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    甘味桜

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    甘味桜

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    子供の頃にロイちゃんと出会ってる青斗くんのお話。母星との重力の差で上手に歩けない時期があったロイちゃんいてほしい。

    泡沫の人魚白い砂浜、真っ青な空と海。
    すっかり見慣れた景色の中に、今日は一つ違う色が混じっている。

    いつものように、青斗が海に遊びに行くと、浜辺に一人の青年が倒れていた。
    サラサラとしたピンク色の髪。顔は伏せられていて見えない。
    「あの、大丈夫ですか?」
    青斗は恐る恐る声をかけた。
    しかし、反応がない。
    「大丈夫ですか?」
    今度はさっきよりも少し大きな声で。
    軽く肩も叩いてみる。
    青斗はとても不安だった。
    もし、この人の目が覚めなかったらどうしよう。近くに大人はいないし、頼りにしている年上の彼もいない。
    どきどき、ばくばく、心臓がなる。
    しかし、そんな青斗の心配をよそに、青年の体がぴくりと動いた。
    無事に意識が戻ったのか、もぞもぞと身動ぎし、彼はゆっくりと起き上がった。
    青年の顔や服に着いていた砂が、ぱらぱらと落ちていく。
    「!!」
    青斗は思わず息を呑んだ。
    起き上がった青年は、とても美しい顔立ちをしていた。
    髪と同じ桃色の瞳、それを縁取る長い睫毛、ふっくらとした形のいい唇。
    意識がはっきりとしきらないのか、茫洋とした表情で青斗を見つめてくる。
    「あ、あの……」
    なにか言わなきゃと思うのに、上手く言葉が出ない。
    そうしているうちに、青年は再びぱたりと砂浜に横たわってしまった。
    「だ、大丈夫ですかっ!?」
    焦った青斗だったが、どうやら杞憂だったらしい。
    彼はただ、寝そべって空を眺めていた。
    青年の瞳が光を浴びてきらきらと輝く。
    その様がとても綺麗で、ひどく印象的だった。

    〜*〜

    あの日以来、ずっと浜辺にいる青年が気になって、青斗は毎日のように彼のもとへ通った。
    青年は、砂浜に寝転んでいるか、座っていることが多かった。
    あまり足が良くないのだろうか。立ち上がったり、歩いている姿も見かけたが、その時はいつもぷるぷるしていて、何歩か進むと転んでしまうことが多かった。
    その度に青斗は青年の元に駆け寄って、彼を助け起こしていた。
    そして今日も彼は、ふらふらとおぼつかない足取りで、砂浜を歩いている。
    不安定ではあるが、以前よりは進める距離が伸びただろうか。
    そんな彼の後ろ姿を見つめていると、どうやら視線に気付いたらしい。青年がくるりとこちらを振り向いた。
    すると、よたよたと彼は青斗の方に歩き始めた。しかし、途中でバランスを崩してしまい、その場に尻もちを着いてしまう。
    青斗は慌てて彼の元に向かった。
    「大丈夫ですか!? 無理しないでください!」
    「……」
    「平気ですか?」
    青斗が尋ねると、青年はこくりと頷いた。
    これも共に過ごす中でわかったことだが、彼は声を発しない。
    その代わりに、身振り手振りで意志を伝えてくる。
    青斗は密かに青年のことを、人魚姫のようだと思っていた。
    美しい声と引き換えに、激痛の走る足を手に入れた、おとぎ話の主人公。
    その姿が彼に重なって見えていた。
    「お昼を食べて、少し休んだら歩く練習をしましょうか」
    青斗は青年の隣に腰掛け、手に持っていた袋を差し出した。中には何種類かのパンが入っている。
    ここに来る前に、パン屋で買ってきたものだ。
    「好きなの選んでください」
    青年はどこか物珍しそうに袋の中を見つめた。
    しばらくの間そうした後、彼は一つを取り出した。手にしていたのは焼きそばパンだった。
    「ここのお店の焼きそばパン、凄く美味しいですよ」
    「……」
    青年は、再びまじまじとパンを見つめた後、慣れない手つきで包装を履いでいく。そしてぱくりと口にした。
    「!!」
    青年の表情が一瞬にして変わる。
    ぱあっという効果音が付きそうな顔で、目をキラキラとさせている。どうやらお気に召したらしい。
    年上の男性に対して失礼かもしれないが、その様子がなんだか可愛らしくて青斗は思わず笑ってしまった。
    とても不思議な人だが、彼のこういう一面を見る度に、悪人ではないのだろうと感じる。
    なんだんだで青斗は、青年と過ごす穏やかな日々を気に入っていた。

    〜*〜

    青年と出会って、約一ヶ月。
    彼は歩くのが随分と上手になった。
    最初は寝転がったり、座っていることが多かったが、最近は波打ち際に足をつけて、楽しげに歩く姿をよく見かける。
    青斗が時間のある時は、二人で浜辺を散策した。
    この辺りに咲く鮮やかな色の花を見た時、青年は興味深そうに観察していた。
    好奇心旺盛な彼は、そろそろ話し相手が自分だけでは飽きてしまうかもしれない。
    紹介するなら、まずは自分の身近な人がいいだろう。あの人なら、きっと彼とも仲良くできるはず……。
    青斗はそんなことを、眠る前のベッドの中で考えていた。



