紫煙 待ち合わせた時間より早く到着してしまい、どう時間を潰すか、とルガディンは周囲を見渡す。と、人集りが目に入り、近付いてみた。喫煙所のようで老若男女入り混じり、紫煙を燻らせていた。上着のポケットを漁り、残りの本数を確認しながらたまにはいいか、と一本咥える。マッチを持っていないことを思い出し、唇で煙草を挟んだままファイアを唱えようか考え込んでいると、隣で葉巻を燻らせていたロスガルに火を差し出された。礼を述べると柔らかく微笑まれ、会釈してから火の着いた煙草を咥え直した。
ゆっくり吸い込み口内に広がる風味を堪能する。独特な少し甘い感じとスパイシーな香りだったか。マージョラム、と彼女が教えてくれた香草の名を思い出す。
ヴィエラに指摘されて改めて確認したところ、一番多く用いられていた香草がマージョラムだった。香水なども嗜んでいるだけあって流石香りには敏感ということか、とルガディンは自身の無頓着さに苦笑する。彼女の買い物に付き合う中で多少の知識や彼女の好みは身に付いていったような気はしていた。豪奢な細工が施された香水瓶を見て同じように目を輝かせた彼女を思い出す。日頃の感謝の意を込めて何か贈るか、と残り少なくなった煙草の火を揉み消した。