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    甘味桜

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    甘味桜

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    ⚠キャラの体に古傷がある設定⚠️
    樹くんの心と体の傷痕の話。
    仲間として、樹くんにも頼ってほしい光牙くん。

    見えない傷痕光牙がリビングでうとうとしていると、脱衣場からガタン! という激しい音が響いた。
    突然の騒音に眠気が一気に覚める。
    たしか今は、樹が風呂に入っていたはずだ。なにかあったのだろうか? 光牙は急いで風呂場の方へと向かった。
    「おい、大丈夫か!?」
    ノックも忘れてドアを開けると、下にだけ衣服を身につけた樹が、床の上に蹲っていた。
    「樹!!」
    光牙は咄嗟に樹のもとに駆け寄った。
    「白鷹さん……」
    「お前、大丈夫か?」
    「大丈夫です……。おそらく、軽い貧血ですから」
    「なにかいるものあるか?」
    「水を、持ってきてもらえますか?」
    「水だな。ちょっと待ってろ」
    光牙は一度脱衣場を出ると、冷蔵庫からペットボトルの水を一本取り出した。早足で風呂場に戻り、それを樹に差し出す。
    「ほら」
    「ありがとうございます」
    樹は受け取った水をゆっくり口に含む。
    そして、ペットボトルを額や頬にあてていった。
    しばらくそれを繰り返すうちに、落ち着いてきたようだ。
    「大丈夫か?」
    「えぇ、すみません。ご迷惑をおかけしました」
    樹が立ち上がろうとするので、肩を貸してやる。
    彼は一瞬躊躇いを見せたが、結局素直に受け入れた。
    「考え事をしていたら、つい長風呂になってしまって」
    「次から気をつければいいだろ。……それより」
    光牙は、ちらりと樹の腹部に視線を向けた。
    彼の左の脇腹。そこに大きな傷痕があった。
    まるで、なにか鋭利なもので切りつけられたような、そんな形をしている。
    悪いとは思いながらも、さっきからずっと気になっていたのだ。
    「あぁ、これですか?」
    樹は、特段気にしていない様子でそう言った。
    「昔の怪我の名残です」
    彼の指先が、そっと傷痕に触れる。
    その顔は、薄く笑っているようにも、泣き出しそうな風にも見えた。
    樹は時々、こういう顔をすることがある。
    その時の彼は決まってどこか儚げで、なんだか存在が曖昧な感じで。気を抜いたら、どこかに消えてしまいそうな、そんな雰囲気を持っている。
    「私が一生、背負っていくべき傷です」
    「は?」
    「……いえ、なんでもありません」
    なにかを呟いて、次の瞬間にはもう、いつもの樹に戻っていた。
    「なんでもありません。ほら、もう大丈夫ですから、出てもらっていいですか」
    「……わかった。なにかあったら呼べよ」
    光牙は言われるまま、外に出た。

    おそらく樹は、一人でなにかを抱えている。
    その『なにか』がなんなのかは、ハッキリとはわからない。ただそれが、樹に深い傷をつけたことは、なんとなくだが感じていた。
    簡単には踏み込めない彼の領域。
    いつかそれを樹が見せてくれる日を、光牙は待ちわびている。
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