――凪みてぇだな。
馬鹿みたいだって笑うだろうか。けど、一度そう思ってしまえば、頭から離れない。共通するとこなんて、白くてふわふわしてるぐらいなのに。
「凪、ちょっとここで待ってて」
気付けば来た道を戻っていた。せっかく繋いでいた手も離して。ずっと人混みの中にいるの凪は嫌だろうし、仕方ないことなんだと自分に言い聞かせる。とはいえ長くは待たせたくねぇ。だいたいの出店の位置は覚えたし、と早足で向かう。
*
「はいこれ」
「綿あめ」
「そ」
差し出した綿あめと凪を交互に見る。白くてふわふわ――うん、やっぱり凪みてぇだ。
「ありがと。玲王はいいの?」
「これはお前にって思ったし」
「ふーん」
自分の分を買う、という考えが頭からすっかり抜けていた。俺結構浮かれてんのかな。
小さな口で綿あめに齧り付く。口に含むとすぐ溶けるそれは、咀嚼すら面倒くさがる凪にピッタリだなと今更思った。小動物に餌をやった気分。マジで可愛いの、ずっと見てたい。実際もう目が離せなくなってる。
「玲王もいる?」
「は……」
突然向けられ、不自然な反応しかできなかった。綿あめは残り三分の一くらいで、凪の一口の大きさから考えるとそれなりの時間経っていることがわかる。
「いや、お前にあげたし」
「てか食べてよ。ちょっと多くて食べきれない。もったいない」
「いいのかよ」
「うん」
鼓動が速くなるし、顔も心做しか顔も熱くなってきた。屋台から外れたところにいるから、屋台の熱気にやられたなんて言い訳はできない。確かに、凪にしては食った方なのかも。俺があげたものだから、すっげぇ嬉しい。でもこれだとどこから齧っても、
「……間接キス」
“お祭りデート”だって自分で言ったからなのか、その空気に一番流されてるのは俺だ。変に意識しちまってる。普段もやってることなのに、どうしてか、普通にキスする時より緊張してきた。初めて食うわけでもねぇのに、最初の一口まで慎重になってしまった。
「甘っ」
「わたあめだからね」
当たり前じゃん、といった具合に言われる。でもきっと、それだけじゃない。