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    attdott

    @attdott

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    甚爾と恵の話。後半五条。本出そうと思って時系列計算してた時に生まれた副産物。
    恵視点。これに関しては全年齢CP要素なし

    #伏黒甚爾
    vukurosanl
    #伏黒恵
    blessingInDisguise
    #五条悟
    fiveGnosis

    甚爾と恵の話 自分を追いかけてくる小さな穴の中で、何かが蠢いているような予感がする。

    「おい、下ばっか向いてんな」
     置いてくぞ、と男の声がする。
     俺の手が小さい。聞こえた声は心当たりがある人間にしては低く、声色から感じ取れるほどの軽薄さも足りない。
    (……誰だ?)
     顔を上げると、筋肉質の男に見下ろされていた。
     俺よりずっと高い身長。見ただけでも何倍も差があるのが分かった。多分、今の俺が三人肩車したってあの背には届かないだろう。そんな気がした。
     顔の距離がとても遠かった。男の後ろにはお日様がいて、顔も体も真っ黒に見えて、男がどんな顔をしているのか分からない。かろうじて分かったのは顔に傷がある、という事だけだった。
     どんな顔で自分を見ているのかが分からないから少し怖くて、首も痛くなって。ゆっくりと頭の位置が下がっていく。
    「……はぁ」
     頭上からため息が聞こえてくる。小さな腕が力強い手に掴まれて、そのまま小さい手は男のズボンまで誘導される。
    「家着くまで、しっかり掴んどけ」
     オマエが誘拐されでもしたら、母ちゃんに怒られんだろ。ぶっきらぼうに呟いて歩き出そうとする男の声に俺は聞き覚えがあった。
    「……おとう、さん」
     男のズボンをきゅっと掴む。自分の喉から、拙い高音が小さく零れ落ちた。

     ──……これは、俺の記憶だ。
     俺がずっと小さい時の記憶。何歳の記憶かまでは分からない。朝、保育園にガキ一人置いていき、時間が経てば迎えに来るだけの男。最初の頃は抱き上げられていた気がするが、立って歩けると分かった日からは自分で歩けと言われてこの形式に変わった。
     帰路は静かで、会話なんて一言あればまだ良い方だ。男は基本こっちを見ないし、俺の世話をしないといけない時はいつも面倒くさそうで。自分の子供にあまり関心がないんだろうな、というのはなんとなく察していた。
     真っ直ぐ歩くと早く家に着く。後は食事を与えられたら次の朝まで放置だ。それ以上は必要がなければ会話を交わすこともない。
     幼心で言えば、親に構ってほしかったのだろう。俺の事が要らないのであればさっさとどこへでも捨てておけばいいのに「母ちゃん」を理由に保育園の送り迎えだけはやるような男だ。手を放して立ち止まればめんどくさそうにしながらちゃんと止まってくれるから、一定距離を歩いたらそういった行動を取るようになってしまった。
    「ンだよ疲れたのか? 体力ねえなあガキってのは」
     俺の子なのによ。ダルそうにぶつくさ呟きながら、男は俺の事をまるで荷物みたいに脇に抱えて歩きやがる。
     わざとやったが半分、本当に疲れたが半分。黙って俯いていると勝手に解釈してくれるからこの男は楽だった。
    「こんなみじけえ距離、一人で歩けなくてどうすんだオマエ」
     悪かったな。オマエのデカい歩幅に合わせて歩くの、普通、立って歩けるようになったばっかのガキには疲れるんだよ。
     何で他の父親みたいに抱き上げてくれないんだよ。この抱かれ方だとずっと地面しか見えないし、揺れるし腹が圧迫されて気持ち悪くなるのが分からないのか。
     今更過ぎる文句が脳内で走っている。あの時これが言えたのなら、この男はやってくれたのだろうか。当時の俺にはそれを求める発想が出てこなくて、家に連れ帰ってくれるだけまだマシだと思っていた。
    「……おい」
     声をかけられて。
    「さっき、何見てた」
    「……っ」
     気紛れにかけられた必要最低限以外の言葉。たったそれだけの事に浮かれて、俺は必死になって話していた。産まれてたった数年しか過ぎてない脳みそから、数少ない語彙を絞り出して言葉にしていた。
    「あの穴になんかいる? 落ちそうだぁ? っくく、バァカ、ありゃ影だ。なんもいねえし落ちやしねえよ」
     オマエにずっとくっついてんだろうが。男は俺の言葉にそう言って笑い飛ばした。俺はそんなに面白い事を言ったつもりはなかったが、親子の数少ない会話だ。気紛れにガキに問いかけてみたら、自分が想像した事もないような言葉が返ってきてつい笑った。そんなとこだろう。
     ひとしきり笑ったあと、男の笑い声はすっと戻って。
    「……そうか」
     とだけ返されて、それから家に帰るまで何も言葉を交わす事はなかった。

     それ以降、父親とまともに会話をしたような記憶がない。
     少しして、知らない女が二人家に来た。一人は母親、もう一人は姉になるらしい。話し相手が父親しかいなかった状態から、父親以外に変わっていった。
     それからまたしばらく経って、とうとう父親が俺たちを捨てて帰ってこなくなった。
     それから、俺はどんな風に過ごしてたんだったか。穏やかだけど、ずっと必死になっていて、何かをしたのは間違いないが、何もしていないに等しかったのか。幼い記憶は動画のスキップボタンを押し続けているみたいに一瞬で過ぎていく。
     数年分スキップして、視界に映ったある一瞬から、記憶の通常再生を開始させる。


