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    生き残り錬金術師3巻(三章)アーリマン温泉直後くらいのマルエラちゃんとジークの日常一コマです。
    ほんのりジクマリ風味、でもマルエラちゃん。

    横書きメモ帳からのコピペなのでちょっと見づらいかもです。

    #生き残り錬金術師
    survivorAlchemist
    #ジクマリ

    スプーン半杯のしあわせ「甘さが足りない」

     ジークの淹れてくれたお茶を一口飲むなりそう呟くとシュガーポットにスプーンを突っ込むマリエラ、いや今はマルエラだろうか。 だが、こんもりと山盛りにされた錬成糖がカップに今まさに降り注がんとする直前、ジークはさりげなくマリエラの手からシュガーポットを取り上げた。

    「マリエラ、これ以上はいけない」

     昨日、リンクスからも絶対に甘やかすんじゃねーぞと厳命されたばかりである。そう、これはマリエラのためなのだ。

    「でもでも全然甘くないんだよ?今日は朝からあんなに走らされたし、ポーションだっていっぱい作って頑張ったんだからちょっとぐらい甘いもの取ったっていいでしょ?今日はお菓子一個も食べさせてもらってないんだよ?」

    「お茶に砂糖ならいれたぞ?」  
    「でも甘くないんだもん!」

     ジークたちがアーリマン温泉で日々死闘を繰り広げていた留守の期間中、おやつごはんと称してお菓子をひたすら食べ続けていたマリエラの味覚はスプーン一杯の錬成糖ではもはや甘いと感じなくなってしまったらしい。
     不満そうに膨らむ頬は以前よりもさらに大きく丸くパンパンに張って、指で突いたら音を立てて弾けそうだなと失礼なことを考えながらそっとシュガーポットをマリエラから遠ざける。

     早朝から迷宮の階段を散々走らされ、帰ってきてからは大量のポーション制作に追われてへとへとのマリエラはやっとありついた休憩時間に椅子から立ち上がってまでシュガーポットを取り返しに来る体力は流石にないらしい。
     仕方なく甘さの足りないお茶を渋々啜り始めたのを確認したジークは先ほど届いたばかりの荷物を工房に運び込むため立ち上がる。もちろん台所を離れる前にシュガーポットを棚にしまうことも忘れない。
     甘味に未練たらたらのマリエラのじっとりと恨めしげな視線を背中に感じながらジークは台所を後にした。

     本日の荷物は木箱にギッチリと収められた素材が5箱分。流石にまとめて一度に運び込むのは難しく、数回に分けて階段を行きつ戻りつ工房へと運びながら台所のマリエラの気配にも気を配る。

     三箱目を持って階段を登る時、台所からカタンと小さな音が聞こえた気がした。
    (まさかな?)
     シュガーポットは上の棚にしまった。
    マリエラの手の届く範囲に菓子の類は置かないようにしている。 だが、万一もある。
     今手にしている木箱を工房に運び込んだ後、ジークはそっと足音を忍ばせて素早く階段を降りる。そのままひょいと台所を覗き込んだ。

    「あっ」

     完全に油断していたのだろう、淹れたばかりの二杯目のお茶のカップにザラザラと滝のごとく錬成糖を注いでいたマリエラは、覗き込んだジークと目が合った瞬間大きく口を開いたまま固まった。
     さっきまでは全く動こうとする気配もなくのっそりと椅子に収まっていたのに甘い物のために最後の力を振り絞ったのだろう。 棚の下には先程までジークが座っていた椅子が置いてある。 
     こんな時にだけ謎の行動力を発揮するのがマリエラである。

    「マーリーエーラー」
    「ちっ違うもん!こっこれは、えーっとそうだ!ジーク!ジークに飲んでもらおうと思って!」

     オロオロと考えながら言っている時点で嘘はバレバレなのだが、一応言い訳は最後まで聞き届けるジーク。

    「今日の荷物いっぱいあって重かったでしょ?全部一人で運んで疲れたジークにはきっと甘いものがあるといいと思うの!」

     ブンブンと腕を振り回しながら言い訳する必死な顔に思わず吹き出しそうになるのをこらえ、何食わぬ顔をしてマリエラの前にあるカップを持ち上げる。

    「じゃあ、いただこう」

     もう一度、あっ!と言う顔でカップの行方を目で追う姿にニッコリといい笑顔で微笑みかける。

    「マリエラもおかわり飲むか?」
    「ゔっ、うん……」

     チラチラとジークの持つカップに目をやりながらもじもじソワソワと落ち着かなげに椅子の上で揺れるマリエラ。
     やや貫禄の出てきた昨今の体の重みに反応してか、時折椅子がキィと小さく軋む。
     あまり揺らすとひっくり返りそうだな、注意したほうが良いだろうか?などと考えながらもう一つカップを取り出し、手早く新しいお茶を注ぎマリエラの前に置く。

