おしながき(文章系)②・一人先生と富永先生の戯曲っぽいもの二編
・スペース富永とスペース神代のお話一編
・ダンサー富永とダンサー神代のお話一編
・すべてがやんわり都合よくなっている
カルテに書いてある・Kのお誕生日を探る富永先生の戯曲っぽいやつ
神代:……(瞬きをする)
富永:……あの(瞬きをする)
神代:…………うん?(居住まいを正して)
富永:K……、の誕生日っていつくらいですか、ていうかいつですか。(バースデーカードを胸ポケットにしまう)
神代:(富永の手つきを目で追って)カルテに書いてあるな。(自分の口元に指を置く)
富永:カ、!?(大きな声)
神代:カ……(ぼんやりと)
富永:カルテ!!?(やけに大きな声)
神代:カルテ
宇宙・スペース富永、母星を出て無医星を目指す
富永は漂っています。宇宙空間をです。真っ暗闇かと思えば、そうでもありません。あてのない浮遊かと言われれば、そうではありません。
橙色の宇宙です。それそのものが、ほんのりと明るく、まるで後ろに太陽を伸ばして均して、均等にして、穏やかに躾なおしたものを隠したように、光っています。その上、数え切れぬ程の星々が辺りに光を振り撒いています。ですから、真っ暗闇どころか、瞼を閉じたってその向こうにうっすらと光を覚えるほどには、目の前が明るいのです。しかしそれも、富永の母星からしばらくの間のことです。
宇宙には潮の流れがあります。いえ、宇宙にある、力場の均衡だとか、せめぎ合いだとか、そうした作用で生まれる流動する何かのことを「潮」と呼んでいるというのが、本当です。富永はその「潮の流れ」に乗って、一つところを目指しています。遠い遠い、まだ見ぬ星の、さらに深みを目指しています。
孔子も言ってました・Kに傘を使わせる富永先生の戯曲っぽいやつ
富永:(重々しく)K、忘れ物、ある気がしません?
神代:(自分の両手を見つめる)……いや?
富永:(もどかしく)なんというかこう……、便利アイテム……的な(横目に、窓の外を見る)
神代:(まだ自分の両手を見つめている)……いや
富永:(身を乗り出す)これがあったら快適だろうな!的な!!
神代:MRI?
富永:あ〜、欲しい! けど違います。もっと根源的っていうか、オーソドックスなやつ
神代:(ほんの少し笑いを噛みながら)医師免許
富永:(真面目に)もう持ってるでしょ
神代:フフ……
富永:俺も持ってます
神代:そうだな
富永:お揃いっすね
神代:そうだな
踊り・Kと富永先生がダンサーをやっている話
まったく素晴らしい。富永はため息をついた。快いため息だった。胸の底から熱いものがこみ上げて来て、吐息となって口をついて出てきた。そういう種類のため息だった。
富永の眼前に、踊る影がある。影は富永が見つめる先で、跳躍し、回転し、脚を高々と上げ、腕を鳥の翼のようにしなやかにした。
夜だ。
夜の、みっしりと暗い、広間の中を、月明かりを浴びた人影が躍りながら、右へ、左へと渡っていく。
灯りもなく、音楽もない。けれど富永には、影が一体何を踊っているものかが、はっきりとわかる。
何を、というのは、どの演目を、ということだ。影は、物語に則した踊りを踊っている。クラシックバレエだ。
眠りの森の美女――その第三幕。
富永は背を部屋の扉につけ、腕を組んで、無音のレッスン室を自らの踊りで埋めていく影を、見つめている。
影がデジレ王子のバリエーション――ソロ――を踊るのを、その始まりからずっと見ているのだった。