「ッ法正どの……」
「何だ?」
この前の模擬戦で俺の使用武器になった連結布。使い慣れてないそれで俺は上手く戦えなくて、法正殿に何度もフォローされてしまった。
基地に帰陣して目立たない所で座って休んでいると、いつの間にか目の前に法正殿が立っていた。それから言ったんだ。
『来い、徐庶。連結布の扱い方を教えてやるよ』
そんな訳で今こうして俺は、背後の法正殿に手を取られながら連結布での立ち回り方の指南を受けているんだけど。
背に当たる男の胸。思いのほか優しく包まれた手の甲。耳元で蕩けるような囁き声。
法正殿の教え方は分かりやすいって知ってる。説明が上手だって事も分かってる。けど、何にも頭に入って来ないんだ。
「あの、本当にすみません。今の所を、もう一度……お願いします」
人柄から考えたらこんな状況、怒って気を悪くしてもおかしくないのに。法正殿は楽し気に鼻で笑って、俺をからかう様に呟いた。
「貴方なら一度で理解できるはずですが……まぁ、いいでしょう」
何故か敬語になった法正殿が、今度は俺の手を強く握り込む。いいですか?と再び話し始めた時、あの濡羽色の髪が俺のこめかみを掠めた。
良い香りがする。
俺の頭の中はまた、武器の使い方なんかじゃなくて、法正殿の事で一杯になった。