安息「せんせぇ〜…今日のしんさくは駄目です……布団、が…ふかふか………」
部屋に来るなり、勝手に布団に転がって溶ける晋作。うぁ〜…と唸りながら伸びをする姿は、気紛れな猫のようだ。
「…また何日も徹夜しましたね?サーヴァントに睡眠は必要ないとはいえ、起きていればそれだけ魔力の消費量が…」
「だってぇ〜」
「だって、じゃありません」
ころんと背を向け話を聞かない態度を取ろうとする肩を引き、こちらを向かせる。つまらないと顔にありありと書かれた表情で、なんなら唇すら尖らせている。
「最近はレイシフトする予定もないんで、毎日毎日暇なんですもん。それなら、面白いことをしていた方が良いじゃないですか」
「緊急で招集される可能性もあるでしょう。万が一に備え、いつでも万全の体制をとるのも、サーヴァントとしての責務です」
「その時はその時で頑張りますから〜。
…だから、今日は……くあぁ…」
大きな欠伸を一つ。赤い瞳が閉じられてしまったので、晋作が来る直前まで触っていた本を再び開く。あともう少しで読み終わってしまいそうだ。晋作が寝たら、藤原司書に何かお勧めの本を聞きに行こうか。そう考えていると、細い指先がシャツの裾をくいくいと引く。
「…せんせぇ、?今日はどこか行くんですか?」
眠たいということもあるだろうが、口調が随分とゆったりしている。これは図書室には行けそうにないな、と笑みを噛み殺した。
「いいえ、特別用はありませんよ」
「よかった、。
…せんせぇのにおい、落ち着きます」
掛布を口元まで被り、すんすんと鼻を鳴らす。まったく、どうしてこうも甘え上手なのか。
掛布を捲り、細い肩を再び掴む。重たげに閉じられていた瞼が、ゆっくりとけれど驚いたと言いたげに開く。
「晋作、こちらに」
布団に体を滑り込ませ、腕の中に晋作を引き込む。華奢な体躯は簡単に抱き込めてしまう。
「…えへへ、せんせぇの匂い」
ふにゃりと溶けて微笑む。髪を梳くように撫でると晋作はより嬉しそうに声をあげ、額を肩口にぐりぐりと押し付けた。そうしてぽつりと、せんせ、と漏れる声。
「おやすみなさい、せんせ」
「おやすみ、晋作」
すぐに返ってくる穏やかな寝息。相当に疲れていたのだろう。いつかマスターの布団にも潜り込んだという話を思い出し、微かに湧く不快感。
この無防備な姿を、マスターにも見せたのか、と。それ程までに信頼しているのだとしても。この子の安息は、常に僕の傍だけであって欲しい。