    ふと気が付くと、青斗は海の中にいた。
    美しい青色の空間。綺麗な色の魚たちが気持ち良さそうに泳いでいる。
    水の中にいるはずなのに、息もできるし、目も開けられる。
    きっとここは、夢の中だ。そう思った。
    それならば、どんなことが起きたって不思議じゃない。
    青斗は辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩き始めた。
    色鮮やかなサンゴ礁に、不思議な石像。人が腰掛けられそうな岩まである。
    なんだかどきどきとしながら、歩みを進めていると、青斗の横をなにかが横切った。
    上を見ると、なんとそこには人魚がいた。
    桃色の長い髪をした美しい女性の人魚だ。
    彼女は青斗に目もくれず、ぐんぐんと上に泳いでいく。まるで、地上に用があるとばかりに。
    「ふむ。これが貴様の夢の中か」
    今度は後ろから声がした。聞いたことのない男性の声だ。
    思わず振り向くと、そこには見知った人がいた。
    先ほどの人魚とよく似ている、さらさらとしたピンクの髪。同じ色の瞳はキラキラと輝き、長い睫毛に縁取られている。
    紛うことなき、あの青年だった。
    「貴様に伝えなければいけないことがある」
    話さないはずの彼が、魅力的な声でそう告げる。
    これは夢だ。どんなことが起きたって不思議じゃない。それなのに、この空間で彼だけが、妙に現実味を帯びている。
    「私は、自分の星に帰らなければならない」
    「星……? 帰る……?」
    「あぁ。母星に帰る準備ができた」
    青斗は困惑していた。
    母星? 帰る? 彼は地球の人ではないのか?
    彼と過ごす穏やかな日々が、これからも続くと思っていた。青斗の大切な人たちと、彼が共に過ごす日がくるのだと……そう思っていたのに。
    「私があそこに居たのは、乗っていた宇宙船が不時着したからだ。支度が整ったからには、帰らなければならない」
    「……もう、会えないんですか?」
    青斗はそう尋ねた。すると青年は、ふっと笑みを浮かべてみせた。
    思えば、出会ってから初めて彼の笑った顔を見た気がする。
    「いつかまた会うこともあるだろう」
    「じゃあ、」
    「だが、私との記憶を残しておくわけにはいかない」
    「えっ……」
    「地上で関わった人間に、私のことを覚えたままにはさせられないのだ」
    青斗は悲しくなった。彼と過ごしたあの一ヶ月が消えてしまうだなんて。
    「どうしても、忘れないとダメですか?」
    我儘を言っている自覚はある。困らせてしまうかもしれないとわかっている。それでも聞かずにはいられなかった。
    「あぁ、どうしてもだ」
    「そんな……」
    「だが安心しろ。貴様の分まで、私が覚えておいてやる」
    「え?」
    「貴様と過した日々のことも、初めて食べたパンの味も、あの花の香りも、全て覚えておく」
    青年が、ふわりと優しく青斗の頭を撫でる。
    「それから、貴様の名前を教えろ。それも覚えておいてやろう」
    そういえば、一ヶ月も一緒にいたのに、青斗は自分の名前を名乗っていなかったことを思い出した。
    「深海、青斗です」
    「深海青斗か。私の名前はロイだ」
    「ロイ」
    忘れてしまうとわかっているけど、自分の中に刻むように、青斗は彼の名前を呼んだ。
    「また出会うその時まで、しばしの別れだ」
    ロイがそう言った瞬間、彼の体が泡となって消えていく。
    青斗思わず手を伸ばしたが、それを掴むことはできなかった。
    いつしか瞼が重くなってきて、青斗は夢の中で静かに眠りについた。



    朝。目が覚めると青斗は泣いていた。
    なにかとても綺麗で、悲しい夢を見た気がする。
    それなのに、内容がまったく思い出せない。
    それになんだか、心にぽっかりと穴が空いてしまったような、そんな虚しさがある。
    けれどその原因がなんなのかも、今の青斗にはわからなかった。

    〜*〜

    「この店の焼きそばパンは絶品らしいぞ」
    「へぇ、そうなのか」
    ロイと二人での任務の帰り。通りかかったパン屋の前で彼がそう言った。
    店からは、焼きたてのパンの美味しそうな香りが漂っている。
    「お昼もまだだし、せっかくだから寄っていこうか」
    「あぁ、賛成だ」
    ロイはそう答えると、そそくさと店の方に向かっていった。そんな彼の背中を見ていると、青斗の中に不思議な感覚が生まれる。
    時々、本当に時々だが、ロイのことをひどく懐かしく感じることがある。
    そんなことはないはずなのに、昔どこかで会ったことがあるような、そんな気がするのだ。
    「ロイ」
    青斗は、なんとなく彼の名前を呼んでみた。すると、ロイが青斗の方を振り向いた。
    太陽の光が、彼の瞳に差し込む。
    きらきらと輝くその目が、とても綺麗だと青斗は思った。
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