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    C7lE1o

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    塀本丸のお話
    4000字超えても肝心の桑名くんの姿が見えなくて????ってなってる

    #桑名江
    sangMingjiang
    #篭手切江
    handCutRiver
    #豊前江
    toyo-maeRiver
    #松井江
    matsuiRiver
    #村雲江
    murakumoRiver
    #五月雨江
    mayRainRiver

    畑が欲しい夜行列車本丸の桑名くんの話畑がほしい桑名くん
    ガタン、ゴトン。
    心地の良い揺れに目を開ける。開かれたカーテンから差し込む日差しに目を細めた。

    「……ああ、おはよう、主」

    そう呟き、起き上がって伸びをする。

    今日の主は、どこを走っているのかな。

    この本丸は、夜行列車の形をしている。
    そして僕達の主は、人の形をしていない。
    本丸であるこの列車が審神者そのものなのだ。

    「今日の主はどこをはしっているんだい?」

    窓に顔を寄せて見る。
    外には透明な青が広がっていた。

    「松井さん、おはようございます!今日は海みたいですよ」

    寝台から降りて共有スペースへ顔を出すと、篭手切が声をかけてきた。

    「おはよう篭手切。綺麗だね。豊前は?」

    「主と競争してます」

    「またかい?懲りないなあ」

    困ったように笑う篭手切に、同じく苦笑いで返す。

    僕達の豊前は、よく主と競争だと言って肩を並べて走っている。
    自分でも何を言っているのかよく分かっていないが、どこの本丸の豊前も疾さを求めるものだと聞く。
    なんらおかしい事ではないのだろう。多分。

    「そういえば、桑名と五月雨は?」

    「雨さんは遠征、桑くんは近侍だよ」

    問いかけに答えてくれたのは篭手切の背後から顔を出した村雲だった。
    こころなしか顔色が悪い。

    「おはよう、村雲。そうだったか。五月雨、早く帰ってくるといいね。具合が悪いなら無理しないように」

    「おはよお松くん。ありがとねえ」

    お腹をさすりながらへにゃりと笑う村雲の隣に座る。
    と、すかさず篭手切がお茶を持ってきてくれた。

    「ありがとう。朝食、食いっぱぐれてしまったなあ」

    「昨日は出陣でお疲れでしたでしょうし、仕方ありませんよ。簡単なものでしたらご用意できますが……」

    「ありがとう。お昼に沢山食べるから大丈夫だよ」

    時間は朝を過ぎ昼に差し掛かろうとしていた。
    それならお昼まで我慢したほうが篭手切の負担にもならないだろう。

    「承知致しました!お茶菓子もありますので、お腹がいっぱいにならない程度にどうぞ!」

    にこにことコップの隣に袋入のクッキーが3つ並べられていく。
    つくづく気が回る子だ。

    「あ、これ、この間桑くんがお土産に貰ってきてくれたやつだ。」

    テーブルに突っ伏していた村雲が、袋を一つ手に取る。

    「確か、前にお世話になった本丸で採れた野菜を使った野菜クッキーって言ってた気がする」

    「ああ、あの本丸の……」


    この本丸は夜行列車という性質上、常にどこかを走っている。
    そのため、この本丸に顕現する刀剣男士は皆乗り物に強かった。
    だがある時例外が発覚する。
    特命調査に先行調査員として派遣された後にこの本丸の所属となった刀剣男士たちだ。
    中でも南海太郎朝尊は異常なまでに乗り物に酔いやすく、出陣以外、すなわち本丸にいる間は顕現を解き刀の姿に戻らなければならないほどだった。
    それをなんとかしてやりたいと源清麿がインターネットで知恵を募った結果、セグウェイという乗り物を乗り回す南海太郎朝尊を有する本丸と審神者の力を借りる事となった。
    結果、豊前がセグウェイに興味を持つという予想外の出来事が発生したものの、無事南海太郎朝尊の乗り物酔いは克服されたのだ。


    「……あの本丸といえば、桑名さん、あちらへ遊びにいかれてから少し元気がありませんよね」

    僕と村雲の向かいに腰をおろした篭手切が、遠慮がちにそう呟いた。

    「……俺の気のせいかもって思ってたけど、篭手切が言うならやっぱり勘違いじゃなかったのかも。覇気がないというかなんというか……」

    「そうだね。まるでしなびた大根みたいだ」

    南海太郎朝尊がセグウェイ本丸へ赴いた時、興味本位で何人か同行した男士がおり、そのうちの2人が豊前と桑名だった。
    曰く、セグウェイ本丸にはとても立派な畑があったのだとか。
    演練で他の本丸の桑名から話を聞くことはあれど、実際に目にするのはそれが初めてだったと言う。
    帰ってきた桑名は大変興奮しており、嬉しそうにあちらの畑の話をしてきたのを覚えている。
    だがその翌日から、少しずつ桑名の笑顔が陰っていった。
    理由は明白。
    この本丸には、畑がないからである。


