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    kurosiro_ei

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    kurosiro_ei

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    🍄こに行く前に電話かかってきて、お出かけ前の話をするスクレイ(スクシオ? ガムレイ?

    解は出ず 時は永遠の影だという。
     時そのものは永遠に流れており、其れを捉えるために人間は「時間」という概念を生みだした。人は、常に分からぬものを分かろうして概念を生み出す。数多の定義、数多の方式。その全てを以て未知を大地に下ろす。
     地を行く凡人と同じ大地へ。
    「……三度目か」
     端末が短く着信を告げていた。学会からの呼び出しであれば二度目で拒否をしている。メールで済ませられるような内容を感情に任せて、語られるなど時間の無駄だ。簡潔に話をできるのであればまだしも、与えられた時間分、己の正当性を語ることしかできないのであれば——……。
    「識者としての存在意義もない」
     低く吐き捨てた言葉が長く続く廊下に落ちた。星海を渡る船はじきに到着する。すぐにこの港も人で溢れることだろう。乗り合いの船になど乗る気は無いが、カンパニーからのコーディネーターはレイシオにそれなりの席と時間を用意していた。
    「だからこそ……」
     この"仕事"は第三者に知られるような者では無い。少なくとも博識学会はこれを知る立場に無く、一時を過ごした列車の人間も、かのナナシビトも男が此処に居ることを知りはしないだろう。
    「……」
     三度目の通知は切れる様子も無い。ここでこちらが折れると思っているのか——或いは、此処だと解っているのか。
    「天才と凡人の邂逅か」
     は、と息を落とす。瞳に掛かった髪をかき上げるようにして、レイシオは非通知と名を踊らせる端末に触れた。
    「随分と長いことかけるんだな。天才は余程暇を持て余しているか……」
     口にするには上等な皮肉であったか——或いは、出来のわるいものであったか。どうせ、通話先の相手と比べたところで精彩は欠く。
    「時間に余裕があるのか? スクリューガム」
    「あぁ、通話に出てくれたようで安心しました」
    「……」
     これが、こちらの話を聞いていないのであれば反論もあったし、聞く気が無いのであれば言い返す手段もある。だが、この機械の男が——ただの天才ではなく、帝王と呼ぶに相応しい男が"話を聞いた上でそう言っている"程度レイシオも理解していた。——理解できるのが、結局通話に出ることを選んでしまった理由でもあった。
    「随分と鳴らされたからな」
    「貴方が三コールまでに出なければ、私の方が負けかとは思いましたが。繋がって良かったと癒えるでしょう」
    「ほう? それほど熱心にかけられるとはな」
     息をつく。壁に背を預けるようにして、端末の向こう側にいる男を思う。
     天才クラブのひとり。
     ひとりの王であり、あの日、レイシオが間違いを指摘した相手であり、天才というよりは帝王であるとそう思っている存在。
    「スクリューガム」
     連絡先が知られていること自体を、驚くつもりはない。カンパニーが用意した端末でもなく、レイシオの個人端末である以上、この男であれば容易く探し出してみせるだろう。
    (尤も、カンパニーのものでも見つけ出すだろうが)
     さすがに角が立つ。天才クラブにそんなことを気にする存在がいるかは分からないが——あの一件以来、スクリューガムはレイシオに接触をしてきた。最初の頃は、こちらの動きについて懸念事項があるのか、不穏分子としてみているのかとも思ったが——結局、帰ってきたのはひどく簡素な、それでいて数年ぶりにレイシオを笑わせる言葉であった。
    『私は、貴方と話がしたいのです。レイシオさん』
    『ハ、その為に僕の居場所を突き止めただと? 冗談も程ほどにすることだな。或いは、凡人を振り回してたのしいか?』
