黒に溶け、青に堕ちる3 数日後、マスクとメガネで顔を隠しながら千隼は劇場へと来ていた。
用意されていた席は関係者用のものだったらしく、他にも見知った芸能関係者が近くの席にちらほら見られる。
劇場内は開幕直前で、さわさわと話し声が聞こえていた。見渡した様子を見るに若い女性が多そうに見える。やはり若者に人気のキャスト陣らしい。他にもドラマの共演者となる者が探偵役として出ているからそちらも気に掛かるが、それよりも冬部青だ。
彼は一体どんな演技をするのだろうか。
期待と不安とがないまぜになり、複雑な心境で舞台を見つめる。開幕を告げるブザーが鳴れば、場に落ちるのは暗闇と沈黙。
静かに始まるオーヴァーチュアの音楽は静謐な雰囲気を纏っていたが、やがてそれは徐々に激しくなっていく。幕に投影されるプロジェクションマッピングと組み合わされたオーヴァーチュアが終わると会場は一度暗転する。
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