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    りつまお すけべ未満なすけべ

    #りつまお
    overearnest

    SS「りつ……っ」

    俺を求める甘い声。泣き出しそうなふたつの瞳。汗ばんだ素肌をぶつけ、粘度を増した互いの熱を絡め合えばいっそう悲鳴は艶を帯びる。
    綺麗だと思った。妙なぐらい、彼の何もかもが俺の心を擽る。
    今まで見たこともないような表情で俺に縋る彼へ、言いようもない愛しさを覚えながら、けれども何かが腑に落ちないと首を捻る。
    そうだ、俺は確かに見たことがない。こんな彼を一度も見たことがないはずなのに──。
    違和感に導かれるままよくよく目を凝らして見れば、薄暗い部屋の中、一糸まとわぬはずの彼の全身は靄が掛かったかのように不鮮明で曖昧だ。真っ白なのか、赤いのか、暗いのか、さきほどまで鮮明だったはずの彼の肌色さえ分からない。泣き出しそうだと思っていた瞳も、顔全体が夜の色に覆われて今となっては何も見えないでいる。
    照明のせいではない、これではまるで夢のようだと気が付いた瞬間、ひときわ大きく鼓動が跳ねた。彼の表情も、熱も、絡む腕も、なにもかも思い出だ。彼と過ごしてきた清らかな時が、へどろのような薄汚い欲望のため作り変えられてしまったのだと自覚すれば言いようのない不快感が込み上げる。
    にもかかわらず下腹部を覆う粘度だけは醒めないまま、上昇する体温も味わったことのない心地も、己の意志とは無関係に速くなる呼吸も、現実であるかのように生々しく脈を打つ。

    「……っ、ま……っ」

    ぶるりと大きく腰が震え反射的に目を瞑れば、訪れた虚脱感に情けない声が漏れる。
    泥のような闇の中で、あの子は最後にどんな顔をしていたのだろう。この目でお前を見たいのに、この口でお前に謝りたいのに、この手でお前に触れたいのに。まとまらない心を置き去りにして意識は闇の中へと沈み、俺の言葉を溶かしてゆく。

    重い、熱い。気持ちいい、暗い。
    ごめん。ごめんね、ま〜くん。

    次に目を開いた瞬間、真っ先に飛び込んできたのは自室のカーテンであった。遮光性の高い厚手の生地ではあるが、その裾からは零れた朝の粒がレースのように広がり揺れている。
    時計を見ずとも今が朝であるのは明白だ、先ほどまでの暗闇はもうどこにもない。鮮明な輪郭を持つ自身の両手に目を落とし、それから深く息を吐く。未だ信じられない下腹部に残る違和感の正体を探るべく、そっと布団を持ち上げる。ほんの少し前まで見ていたような暗闇の中、恐る恐る手を伸ばした先の現実から一気に逃げたくなった。

    「…………さいっ、あく」

    絞り出した声は布団の綿に飲み込まれ、誰にも知られず消えてゆく。
    夢の中で精を吐いた。吐き捨てた先の、昂りの対象が気心の知れた幼馴染みだったというのを、悪夢以外の言葉でどう表せようか。
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