     三時間か、四時間か。
     意図を探った己の方が愚かであったか。吐き捨てるように告げた言葉に、眉ひとつ動かすことなく——動くような表情も無かったが——スクリューガムは言ったのだ。
     それは、意味のあることだ、と。
    『冗談ではなく、これは、私が望んで行ったことです。レイシオさん。結論:私は貴方とのコミュニケーションを望みます』
    『天才と凡人の茶会か? 労力の無駄だろう』
    『否定:私はその価値を認識しています』
     こうして、と長く尋ね人もいなかった部屋の扉が開く。ひらりとまった幻視の蝶がスクリューガムの手に止まり一礼と共に己の名が響いた。
    『レイシオさん』
    『……、話相手が欲しければ博識学会から誰か寄越そう。カンパニーでも良いだろうがな、口が回る奴らは山ほどいる』
    『いいえ、私は貴方とのお茶会を望んでいるのですよ。レイシオさん。結論:貴方を探すことは、労力には含まない』
    『——』
     その瞬間、己が感じたものが何であったのか。今に至るまでレイシオは理解していない。
     天才にここまでさせた愉悦か。
     或いは喜悦か。恐怖か。
     或いは——そう、単純に呆気にとられただけであったのかもしれない。
    『お茶は如何ですか?』
    『……』
     人の研究室に勝手に乗り込んできて、そんな風に言う相手を突き返す気にならなかった事実に。

    「一般的に見れば、貴方の通信欄を埋めるのは非常識ではあるでしょう。ですが、推測:貴方は、このコールであれば連絡にでる」
    「一般的に見なくても、だが。愚か者達からの連絡で埋まるよりは遥かにマシだ」
     壁に背を向けるようにして立つ。は、と落とした息が人気の無い廊下に落ちた。間接照明の隙間にあるのか。長く伸びた影を眺めるようにして、レイシオは一度目を閉じた。
    「それで? この連絡の意味はあるんだろうな」
    「えぇ。ピノコニーに行くと伺いました」
    「誰も言ってはいないがな。何処から仕入れた情報であるかなど、聞くのはやめておくとしよう」
     スクリューガム相手に知られていない、とは思っていなかった。大方、招待状についても"理解"しているのだろう。ただ、あの地に出かけるだけであればこうも連絡を取ってくる理由も無く——そもそも、此方が何処に行こうが相手には関係の無い話だ。
    (ならば、これは警告か)
     ピノコニーの一件、天才クラブが関わっているとは思えないが——何かがあるのか。
    「ピノコニーのような場所に君が興味があるのは些か驚きだが、僕が行くことで何か問題でも?」
    「問題はありません。ですが、貴方はヘルタでの一件に関わっています。推測:"彼ら"は貴方を見逃さないでしょう」
    「ほう? 奴らに考えるだけの頭があるとはな。なら、これは警告か? これ以上、僕に動き回るなと」
     ヘルタを狙った一件は、結果的に見れば"奴ら"の負けに終わった。一度の負けをどう考えるかなど知った話では無いが、失敗そのものより面子を気にするようなタイプも存在する。同時に、失敗など数に算えず、不和と混沌の種を撒いたことに満足する者も。
    (その意味では、僕が齎した結果は確かに奴らを煽るだろうな)
     死者は出なかった。人死にが出ていれば、如何に状況が解決できようと尾を引く。その結果を星神が見初めるかなど知りもしないが、奴らが何を兆しとするかは奴ら次第だ。
    「奴らを無駄に刺激するなとでも言うつもりかな? スクリューガムさん」
     皮肉めいた言葉を口にのせる。尤も、この男相手に皮肉が真っ当に通じた試しは然程無い。機械生命体が故というよりは、この男だからだろう。
    (その意味では、悪くは無い話相手だが……)
     他人に、己の時間を阻害されるのは好まない。レイシオが行動は、そうすべきと判断したからであり、判断が終わっている時点で"やる"のだ。それを邪魔されることを、レイシオは好まない。尤も、好むような人間がどれ程いるかだが。それは、この奇妙な関係が始まったときに先に伝えたものだ。