    「なんとかしてあげたいけど……畑はなあ……」

    日に日に丸くなっていく桑名の背中を思い浮かべながらぼやく。
    そう。畑だ。
    単純な話、桑名を元気づけたいなら畑を用意すればいい。
    だがそれはできない。
    何故か。
    それこそ単純明快、この本丸が移動し続ける夜行列車だからである。

    「流石に列車の中に畑を作る事はできませんものね……」

    「ここが俺達の本丸と言えど、主でもあるからね」

    ガチャン。
    次の瞬間、室内に降りた沈黙を霧散させる明るい声、独特の開閉音と共に響いた。

    「なーんか、重っ苦しい空気だな?」

    「「豊前!」」

    「りいだあ!」

    豊前は僕達に応えるように軽く手を上げ、篭手切の隣へ腰を下ろす。
    ふわ、と何とも言えない爽やかな香りが鼻をかすめた。

    「お風呂入ってきたの?」

    「ああ。潮風もあびちまったからな。今日は浦島も一緒だったんだぜ!」

    「浦島さん?珍しいですね?」

    「走りに行こうとしたら浦島に出くわしてな。海の匂いがするって言われてから、海だって気づいたんだよ。一緒にどうだって言ったら乗ってきてな」

    「ああ、なるほど」

    「主もいつもよりスピードを落としてくれてたからな。しばらく主と浦島とで海を見ながら走ってたんだ」

    気持ちよかったぜ!と眩しい笑顔を見せてくれる。

    「海を見ながらかあ。それなら僕も行けばよかったかな」

    「海の近くに来ることはあまりないですからね!」

    「おっ!なら午後にでも走ってみるか?腹ごなしにでもさ!」

    「そうだね。せっかくだし走ってみようかな。豊前も走るだろう?」

    「あったり前よ!篭手と雲は?」

    「私もご一緒させてください!」

    「お、俺は……雨さんがいないし……でも皆一緒なら、ちょっとだけなら……」

    「よし!決まりだな!桑名はどーすっかな?」

    午後の予定が決まろうという所で、豊前が桑名の名を口にする。

    「桑名さんは今日から一週間近侍だそうですよ」

    「なんだ、そうなのか?なら一緒には走れねえな」

    「でも、近侍部屋から顔を出してくれるかもよ」


    本丸の行き先は基本、主が決めている。
    主が自分の意思を持って動いているので、運転先のようなものも無い。
    かわりに先頭部分には他の本丸で言う所の近侍部屋が設けられている。
    週替りの近侍は一週間をその部屋で過ごし、書類仕事ができない主にかわり政府へ提出が必要な書類の作成等を行う。
    そのもう一つ先の部分に出陣用の鳥居があり、そこから各時代へと赴く事になっている。

    「桑名と言えば、アイツ最近ちょっと元気なくねえか?」

    篭手切の入れてくれたお茶を飲みながら、不意に豊前が言った。

    「やはりりいだあもそう思われますか?」

    「皆感じてるって事はやっぱりそうなんだろうね……」

    「なんだ、お前らもやっぱり気づいてたか。その調子じゃ原因の見当もついているみてえだな」

    「まあね」

    どうしたものか……といったところで呼び出しのインターホンが鳴った。
    列車の走行音でノックの音に気づかない事もある為、各部屋にインターホンが設置されている。

    「はい!」

    『あ、江の人たち〜。お昼の順番回ってきたよ』

    篭手切がパタパタとインターホンに駆け寄ると
    機械越しにどこかのんびりとした口調の声が響く。
    比較的最近やってきた刀剣男士の姫鶴一文字だ。

    「ありがとうございます!今日は一文字の皆さんが担当されたのですか?」

    「ほんとは御前と南くんだけのはずだったんだけど、なぜか手伝わされた……」

    ガチャン、と引き戸の扉を開くと姫鶴一文字が不満げな顔をのぞかせる。

    「はは、仲良しだな!」

    「食べ終わったら次、新選組の子たちに声かけてきて」

    カラッと笑う豊前を躱し、僕達の隣にあたる部屋のインターホンを鳴らしながら姫鶴一文字が言った。
    了解と返事をして、姫鶴一文字がやってきたであろう進行方向の扉へ進む。
    先頭の豊前が「主〜、食堂車!」と言ってから扉を開くと、そこは二階建ての食堂カーだ。

