匙「これも」
洛軍が信一に皿を差し出す。
足の短い食卓のこちらから彼方へと、洛軍の腕が橋を架ける。橋の先には信一がいる。
信一は、食卓の真向かいから、自分へ向かって突き出された惣菜皿を見て、目線をあげ、差出人たる洛軍の顔を見つめた。目を丸く見開き、忙しなく二回も瞬きをした。
「美味かった」
信一へ皿を突き出したまま、洛軍が言う。油で青菜を炒めたものが入った、広く浅い皿だ。
洛軍の隣で、十二が粥のような飯を、匙でかき込んでいる。
「美味かったのなら──」
信一は手にしていた匙を卓上へ置くと、照れたように言った。
「お前がみんな食べたいいのに。洛軍」
食卓の上に吊るした裸電球が揺れる。開けた窓から風が入って、電球を揺らしている。それはふらりと洛軍の頭上へ近付いては光を撒き、ぐんと反動をつけて信一の頭上へと、また光を撒いた。
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