情事(ミコラーシュの場合)「ああ、君は思った以上に美しい声で鳴くね」
そう言いその人は私の耳から顎にかけて神経質そうな細い指でなぞり、目を細め私越しに何かを見るような視線を向ける。
だがそれは直ぐに外され、それと同時に手も離れて行く。
そして私など最初から居ない様に歩き去ろうとしたから声を掛けた。
掛けたはずだった。
だけど私の声は人のソレでは無かった。
どうして?と思い視線を彼から自分の体に移した時、私は全てを思い出した。
記憶が逆流し全身に巡る。
そうだ…私は…私…は………
返せ返せ返せ私をもとに戻せミコラーシュ
人のそれをなさぬ声で叫ぶ自分を疎ましく感じ
それと同時に叫ぶ度に自分の視界が、記憶が、
流れて保てなくなっていく。
最後に覚えてるのは
彼の視線と何かを発した事だけ。
私の最期の記憶は其処でぶつりと切れた。
「悪趣味ですよ。ミコラーシュ」
「そうかね?」
ニヤリと笑いながエドガールにこたえる。
「そうですよ。最後にかけた言葉が……とは」
そう言い既に理性の無い獣と成り果てた
彼女を見る。
その目には少しの憐れみがあった。
「事情の最中に薬を彼女に含ませ思考を疎らにするだけではなく、そのまま実験をするなど悪趣味すぎます」
そう溜息をつきながら、彼女だったモノに近寄り首元に刃を突き刺しそのまま捻り斬り上げる。
「勿体無い」
「貴方の悪趣味なモノの世話はお断りします。
ただでさえ人手が足りないのに…」ブツブツ言いながらエドガールが返り血を拭き取り刃を仕舞う。
「そう言えばダミアーンが探してましたよ。恐らく先日の書類の事でしょうね」
そう言い立ち上がった彼はさっさとその場から去っていった。
彼の去った後に残されたモノを見て
ミコラーシュは再度「勿体無い」とポツリと呟いたが、呟くだけでさっさとダミアーンの元に向かって歩き出した。途中彼は思う。
早く新しい実験体が欲しいと。
男でも良い。
女でも良い。
全ては上位者に…瞳を授けられる為に。
ああ、白痴のロマよ…私は酷く君が羨ましくて堪らない。いつか私も君と同じ様になりたいものだ。
終