なんでもない日……だった日 & 呼び方の色々なんでもない日……だった日
「来てやったぞ」
「うん、いらっしゃい」
賃貸であるこの城の扉が、三ヶ月ぶりに外から開かれた。出迎えるのはここに住まう痩身の吸血鬼と使い魔のアルマジロ。出迎えられたのは赤がトレードマークの退治人と彼と共に暮らすツチノコとかぼちゃ。
「今回は長かったね…海外だっけ?よく行くよねえ…」
「おう!名が轟き過ぎるのも困ったもんだぜ」
「そういうのはもう少し困った顔をして言うものだよ」
慣れた手つきで帽子とマントを回収した痩身の吸血鬼が、退治人に風呂をすすめながら、何が食べたいか問うと吸血鬼の予想通りの答えが返って来た。
「和食、味噌汁」
「もう出来てるよ」
「マジか……飯作って俺の帰りを待ってくれる誰かがいるっていいな…」
「『誰か』じゃないでしょ?」
「そうだったな『ダディ♡』」
「だからそれやめてってば!『ダーリン♡』がいい!」
かつて真冬の空のように青く澄んでいた退治人の瞳には、吸血鬼ドラルクの血によって赤い色がまざっていた。
「じゃあ『パパ』と『お父様』と『おとぉさま』と『父上』と『親父』と『ちち』と『パピー』のどれがいいか決めろ」
「私たちは伴侶!親子だけども伴侶!伴侶!伴侶!伴侶!」
「―――父の日に間に合うように頑張って帰って来たのに不満なのかよ…」
「そういうことなら不満じゃないです!」
吸血鬼でありながら、吸血鬼退治人を続ける赤い男の口角が上がった。
「『おとぉさまぁ…父の日のプレゼントは僕です♡』」
「性癖おかしくなっちゃうからやめてって…!」
呼び方の色々
「なあダーリン」
「……なに企んでるの?」
「信用ねえな…今日ハンバーグ食いたい」
「デミグラス?和風?チーズ?煮込み?」
「なあダディ♡」
「……指一本分しかお金出さないからね」
「庭に水琴窟作っていいか聞きたかっただけだわ…てか一本いくらだよ」
「一千万ドル」
「ドル!?」
「なあ親父」
「………割と…割とそれが一番嬉しいかもしれない自分が嫌っ!」
「めんどくせえな…」
「おい、吸血鬼ドラルク」
「待って待って殺さないで!なにがバレちゃったのか教えて!」
「呼んでみただけだわカス……とりあえず隠してること吐けやボケ」
「ブラフ…!?あ、あの…その……洗濯前にシャツの匂いを嗅いでごめん…」
「………ギリセーフ」
「ねえ、退治人ロナルド」
「怪我してねえぞ!隠してもねえ!」
「……『今』してないだけだよね?治ったけど怪我はしたんでしょ?」
「…………はい」
「素直で何より…じゃあお仕置きね」
「……怖いやつか?」
「まさか!―――気持ちがいいやつだよ」