    『僕は、相手が誰であろうと気にはしない』
    『えぇ、どうぞ。結論:私は貴方の邪魔をする気はありません』
     事実、レイシオの研究室に態々顔を出したこの男は、他の教授陣との討論を——実際の所は、協調性を持てという訴えであったが——を「構いません、そのままどうぞ」と言って眺め、最終的に教授達が憤慨し、涙まで見せながら出ていく様を見送った。教授達に口を挟むことも、レイシオに何を言う訳でもなく、ただ、全てが終わった後で「では、私が貴方の時間を頂いても?」と言ってのけた。教授達との討論という時間を邪魔することなく、それでいて協調性があると言われたこの機械紳士は、レイシオの論調にも彼らの訴えにも何も言いはしなかった。
    (……思えばあの日か)
     あの日から、スクリューガムという男が本気で自分と話をする為に此処まで来ているのだ、と思ったのだ。
    「あの冥火大公を」
    「えぇ、確かに冥火大公は面倒な相手ではありますが、ただの警告が貴方に必要とは思えません。推測:今回の冥火大公の動きには些か不可解な点はあります」
    「——ほう?」
     不可解。そうスクリューガムは言った。この男が解を手に入れ損ねたか——或いは、非合理的であると断じたか。導き出した解が、この男の言う推測が"それ"を告げたのだろう。
    「——ほう? 不可解か。君がそう言う程のものが、奴らにあると?」
    「彼らの行動だけでピノコニーを掌握擦ることはまずできないでしょう。推測:それを冥火大公が認識していないとは思えない」
     だからこそ、とスクリューガムが一つ言葉を切った。この男にしては随分とめずらしい間に、レイシオが小さく瞬く。お茶会と称したあの時間でも、カップを手にしたスクリューガムがこの手の間を作ることはなかった。まるで、人であれば言葉を探しているような間を。
    「スクリューガム?」
    「——私は、貴方とこうして話せなくなることを望みません。結論:だからこそ、私は貴方を私の都合で心配しているのです」
    「——」
     は? と馬鹿みたいな声が出なかったのは、奇跡に近い。そんなもの信じている訳でも無かったが——この瞬間、確かに踏み止まった己の理性にレイシオはひどく感心して、同時にこの男の、スクリューガムの言った言葉に息を飲んでいた。
    (この男は、何を言った?)
     外を映す港の窓硝子に、目を瞠る己の姿が映り込む。二度、三度、馬鹿みたいに瞬いた後、それでも言葉を見付けることが出来ないままレイシオは唇を引き結んだ。
     例えば、これがスクリューガム相手で無ければ、口説き文句のようだなとでも、或いはレーのようだな、と言って見せた。安い口説き文句かとでも。だが、相手はあのスクリューガムだ。
    天才クラブのメンバーであり、スクリュー星の王。
    (機械生命体にも感情はある。それ自体は有機生命体と変わらない。だが、スクリューガムだぞ?)
     恋をしているようだな、と揶揄うことが出来るかと言えば——ノーだ。だが——……。
    (盲信とは愚か者がすることだ)
     天才クラブをして人格者と言われるこの男が、存外、我が強いことをレイシオは知っている。思いしる程に。この男の押しの強さも、何よりスクリューガムという男を、この天才であり帝王たる男をレイシオは"知って"いるのだ。
    (そして、知ったことを僕は悔いてはいない)
     愉悦を感じ、興味心を擽られ、その上、悪くは無いと思った。その事実は、今更変えられるようなものでもない。
    「……、此処で自ら解を誤るのは愚か者のすることか」
     息を、吐く。肺腑の底に溜まっていた息の全てを吐き出すようにして——その間、ただの一度も口を挟むことをしなかった男の名を呼んだ。
    「スクリューガム」
    「はい」
    「これは僕自身結論を得ていないことだ。推測で話すのは好ましくは無い上に、この推論はあまりに雑で、正直、好みはしない」
     だが、と息を吐く。
    「どれだけ論じたところで、尤もらしい点数がつくわけでも正解と告げる誰かがいるわけでも無い。僕も、これが自分でなければ、僕と君でなければ気持ちに価値はつけられないと言えただろう」
