着信を知らせる振動で目が覚める。二十三時五十九分、表示名は『蜂楽廻』。漢字たった三文字、愛おしさすら覚える三文字。嬉しさにほぼ反射で応答にしたが、こんな夜更けに蜂楽が電話してくるなんて今までないことだった。
「……蜂楽?」
「あ、潔起きてた!もしも〜し」
声の調子からも、寝ぼけて掛けたということはなさそうだった。
「こんな時間にどうし……」
「今外出れる?」
遮られた。
「出れるけど……」
*
「にゃは!やっほ〜」
マンションの前、蜂楽が立っていた。……サッカーボールを抱えて。夜中だってのに、太陽みたいな笑顔で立っている。
「なんで……」
「誕生日おめでとう、世一」
“世一”……?いつもみたいに“潔”ではなく、下の名前。俺はびっくりして、声が出なくなりそうだった。
「あれ……おーい、起きてる?立ったまま寝ちゃった?」
「なんで」
「一番最初におめでとうって言いたくて!ドリブルで来ちゃった」
どうしてこんな時間にここに、ってのも確かに気になる。ドリブルで来たってのがいつまでも変わらない蜂楽らしくていいけど。でも今聞きたいのは……、
「そうじゃなくて、名前!名前呼び」
「んにゃ?だって、今日は潔世一が生まれた日っしょ?他の誰でもない、世一のことをお祝いしたいから」
コイツ……抵抗ないのかよ。こっちは聞いてて顔が熱くなるのに。
「もしかして照れてる?」
「照れてないし」
「顔真っ赤だよ♪よーいちっ」
反応が楽しいのか、子供みたいにイタズラな笑顔で再び俺の名前を呼ぶ。正直世一って呼ばれることは嬉しいけど……
「わかった、わかったから……はずい」
たった三文字の甘美な響き。四月一日、時刻はまだ零時二分。一番最初に、何よりも嬉しいものをもらった。