、打ちどころが悪かった被害者は無慈悲にも命を落としてしまったという。
     後は他の用事で外出していた、知らぬうちに依頼者が来てたかもしれない、と嘘を重ねて逃れる魂胆だったがあえて電球を変えずにいたのが仇となり、未だ変えられていない電球や行方不明のレンチについて事務所の人が触れたことで彼女は捕まったと。
     ちなみに代表が殺された理由は、報酬の何割かを給料と払う契約で雇っていたのが実際の報酬からネコババしていたのを彼女が知ってしまったらしい。
     みんながいる前で問い詰めるなり他に手段があったかもしれないが、底辺事務所ゆえの常にギリギリな環境で酷使される日々を送っているところにあの事実を知ってしまったら正常ではいられないだろう。
     バレてるのを知らずに顎で使おうとしたのが引き金となり、後は事件の通りである。

     自力で正解にたどり着けて嬉しいはずなのに、あまりの後味の悪さに囚人たちを包む空気はどんよりと薄暗くなる一方。
     U社の行の時点で止めておけば良かったんですよ…と誰かがこぼした言葉にほぼ全員が賛同したのは言うまでもないだろう。
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