     けれど、と言葉を切る。吐息に似た短い呼吸音に似た空気の揺れが端末の向こうから届く。
    「スクリューガム。此処に居るのは僕と君だ。
     正直に言おう。僕は、君との関係を計りかねている。君が研究室に来るのは悪くは無いと思うし、君とする会話も楽しいと感じられる」
    「それは何よりです。貴方を、無理矢理に巻き込んでいないか心配でしたから」
    「——だが、君は確信していたはずだ。僕が、巻き込まれていると思っていないことを」
     君はそこまで、我が強い訳でもないだろう。とレイシオは息を吐いた。引き際を見極めているタイプだ。これ以上の一線を、認識している。それが機械生命体においては珍しいことであるのかは知らない。有機生命体であっても、認識できるものや、引き際など見極めない——気にしない類いのものもいる。
    「私は、それほどコミュニケーションに長けている訳ではありません。推論:本気で嫌がっているのであれば貴方は私を排除することができたでしょう」
    「僕もそこまで野蛮じゃないからな」
     軽く肩を竦める。は、と吐きだした息の先、言葉として聞いてしまえばひどく納得も出来た。
     そう、本気で嫌であれば自分はそれを我慢することは無いだろう。ならこれは——。
    「僕が望んだことでもある」
    「レイシオさん」
    「だが、同時に、僕は僕自身を理解できていないところはある。君との会話は有意義であり、凡人とは違う。だが、それだけの理由で僕がこの通話を切らずにいるわけではない」
     僕は、と息を吐く。静寂に包まれた港に己の声が落ちる。
    「僕がどうして君との会話を許容するのか。君が訪ねに来るのを悪くは無いと思うのか。これが、僕と君が関わったものでなければ、早々に答えを出すだろう。どんなものであれ、気持ちに価値はつけられないからな」
     どんな無様な解でも、どれほど愚かな言葉でも、そこにつける点数は存在しえない。それを理解しているからこそ、レイシオは言った。
    「——僕は、他の誰にも抱いたことは無い感情を君に抱いている。それが恋なのか愛なのかは分からない」
     この感情が、ただの友情であるかと言えばそれも違うのだろう、と息を吐く。
    「友愛や親愛の延長線かと言われれば解答に悩むところだが——今は割愛しよう。
     僕は、他の誰かにこうして君と話をする立場を譲ることはないだろう」
     それは、と息を吐く。
     この関係が何であるかは分からずに——だが、只一つ己の中で分かっている答えをレイシオは口にした。
    「僕は、君との時間を手放すことは無いし、誰かの譲ることもない。これは、僕のものだからな」
    「貴方らしい言い分ですね」
     吐息一つ零すようにして、端末の向こうでスクリューガムが笑っていた。穏やかな、安堵に似た笑みに軽く肩を竦める。
    「好きに言えば良いさ。今は気分が良いからな。
     僕は、君と居たいのだろう」
    「——」
    「僕だけにして欲しいなどと、俗っぽい馬鹿げた話は言わないがな」
     大学でたまに聞く揉め事を思い出しながら低く笑って、壁に背を預けた。背に感じる冷たさが今は心地よい。吐きだした息は、結局、曖昧なままで居させることのできなかった己に対して。解を求めた時点で、その輪郭を掴みながら中味を見いだすことが出来なかったからこそ、レイシオは口を開いた。
    「その上で天才である君に問おう。スクリューガム。君にとって、僕達の関係は何だ?」
    「……」
    「スクリューガム?」
    「はい。饒舌な貴方を聞く事が出来たので。顔が見れなかったのが残念です。結論:私は貴方の言葉を好ましく思います。その上で、貴方の問いに答えましょう」
     息を吐く音がした。言葉に悩むと言うよりは、何処から話すべきか、そう悩んでいるかのような間に珍しいと思いながらレイシオは吐息の向こうを探る。この男の言葉を待っている時間が、そう嫌いではなかった。
    「私は貴方との時間を好ましく思っています。結論:私も貴方との時間他の誰かに譲ることはないでしょう。
