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    フカフカ

    うさぎの絵と、たまに文章を書くフカフカ

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    2024/03/17 命のK譜おしながき(文章系)①
    ドクターTETSU&和久井譲介『全く傷ひとつない』(A5/全体34頁/300円)
    スペース:東7 I05a カステラハウス

    おしながき(文章系)①白い石で出来ている全く傷ひとつないザクロの飴グラッパヴェイパーウェイヴ・ドクターTETSUと和久井くんがときどき会っては会話をして、解散するのを繰り返す短編集(WEB再録+加筆)
    ・T先生がそれなりに元気
    ・和久井君が医者として日本国内にいる
    ・カップリング要素なし

    白い石で出来ている 真田が午前中のうちから空港などに足を向けたのは、そうした避けがたい、しかし気乗りのしない用事のためであって、何もロビーに屯する人々の中から、懐かしき若者の顔を見つけるためではなかった。それでも、見つけてしまったのだから、しようもなかった。

    全く傷ひとつない 向かいに座った人影が勿体ぶって手元の本を閉じ、殊更に時間をかけて真田を見上げた。
    「どうも」
     若い唇が皮肉げに、それでいて待ちわびたように動いた。見ようによってはまだ学生とも言い張れるような格好の青年が、窓辺からの陽の光を浴びて、真田を迎え入れた。
     青年――和久井譲介は、長い前髪に顔の半分を覆い隠していながら、確かに瞳二つ分の熱心な視線を、真田へ浴びせかけてきた。

    ザクロの飴「僕としたことが」
     隣席の人影がゆっくりと顎を持ち上げ、和久井へ顔を向けた。黒い髪をたっぷり伸ばして、顔の前へ垂らした、和久井よりもいくらか年嵩のその人物は、豊かな黒髪をぞろりと揺らし、そのかんばせを覗かせた。湖面に凝った氷のような目が、確かな熱量をもって和久井を見つめた。和久井も見つめ返した。

    グラッパ いくらかの会話があった。和久井は真田の愛車をどこへもやる気がないようだった。車内に二人収まったまま、駐車場に流れ込んでいるはずの雨音も冷気も、銀色の光でさえ車外に追いやって、和久井は時折真田の横顔を見て、また時には真反対に顔を向けて、ごくありふれた話題をつらつらと真田へ差し出しては、特に応えを聞くのでもなく、また別の話題へと移るのを繰り返した。
    真田は和久井が三つ話すうち、一つか、二つに返事をしたがその実、和久井が一つだって「ドクターTETSU」の応答を待ち望んではいないことは分かっていた。奇妙なほど、和久井はよく話した。饒舌だった。

    ヴェイパーウェイヴ ドクターTETSUは片手を振り立てて「それこそ、実際を知らん若人の表現だな」と言った。
    「僕はお望み通り、ものを知らない若者らしさを証明して見せたわけだ。どうです、感想は?」
    「どうもこうも」
    「いくらも年下の人間の無知を指摘して恥をかかせて、言うことがそれだけなんて。ドクターTETSUは望み高くいらっしゃる」
     和久井は笑いながら言った。
     当の闇医者はすましたように顎を上げて、窓の外と和久井とをちらりちらりと眺め、「欲の深い男だと評判だぜ」と言った。
    「欲深い?」
    和久井はそれを、どこか信じられぬような気分で聞いた。



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