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    negitama_mata

    @negitama_mata

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    negitama_mata

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    dm♂sd♀、冷え込んだ朝の日の短いお話。

    雪の日の朝 その日の朝、シャドーはダークを起こしに来なかった。
     ダークは自然に目を覚まし、その事実を認識したとたん、寝起きとは思えぬ勢いでベッドから飛び降りた。
     冬の朝だというのに、部屋には火が入っていなかった。台所にも明かりはない。
     たいていの場合、朝はシャドーの方が先に起きる。ダークはその気配を感じて浅い覚醒をするものの、彼女が部屋から出たらまた寝てしまう。シャドーが朝食を作ったり家事のために歩き回ったりする音を聞きながら、ただ心地よくうとうとする。準備を終えたシャドーが起こしに来てくれるのを待っているのだ。
     このことを聞いたダークの写し元は、不精な奴だと顔を顰めたらしい。だが、ダークは写し元からの評価など意に介さなかった。自分の一日は、シャドーによって始まらなければならない。ただそれだけのことだったからだ。
     だのに、定刻をとうに過ぎてもシャドーは姿を見せない。家にいる様子もない。
     何かが起きたのか。それともただの杞憂か。
     大事でたまらない少女の不在に、不安が募る。心に波風が立ち、平穏でいられず、不快感が増す。
     これが別の事柄であったならば、ダークは動じず、いくらでも冷静でいられた。それこそ、あまりに冷酷だと世間から評されるくらいには。しかし、あの少女のこととなると、ダーク自身でも驚くほど、その心はすぐに揺らいでしまう。
     昨夜は冷え込んだため、屋内だというのにたいそう寒い。
     こんな気温で、あれはどこに行ってしまったのか。
     身震いしそうな温度をものともせず、ダークは室内を横切った。身支度もせぬまま玄関扉を開ける。
     遅い夜明けを迎えたばかりの世界はいやに眩しく、思わず目を細めた。完全に閉じるまではしなかったのは、目くらましに対応するための癖のようなものだ。
     一晩のうちに周囲は様変わりしていた。世界にシーツを被せたように、雪が薄く降り積もっていた。雪が陽の光を乱反射しており、とにかく見えづらい。視界の悪さにダークは苛立ったが、すぐにどうでもよくなった。
     銀世界の中に、探していた灰色の少女がいたからだ。
     シャドーは一心不乱に雪玉を転がしていた。少女は真剣で、瞳はそこらの雪よりもきらきらと楽しそうにしている。
     雪だるまでも作るつもりなのだろうか。それにしては、雪玉があまりにも大きい。シャドー自身に迫るほどの大きさになりつつある。あれでは扱うのが大変だろう。もしかしたら、雪玉を大きくすることそのものが楽しくなってしまったのかもしれない。
     雪の上には、少女が遊んだ形跡が他にもたくさん残っていた。つま先の向きがちょっとずつ違う、小躍りしたように跳ねた足跡。雪がめくれあがっているあの場所は、思いっきりスライディングしたに違いない。ころころと転がったのか、ローラーでならしたように平坦になった所もある。
     無事と所在さえわかってしまえば、ダークは充分満足した。
     だが、シャドーの声で一日を始められなかったことは、大いに不服だ。自分をさしおいて、シャドーの心を引き止めているこの景色が気に食わない。しかし、少女を楽しませたという点においては許してやろうと、ダークは思った。
     なによりも、シャドーが好きなことを、好きなだけできているならばそれでよかった。自分がいなくなったことで、あれはずいぶん苦しんだのだから。やりたいことだけ、していればいい。
     そうしてしばらくの間、ダークはシャドーをじっと見ていた。
     彼女が一生懸命に白い息を吐き、雪を踏んで音を鳴らすのを、静かに目で追っていた。そこにシャドーがいるのをただ感じているだけで、ひどく満たされていた。
     しばらくして、シャドーは一息つくと、ようやく雪玉から手を離した。寒さで赤みがさす手にふうふうと息をふきかけ、顔を上げる。そこで初めて、彼女はダークに気がついた。
     目に入って来た世界の状況、周りの明るさや雪玉の大きさで、かなり時間が経ってしまったことを思い知り、あっ! と焦りの声をあげる。
    「ダーク! あの、その、ごめんなさい!」
     シャドーは大慌てで、ほんの少し泣きそうになりながら一目散にダークに駆け寄った。作り上げた雪玉も、銀世界も置き去りにして。
     ダークは頭を緩く横に振り、シャドーを抱きとめるために腕を広げた。
     結局のところ、シャドーが自分の手の届くところにいることが、ダークにとって最も嬉しいことだったし、シャドーもまた同じであることを知っている。互いを抱きしめあう安堵感は、何物にも代えがたいのだ。
     が、シャドーはダークに飛びつくことなく急停止した。泣きそうな顔のまま、困ったようにその場で足踏みしている。
     ダークは目を見開き、とても珍しいことに、シャドーを軽く睨んだ。不満も喜びも、全てくみ取ってくれるシャドーに対し、見えるかたちで態度を現したのは本当に久しぶりのことだ。
    「ぼくの体、今とっても冷たくなってるから……」
     シャドーは悲しそうな顔で手や足を見下ろしている。
     それがどうしたというのだ。
     ダークは二歩でシャドーに詰め寄ると、乱暴に引き寄せて羽交い絞めにした。シャドーがびくん、と体を縮こませる。
     時間を忘れて遊んでいたシャドーは、確かに冷たかった。
     だが、ダークにとって、体の表面の温度差など微々たる問題でしかない。そんなことは、最も愛しい者の本質とは何ら関係がないのだから。
     遊びほうけるのは構わない。好きなことをすればいい。しかし、シャドーは自分のものである。本来いるべき場所は、この腕の中だ。体が冷たいくらいで何を言っているのか。
     遠慮などしてはならない。自分はどんなシャドーでも必ず抱き留めるのだから、シャドーも常に自分のところに飛び込んで来なければならない。
     抱え込んだ小さな灰色の体に、ダークは自分の額をわずかにこすりつけた。それだけで、申し訳なさそうにしていたシャドーは目を見開いて、うん、そうだね、と返事を寄越す。
     そして、シャドーはいつものように、ダークに体を預けたのだった。
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