特等席 ずっとだって見ていられるな……。そもそも“全く同じ瞬間”なんてねーと思うが。一秒たりとも逃さず、目に焼き付けていたい。
ずっと見ていると、今度は触りたくなる。昨晩散々触っただろって?うるせぇ、好きなんだよ……凪に触るの。かといって起こすのは悪いだろ?まだ全然朝早いし、起こす理由もない。絵画を鑑賞するみたいに、俺は凪を“視ている”。
それからどれくらい時間が経っただろう。凪の瞼がゆっくりと開く。
「おはよ、凪」
「ん……おはよ」
今日だって隣にいるし、誰よりも先に『おはよう』が言えたことに安堵。まだ眠そうな声とか顔とか、ほんとすげー可愛い。
「近くない?」
「寝顔見てた」
あんな無防備な顔、ほんとは誰の目にも触れてほしくない。学校でもずっと寝てるからもう手遅れだけどな。だったらせめて、特等席で。
「ずっと見てて面白いものでもなくない?」
「わかってねーなお前は」
頭の方へ手を伸ばす。ガキの頃空想した雲の感触みたいに、白くふわふれした髪。高くて手の届かないところにある雲と違って、“ちゃんとそこにある”俺だけの宝物。やっぱ触るのが一番好きだな、俺。