     ひどく物言いたげな目がジィッと見上げてくるのをひしひしと感じ、負けてはいけない、甘やかすのはダメだ、と心にそっと言い聞かせる。
    「だーっ!お前ほんっとに過保護だよなー。こんなおねだりに簡単に負けてんじゃねーのって」
     先日言われたリンクスの言葉も思い返す。

    「スプーン一杯だけだからな!」

     あっさり視線に屈したジークはシュガーポットから軽くひと匙の錬成糖をすくうとサラサラとカップに注ぐ。 少し考えてからもうひと匙。
     ジークの動きをじっと見つめていたマリエラの目が期待にキラキラと輝いている。
     しかし、ふた匙目を注ごうとしていたジークは思いとどまったようにスプーンを戻し、軽く振って中身を半分ほどに減らしてからカップにサラリと落とす。

    「スプーン一杯半な」
    「ゔーーーー」

     軽く混ぜてから目の前に置いてやると悔しそうな顔と目が合う。

    「明日頑張ったらココアにしような」
    「マシュマロも入れてくれる?」
    「ひとつだけな?」
    「頑張るから3つにしてくれる?」
    「頑張ったらな」

     そんな言葉のやりとりに元気が出たのか、ちょっぴり機嫌の直った顔になり、両手で大事そうにカップを持ってちびちびとお茶を啜り始めるマリエラ。 まだまだ元に戻るには程遠い縦にも横にもムッチリと膨らんだ姿で時折足をプラプラと揺らしている。
     行儀が悪いと叱るべきか?と思いつつも楽しげなその姿に絆されてしまう。
     こんな時間が今の自分にはかけがえのないものなのだ。
     どんな姿でもマリエラを愛おしく思ってしまう自分はやはり過保護なのだろうな。
     自嘲気味に口の端を持ち上げながら、残った荷物を早く片付けてしまおうと、先ほどマリエラから取り上げたカップを持ち上げ一気にあおった。

    (あっっっっっまっっっっっ!!!)

     こめかみがキーンとなるほどの鋭い痛みにも似た甘さが舌を刺し、やがてジワジワと口中を侵食するように広がってくる。

    (なんだこの想像を絶するような甘さは?)

     ジークはどんな味のものでも食べられるというもはや特異体質と言ってもいいほどの特技の持ち主である。 加えて甘いものも苦手ではない。 むしろ好きな方ではある。
     だがそれにしてもこの甘さは尋常ではない。
     カップを覗き込むとカップの底に溶け切らずに残ったペースト状の錬成糖がアーリマン温泉の残雪を思わせる姿でべっとりと張り付いていた。

    (いったい何杯入れたんだ?いや、そんな事より味覚は大丈夫なのか?)

     チラリとマリエラの方に目を向けるとカップを持ったまま明後日の方向に目を向け、ふひゅーふひゅーとヘタクソな口笛で誤魔化そうとしている。

    「ぶはっ」

     耐えきれずに吹き出すとてっきり怒られるかと思っていたらしいマリエラが目を丸くしてぽかんとジークを見つめている。

    「ジーク怒らないの?」
    「いや」

     怒らなきゃいけないんだろうな、リンクスならもう怒ってるだろう。

    フーッと大きくため息をつきゆっくり立ち上がる。

    「洗い物はまかせるぞ?」
    「うん」

     少しは体動かしたほうがいいぞの意味も込めてかけた言葉に素直にマリエラが頷く。
     たぶん錬金術でパパッと片付けてしまうかもしれないが、とりあえずは言っておく。

    「ジーク、ごめんね?」
     
     恐る恐るかけられたマリエラの言葉に笑って頷く。
     いつも頑張っているのはマリエラだ。 ジークはいつもただオロオロと見守ることしかできていない。

    「俺も、頑張るから…….」
    「うん!ありがとうジーク」

     マリエラは分かってないだろうが減量のことではない。
     奴隷のジークにはマリエラこそが人生の全てである。
     今、二百年の眠りから目覚めたマリエラの人生は目まぐるしいほどに早く進んでいる。 そんな環境が時に苦しくなることもあるだろう。
     お菓子や砂糖の甘さがそれを癒してくれるならそれでもいいとジークは思う。
     そんなマリエラに少しでも役に立ち、少しでも長くそばにいられるように。
     ジークにはただひたすら頑張るしか生きる道はないのだ。

     残りの荷物を取りに行くジークの後ろでマリエラが鼻歌を歌っているのが聞こえる。
     スプーン半分だけ足された甘味はちょっぴりだけれどマリエラの元気になってくれたらしい。
     その下手くそな鼻歌はジークの持つ荷物をちょっぴりだけ軽くしてくれる。

     スプーン半分だけの幸せを思っていると、先ほどのひりつくように甘いお茶が同時に思い出される。

    (あっそういえば間接キス……)

     取り上げたカップにそのまま口をつけたことを今思い出しジークは荷物を取り落とした。

    おわり


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