ガルグ=マクの寝物語 ま、どうなさったの、こんな遅い時間に。もう消灯の時間は過ぎていましてよ。
……そう、眠れないんですのね。
どうすれば眠れそうかしら。
そうですわ。もう遅い時間ですから少しだけですけれど、わたくしのお話を聞いてくださる?
人のお話する声って、なんだか安心するでしょう。そのうちあなたも眠くなるかもしれませんわよ。
ふふ。それでは、いきますわよ。
むかしむかし、あるところに、一人の戦士と一人の修道士がいました――。
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むかしむかし、あるところに、一人の戦士と一人の修道士がいました。
二人は親友同士でしたが、性格はまるで反対でした。
戦士、名前はカスパルといいましたが、彼は考えるよりも行動する方が早くて喧嘩好き。けれど、人懐っこくて、どこか憎めない人でした。
もう一方の修道士リンハルトはといえば、頭は良いのですが大層な面倒くさがりで、しかも人の気持ちに鈍感な人でした。
しかし、不思議と二人は子供の頃からの仲良しで、ついには二人で旅に出たというわけなのでした。
さて、そんな二人は道中でとある村にさしかかりました。
すると、何やら村人たちは一軒の家の前に集まっています。人の輪の中心では、若い娘さんとその両親らしき男女がおいおいと声をあげて泣きながら抱き合っていました。
一体何があったのでしょうか。カスパルは首を傾げます。
ですが、その村はダグザにあったのですけれど、カスパルはダグザの言葉がちっとも分かりません。ですので、彼らがどうして泣いているのだか、まるで見当もつきませんでした。
幸い、リンハルトはダグザの言葉を勉強していたので多少は分かります。彼は周囲の人に話を聞きました。
村人たちの話はこうでした。
「村の近くにある森には、恐ろしい化物が住んでいると言い伝えられている。そして、つい最近、村長の家に大量の食べ物をよこせというその化物からの文が投げ込まれていた。
しかし、化物の要求する食べ物の量は、とても村の蓄えで賄えるようなものではない。こうなれば、村の若い娘を売ってお金を工面し、よそから食糧を買うしかない。
売られる娘は公平にくじ引きで選んだ。あの家の娘がそのくじに当たってしまい、彼らは悲しんでいたのだ」
その話を聞いて、カスパルはすぐさま森へ向かおうとしました。
「化物だか何だか知らないが、そんな無茶な要求で村人を困らせる奴は、オレがとっちめてやる!」
しかし、リンハルトが彼を止めます。
「待ってよ、カスパル」
「なんで止めるんだよ。そんな訳の分からない事情で売られちまうあの娘さんがかわいそうじゃねえのかよ」
「そうは言っていないよ。きちんと調べてから行くべきだってだけ」
「んなことしてる暇があるなら、化物をぶっ飛ばす方が早いじゃねえか」
「化物が本当にいるならね」
「なに?」
そうしてリンハルトは不敵に笑いました。
「化物はいないかもしれないよ、カスパル」
つづきません!!!