それが戀だとしらぬまま「お前の髪が長ければ」
「ん?」
「組紐でも良かったんだがな」
ピノコニーに向かう少し前のことだった。一緒に行きたそうにしていた穹に気が付きながら緩く首を振った後にしたのは、面倒ごとに巻き込まれるなよ、という話だった。ナナシビトの痕跡を辿る以上、面倒ごとが何もない、とも言い切れないだろうが、それにしてもこいつは何かと巻き込まれることも頼られることも多かった。
少なくとも丹恒の感覚からすれば、この記憶の無い青年——友人は、常に話の中心になりがちなのだ。
「お守り?」
緩く穹が首を傾ぐ。さらさらと揺れる灰色の髪は、髪飾りを結ぶには向かないだろう。軽く手を伸ばせば、猫がそうするように穹は首筋を晒す。
「あぁ、身に着けておくものの方が良いだろう。なくさないからな」
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