エドとデイルのオッサン三人組で山奥の村の怪異を調査しに行く事になった。
正直言って勘弁してほしい。凛子や絵梨佳に下心は微塵もないし、あの夜以前ならそれしか選択肢がなかったが今は暁人がいる。
伊月暁人。オレより半分ほどの若い、あの夜の偶然の出会いがなければ決して深く知り合うことのなかった言わば異世界の人間だ。そりゃあ絵梨佳の方が若いが保護した般若の娘とは違い暁人は普通、にしては不幸な身の上だが、の一般成人男性だ。基本的にはビックリするくらい素直だが違うと思えば年上でも構わず噛みついてくるし、理屈もそれなりに通っている。オレ個人としてはウダウダ優柔不断なヤツよりはよっぽど嫌いじゃなかった。
まあさすがに普通の出会い方をしていたらキレてただろうが初手で肉体の所有権を奪い合い、なんやかんやコイツにならオレの残りの人生を任せられると思ってしまったので、要するに惚れたモン負けと言うやつだった。
そう、オレはバツイチ子持ちのくせに半分くらいの同性の若造に恋していた。
それが異常な事なのは理解している。暁人は心身共に男で、性欲は薄そうだが少なくともゲイではなさそうだった。オレだってノンケで、あの夜にお互いの弱さを曝け出し支え合った暁人が特別なのだ。
しかし四十路のオッサンに人生を賭けた告白をして喜ぶ二十代がどこにいる?
オレにできるのは適合者の師匠として暁人と妹や絵梨佳に指導をし、たまに手伝わせて実戦経験を積ませ自衛できるようにしてやることだけだ。それ以上は望まれていない。己の分は弁えてる。
みっともなく自分を良く見せようとしてしまうことが多々あるが、それはご愛敬だろう。
とにかく山奥とはいえ二泊三日以上ともなれば片想いの相手を連れて行きたい欲求は当然のものだろう。
しかし暁人は苦労の末に大学の卒業資格を手に入れ、今時珍しい大手のホワイト企業の子会社に就職した。そのままカタギとして生きる選択肢も提示したがすげなく断られた。正直安心した。適合者と言いう括りがなければオレと暁人はもはやただの他人だ。せめて暁人にとっては人生を含めた師であり、祓い屋の相棒でありたい。
とにかく今の暁人は平日に安易に休める立場にない。オレが上司だったら間違いなくイイ顔はしない。なので大人しくオッサン三人で山奥の村にやってきた。
デイルが運転手、オレが霊視での、エドが機械での探索と役割は決まっている。
大体山の田舎はヨソモノには厳しいという偏見があるが、怪異は既に村中に周知されているらしく歓迎まではいかないものの協力的ではあり、集会所を自由に使っていいとのことだ。当然宿泊施設などないのでここに寝泊まりとなる。
「電気も水も来てる。 キッチンもストーブも布団も使える。 電波も飛んでる」
天国だなとデイルは笑った。確かに車中泊よりはマシだ。早速エドがガジェットを広げる。
『観測結果は既に凛子に送っている。 予想通りダム周辺の数値が特に異常だ』
「だろうな」
狭いムラ社会のドロドロした怨みつらみ……ではなく、一部のモノ好きやバイカーしか行かないという村の奥のダムから嫌な視線を感じている。
事前情報ではダムの建設はバブル時代。全く揉めなかったわけでもないだろうが大きな記事にはなっていない。この村は地形的にダムに沈むことはなく、かといって恩恵があったわけでもない。
『ダムの下にあった村から移住した人間がいるそうだ』
「わかった、話を聞いてくればいいんだな」
都会の人間だって外国人がボイスレコーダーで話しかけてきたらビビる。オレが聞いた方がまだ話ができるだろう。
暁人なら孫のように可愛がられてオレより楽に話を引き出せるんだろうがな。
スマホを出したものの黒い画面で指が止まる。現状報告をしていいのか?連れて行かずに中途半端な扱いだと思われるか?仕事で忙しいかもしれない。凛子に言えと返されるか?出発時の微妙な態度をどう判断すべきか。
『君が恋する乙女なんて笑えないジョークだな』
「うるせえな……さっさと飯食って寝るぞ」
キッチンがあっても男三人は袋麺が関の山だ。たまに食わしてくれる暁人の飯が恋しい。毎日食えるようになればそれこそ天国だ。
そんなことを考えていたせいか帰ってきたオレを出迎えるフリフリピンクエプロンの暁人の夢を見た。