    二階建ての車両がいくつも連なるこの本丸だが、最初は普通の夜行列車と変わらない見た目をしていたらしい。
    だが刀剣男士が増えるのに合わせて「いつのまにか増設」されている、という事を繰り返すうちに車両の大きさも長さも普通のものとは比べ物にならないほど大きく長くなったのだそうだ。

    だが、不思議な事に二階建て車両の一階において、メゾネットタイプ、という部屋の作りをしている僕達の部屋の上に、同じメゾネットタイプの部屋があっても外から見る分には普通に二階建ての車両と変わらない見た目をしているらしい。

    先程豊前が言ったように、扉を開ける前に行きたい場所、用のある刀剣男士の名等を口に出せば、それを聞き取った主がその車両へ繋げてくれるというとても有り難いシステム然り、最初はとても不思議だった。
    だが本丸と、主と、皆と過ごす中で、うちではそういうものだと割り切って過ごしている。


    また、この「いつのまにか増設」は読んで字の如く、主の意思でいつの間にかなされている増築の事を指す。
    昨日まで一階建てだった図書車両が翌日には二階建てになっていた、個室同士を与えられたもの同士が「同室がいいな」と話した翌日目を覚ますととその二人の部屋が繋がっていたetc……。

    実は僕達江もこの口で、最初は一人一人個室を与えられていたが、共に出陣をこなすうちにもっと彼らと過ごしたいと思うようになり、気づけばは部屋が繋がっていた。
    同じ部屋で目を顔を合わせた時は酷く驚いたが、皆も同じように思っていた事が嬉しくて、その日は皆で遅くまで語り明かしたのを覚えている(主は嫌がるものに無理に誰かとの同室生活を強いる事は無い)。



    「おお、来たか。今かなり混んでいるから、まとめて座るなら二階の奥の席を使ってくれ」

    「ほら、見ろ!今日はカレーうどんだぞ!」

    こちらに気づいた山鳥毛と一文字則宗が声をかけてきた。
    二人に礼を言いつつ、僕達は各々空いている席を見つけまた後でと解散する。

    名前を呼べば車両がつながるし、なんなら主の「いつの間にか増築」の一貫で突然隣室になるものもいるが、それどもやはり夜行列車本丸。
    普通に過ごしているだけでは中々会えない仲間もいる。
    食堂車両での食事は、仲間との大切な交流の場でもあった。

    「よお松井!この間勧めてくれた本読んだぜ!」

    「次は俺がおすすめの本を貸すよ」

    手招きされるままについたテーブルにて、会話に花を咲かせながら、つかの間の交流を楽しむのだった。



    「――よし、全員揃ったな」

    数日後、部屋の共有スペースにて。
    桑名を除いた篭手切、豊前、五月雨、村雲、稲葉、そして僕の六振が、顔を突き合わせてテーブルを囲んでいた。

    「……桑名江がいないようだが、いいのか」

    「ああ、大丈夫だ。桑名に関する話し合いだからな。本人には聞かれねえほうがいいんだ」

    揃った顔ぶれを見て疑問を口にした稲葉に、真剣な表情で豊前が返す。
    遠征から帰ってきた途端集合だと言われ、部屋に戻れば桑名以外の全員が集まっていたのだから、稲葉の疑問は最もだ。
    しかし、深刻な事かと表情を引き締めた稲葉には申し訳ないが、これから行われる話し合いは――。

    「よし、『桑を元気づけるにはどうすればいいか』の作戦会議を始めるぜ!」

    これである。
    いや、仲間の元気がないのだから、一大事ではあるのだが。

    「……元気がないのか、アイツは」

    「ああ、前に他の本丸に行って、畑を見せてもらった後からな。ほら、うちって畑ねえだろ?」

    「致し方あるまい。本丸の形はどうする事もできん」

    「それは分かってるさ。分かった上で、元気づけてやりたいんだよ」

    「……ならば案をだせ。でなければ始まらぬ」


    呆れた表情を見せながらも、付きあってくれるらしい姿勢を見せた稲葉に、豊前の表情がパッと明るくなる。
    ひそかにハラハラと状況を見守っていた篭手切と村雲が、顔を見合わせてと安堵の息を漏らした。