    「──伏黒恵君、だよね」
     記憶がなだらかに動いていく。俺は重たいランドセルを背負っていて、帰路までの短いようで長い時間を、一人で立って歩いていた。そこに声をかけてきたのは、自分と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ、軽薄そうで胡散臭い、白髪グラサン姿の男。
     ……あぁ、そうだ。この時は、確か──……。

    +++

    「……ぐみ、恵」
     肩を揺すり、俺に声をかけてくる人がいる。
     意識が浮上したと同時にぱちっと目が開いた。それでも瞼は重たくて、頭が回らなくって。目がうろうろするせいで、視界がぐらついている。ぱちぱちと瞬きをして、ゆっくりと見渡すと見慣れた景色……と、目の前に黒い物体。見上げると、白髪にアイマスク姿の、軽薄そうな口をした男。
    「……五条、先生」
    「こんなとこで寝てると風邪引いちゃうよ」
    「今、何時ですか」
    「まだ夜の九時。珍しいねえ、恵がこんなとこで寝こけるなんて」
     今日の任務、大変だった? なんてからかい口調で問いかけられる。俺の手には支給されたタブレット、見ると報告書が書きかけだ。俺はこれを書きながら眠ってしまったのか。思わずため息が溢れる。その口を大きな手が悪戯に覆った。
    「こら、ため息しない。幸せが逃げちゃうよ」
     咎めるような口調。俺がそんな迷信を信じているわけがないと分かっているだろうに、よくもまあそんなにほいほいと適当な言葉を口にする。
    「ため息くらいするでしょ、アンタも」
    「えぇー? 僕がぁ? するわけないじゃん」
     だって僕だもん。無茶苦茶理論で納得させようとするにやけ面。アンタだってやってただろ、会議の後、廊下で一人、でっかい溜息。言い返しても良かったが、カウンターが面倒だ。
    「機嫌悪いねえ。起きたら報告書終わってなくてがっかりした? 疲れてるなら明日ちゃちゃっとやっちゃえば」
    「今日中に終わらせますよ。アンタじゃないんだから」
    「うわ、真面目~」
     うりうりと頬を突かれる。反応してなるものかとタブレットに視線を落として作業の方に意識を向ける。「食べる?」と途中聞かれた一口サイズ程度のそれは多分どこかの出張土産だったが、気分じゃないから断った。
     どこかへ行く気配がない。話し続けるでも悪戯を仕掛けるでもなく、アイマスクを外して、生徒の報告書を背後からじっと覗いている。なんだこの人、暇なのか。
     気が散って仕方がないから、電源ボタンを押して画面を閉じた。
    「……先生」
    「なに?」
    「夢を、見ていました。……さっき」
    「へぇ、夢? どんなの?」
     気紛れに投げた言葉に五条先生は興味深げに呟いて、アイマスクを付けなおしながら隣に座って俺に言葉の続きを促した。
    「子供の頃の夢」
    「ははぁ、何言ってんのさ恵。今も子供でしょ~?」
    「そういうのではなく」
    「なるほど、子供の頃の記憶夢クイズね。分かった、僕が当ててあげる」
    「クイズでもなく」
    「超イケメン最強呪術師の五条悟が恵の授業参観にうっかりグラサン忘れて参加して、ほんとついうっかり奥様方の注目の的になっちゃったあの日の夢──……でしょ」
    「違います」
    「えぇっ違うの?」
     それはもう随分前に奥底に閉まって忘れようとしていた記憶の一つだ。逆に何でそれだと思ったのか。絶対当たると思ってたのにー、なんてふざけた調子の男に頭が痛くなる。
    「じゃあ分かった次は当てよう」
    「当てなくていいです」
    「あれだろ? 運動会の父兄参加競技で恵の親として六年間無双した超ハイパーイケメン文武両道眉目秀麗五条悟の夢」
    「違います」
     これも随分前に奥底に閉まっておいた記憶の一つ。というかこの人、忙しいだろうに学校行事は毎回欠かさず参加しようとしてきたな。黙っていてもどこかで情報が漏れていたのか、当日は何故か絶対やってきて、大人げなく子よりも目立って去っていく。迷惑な話だ。
    「じゃあ分かった今度こそ当てる。恵の初めての任務が雑魚呪霊の山で、恵がボロボロになったところできれーいに残りの山を一瞬で消し炭にしちゃった超エクストラクラスイケメン特級呪術師五条悟の」
    「アンタ、いちいち自分立てないと気が済まないんですか」
    「あはっバレた? 今日ね、そういう気分」
    「……はぁ」
     軽薄な唇がすらすらと動く様子にイラついている。たまには他愛もない話でもしてみるかと起こした自分の気紛れに後悔しながらスッと立ち上がった。
    「恵?」
    「部屋に戻って報告書の続きします。五条先生も、疲れているのならさっさと寝てください」
     真面目に相手をしても、逆に聞き流してもエネルギーを消費する。去ろうとする俺にダル絡みしてくるかと思いきや「そっか」と一言で済まされた。
    「で? 結局なんの夢だったの?」
    「……忘れましたよ」
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