藤色の愛情両親は灯夜のことを愛してくれていたし、大切にしてくれていた。
だけど、とても忙しい人で、なかなか会うことができなかった。
いつも灯夜の面倒を見てくれたのは、使用人だ。
彼らもみんな優しかったけれど、本当は親と一緒にいたかった。
あれは、いつのことだったろうか。
灯夜がまだ子供の頃、一度事故に巻き込まれたことがある。
幸い命に別状はなかったものの、しばらくの間入院が必要になった。
それなりの時間を病院で過ごしたが、結局その時も、両親は会いにきてくれなかった。
見舞いに来てくれた使用人たちは、二人が心配してくれていることを伝えてくれた。
退院して、ようやく会える時間が作れた時も、両親は泣きそうな顔で灯夜に謝ってきた。
わかってる。ちゃんとわかってたよ。
二人が心配してくれてたことも、会いに行きたいと思ってくれてたことも、それが叶わないほど忙しいことも。
全部、全部わかってる。
だからいつも平気なフリをした。いい子のフリをした。
寂しい、ずっと一緒にいてほしい。そんなことを言ったら、困らせてしまうから。
その代わり、部屋の中で一人の時はずっとずっと、泣いていたのだ。
〜*〜
ふわりとなにか良い香りがして、灯夜は目を開いた。
僅かに開いたカーテンの隙間から、夕日が差し込んでいる。どうやら、読書をしているうちに眠ってしまったらしい。
膝の上には、紫狼がかけてくたであろうブランケットがかけられていた。
「起きたか、灯夜」
その紫狼がキッチンから顔を覗かせた。
先ほど感じた香りは、彼が作っている夕飯のものだったようだ。
「すみません、任せてしまって」
「いや、構わない。それよりよく眠れたか?」
「まぁ……そうですね」
とても懐かしい夢を見た。
灯夜が幼かった日の夢だ。
甘えたいのに、甘えられなかった、子供の頃の記憶。
さすがにこの歳になると、親に会えなくて寂しいという感情も薄れるが、あの時寂しい思いをしていたのは、どうしようもない事実だ。
「なんだか、歯切れが悪いな」
「そんなことないですよ。少し、懐かしい夢を見ただけです」
「……そうか」
なおも心配そうな顔の紫狼に、灯夜は微笑みかけた。
これは彼に言っていないが、自分はかなり紫狼に救われている。
あの日、紫狼が灯夜に手を差し伸べてくれた日。
あの瞬間、今の自分だけではなく、幼い自分も救われたような気がした。
いつも部屋の中で泣いていた、小さな子供。
あの子も今は、優しい愛情に包まれている。
「今日の夕飯はなんですか?」
「灯夜の好物を用意した。楽しみにしてくれ」
灯夜は、心の中であの日の自分に話しかけた。
大丈夫。君は将来、誰より優しい人に出会うから。だからもう、泣かないで。