    「じゃあ始めるぜ!まず、桑が喜ぶ事ってなんだと思う?」

    「そうですね……やはり桑さんと言えば野菜でしょうか」

    「献立に野菜多めだったら喜んでるもんね」

    「この間のアレなんか、気に入っていたようだよ。なんと言ったかな?あの、真っ赤な液体の中に野菜がたっぷり溶け込んだ」

    「ミネストローネの事でしょうか?」

    「そうそう、ミネストローネ。美味しかったよね」

    「じゃあ、それを作ってくれるようにお願い……いや、俺たちが当番の時に作ってやれればいいか?」

    「その、みねすとろーねとやらは、我らでも作る事が可能なものなのか?」

    「少々お待ち下さい」

    稲葉の疑問を受け、五月雨が図書館車両から借りてきた料理本のうち、スープを主に掲載している本を手に取る。
    少しの間、


    「そうですね……。お野菜やべーこんを切って鍋で炒める、と書いてありますので、普段あまり料理をしない私達でも作れるのでは無いでしょうか」

    「切るだけなら、俺でもできそう。二束三文でも刀だからね」

    「なら、そのみねすとろーね、を近侍交代の日に作ってやるっていうのはどうだ?さぷらいずでさ!」

    「とても良い案だと思います。ですが……」

    間髪入れず、篭手切が申し訳無さそうに挙手をする。

    「先日のミネストローネ、他の男士達にも好評だったそうなのですが、当分は献立に登らない事が決定しているそうです……」

    「え?どうして?」

    「スープ、ということで、液体ですし、最新の注意を払っていたそうなのですが、本丸が揺れた際にお皿をひっくり返してしまった男士が続出した、その事です」

    「……なるほど」

    確かに。
    数ある料理の中でもスープは、常に揺れている本丸の中で食すには難易度が高めだ。
    加えてあの色。真っ赤なスープは、染みになってしまうと落とすのに苦労する事だろう。

    「ミネストローネは却下だな……」

    「あ、じゃあさ、花瓶を飾るのはどう?桑くんの枕元とかに」

    唸る豊前に、今度は村雲が挙手をした。

    部屋ごとにレイアウトが違うが、僕達江の部屋は入って進行方向側にロフトが3つ、階段状に重なった共有スペースが、その反対側にはカプセルホテルのような部屋のような寝台が縦に2つ、横に4つ、入り口を車窓に向ける形で設置してある。
    寝台の中は稲葉や桑名が2回、寝そべって転がれるくらいの空間が有り、そこを個人の空間として各々自由に物を置いているのだ。
    例えば、篭手切は小さめのテレビと再生機器を置き(共有スペースにもテレビはあるが)、それでよくれっすんのための資料となる映像を見ている。

    その空間に、花を飾ってはどうか、というのが村雲の提案だ。

    「……桑名江ならば、土があるほうが良いだろう」

    「あ、そ、そっか、そうだよね……」

    「……土が入れられる、容器のようなものがあっただろう」

    稲葉に突っ込まれ、挙げていた手は腹部へと当てられる。
    それをみた稲葉は苦々しげにしながらも、言葉足らずだった、と付け加えた。

    「あ、プランターの事ですね!」

    「あれなら寝ながらでも大地感じられそうだな!」

    「確か、桑名の枕元の丁度上にある棚が空いていたはずだ。そこにプランターを置けば……」

    「あ」

    案がまとまりかけた時、五月雨が小さく声を漏らす。
    自身に集まる視線に、しまった、とでも言うようにパッと口元を抑えるが、時既に遅し。

    「どうしたの、雨さん?なにか気になる事でもあった?」

    「……以前、図書館車両で読んだ本の中に、『就寝中、頭上に置いていた花瓶が落下、脳天を直撃しそのまま……』という記述があったのを思い出しまして」

    「「「「「………………」」」」」


    朝、いつまで経っても姿を表さない桑名を起こしに寝台を覗く。
    と、そこには頭部付近が土まみれのまま寝台に横たわる桑名、傍らには割れた花瓶の破片が散乱して――――。


    「一旦枕元から離れてみっか!!」

    「目覚めとともに土まみれは……。流石の桑くんも怒るんじゃないかなあ……」

    「……怒りはしないんじゃないかな。むしろ喜びそう」

    「松井さん!?」

    「冗談だよ。でも植物の痛みは気にしそうだよね」

    「愚策であったか……」

    「私は凄く良い策だったと思います!!」

    「篭手……」

    「何してるの?」

    帽子のつばを引き下げ表情を隠そうとする稲葉を、篭手切が拳を握って力いっぱい肯定する。
    微笑ましい雰囲気が広がりかけたその時、聞こえてくるはずのない声が空気を揺らした。





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