     私が貴方とのコミュニケーションを望んだのは、貴方に興味を持ったからであり、貴方との会話がとても有意義であったからです」
     あの日の会話が、とスクリューガムが一つ言葉を切った。宇宙ステーションは面倒な目にはあっただろうが。
    「あの日の会話か」
    「はい。私は、貴方が天才への神話を打ち崩そうとしていることも、貴方が医者と言ったことも興味深く思いました。推測:貴方が私に問いを投げかけた時から興味を持っていました。他の誰に抱くものとは違った興味を。これは私のコアに命の火が灯されて以来、初めて感じた感覚でもあります」
     この感覚に、私は正しい名前を見付けられてはいません。
     静かにスクリューガムの声がそう、響いた。スクリュー星にいるのか、相変わらずヘルタの方に出向いているのか。何にしろ、他の誰もいないような場所なのだろう。声の響き方がそれを示していた。
    「私たちの出会いには、すべて並々ならぬ意味が与えられています。その上で、私は貴方の問いに対して『私も分からない』と応えましょう。結論:貴方の問いは、貴方と私を以てしても回答を今は得られないのでしょう」
    「ほう、今は、とは?」
    「そのままの意味です。レイシオさん。貴方と私がこれだけ言葉を交わしても、尚、私達の関係が何であるか、愛情や恋というものであるかその問いに対する答えを求めることが出来ていません。結論:ならばそれは私達がいずれ、解くべき命題なのでしょう」
     レイシオとスクリューガム以外が解くことなど許されず——それでいて、これほどの者が二人揃って解けない問題であれば『いずれ解く』べきだ、と。
    『スクリューガム。君にとって、僕達の関係は何だ?』
     この関係が恋や愛といったものなのか。
     それとも別の、何かであるというのか。
    「それは、君にとって解けない問題であるからか? スクリューガム」
    「そうとも言えるでしょう。私も、貴方との関係が何であるかは分かりませんが……、今、このコアに宿る感情を、私は仲間に並列化して共有することはないでしょう」
     この感覚は、とスクリューガムは笑うように告げた。
    「私だけのものです。レイシオさん」
    「——、ずいぶんと」
     は、と息を吐く。この男から聞くとは思えなかった言葉に、胸の裡に滲む感覚は、感情は何だというのか。じわじわと熱を持つそれに、心臓が早鐘を打つ前にレイシオは口を開いた。
    「熱の籠もった殺し文句だな」
    「そうでしょうか。貴方に響いていたのであれば、幸いです。レイシオさん」
    「——君、分かっていてやってないか?」
     帝王、とスクリューガムを表したことがある。彼のやろうとしていることを思えば、天才という言葉に留まりはしないだろう。彼は、その足跡に、この宇宙に広がった機会生命体の全てに対して道をしめそうとしている。
    (その男が、他と共有しないと)
     その言葉に、震えた心臓は、滲んだ感覚が何であるのか本当に気がついていないなんて、言えるのか。
    「……」
    「レイシオさん?」
    「なんだ、まだ警告があるのか」
    「貴方を心配しているだけですよ。推測:ファミリーからの招待状には不審な点が多くあります。お気をつけください」
     不審な点。現状、不審以外存在もしないが——この言い方からすれば、時計屋の件も気がついているのだろう。或いは天才クラブとしてではなく『誰か』に連絡でもいったのか。
    「あぁ。分かっている。……僕も、次の会話を楽しみにしていたからな」
    「——はい。ではお気をつけて」
     短く告げられた言葉と共に通信は終わった。顔が見たかったなどと言っていた男を思い出して、窓硝子に映った己の顔を見る。
    「ふ、随分とひどいものだな」
     交渉ごとにはまず向かない、随分と調子の崩された顔をした己に息を吐く。結局、それも悪くは無いと思うのだからこの関係を——未だ解の出ない関係を続けていくのだろう。
     スクリューガムという男と。
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