Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Hakozaki_89

    @Hakozaki_89

    作りかけとかお蔵入りとか色々投げるかも…?

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    Hakozaki_89

    ☆quiet follow

    グルアオワンライのお題「海」で途中まで書いてお蔵入りにしたやつを発掘したので置いておきます。めっちゃ中途半端なところで途切れてます…

    グルアオワンライ:お題「海」 どんなに得意なことでも調子が悪くなることはよくある。それが長引くことも。

     スノーボーダー時代からスランプとの付き合い方は心得ていたつもりだった。だというのに、今はどうだろうか?グルーシャは自分のバトルの戦績を見てため息を吐いた。

    「……真っ黒だな」

     もちろんジムチャレンジャーに対しては圧倒的な勝利を収めている。パルデア最強の肩書きを背負うだけの実力は確かにあった。それでも対チャンピオンとなると、ここのところ負け越しが続いている。さっきのバトルで五連敗だ。

    「前までは引き分けもあったんだけど」

     あと一歩で彼女から勝利を奪える。そう高揚していたのが随分と昔のように思えた。

    「どうして……」

     と、思わず頭を抱えてしまう。最近はチャンピオンの彼女を前にすると冷静でいられない。柄でもなく熱くなって、彼女に溶かされる間もなく自滅しているような気がした。

    「ホエホエ!」

     悩み続けるグルーシャを心配したのか、アルクジラが駆け寄ってきてグルーシャの周りを忙しなく動き回った。

    「大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」

    「ホエエ……」

     グルーシャは安心させるようにアルクジラを撫でたが、大きな瞳はまだ不安そうに伏せたままだ。が、しばらくするとアルクジラは突然グルーシャの手を取った。

    「ホエッ!ホエエー!」

    「ちょっ、何?どうしたの?」

     アルクジラはそのままグルーシャを引っ張って外へと向かった。アルクジラを止めたくとも、手加減なしのポケモンの力は人間よりはるかに強い。辛うじて職員に出てくるとだけ伝えて、グルーシャは半ば引きずられるようにしてジムを出た。


     アルクジラはなかなか止まってはくれなかった。散歩の範囲を超えて、ナッペ山を上へ上へと登っていく。

    「ねぇ、どこまで行くつもり?」

     そろそろパルデア最高峰まで辿り着こうとした時、アルクジラは足を止めると、もう片方のヒレをピッとかなたへ向けた。その動きにつられて目を向けてーーグルーシャは思わず息を呑んだ。太陽の光を受けて、キラキラと輝く北パルデア海が眼下に広がっている。

    「すごい、綺麗……」

    「ホエホエー!」

     アルクジラはグルーシャの声に自慢げに応えた。

    「もしかして、これを僕に見せたかったの?」

     グルーシャの問いにアルクジラはヒレをパタパタ動かしながら頷いた。

     そういえば、アルクジラは遥か昔は海に生息していたらしい。ホエルコに近いとも言われている。だから、思い入れがある海を見て、元気になってもらいたかったのかもしない。

    「海、か……」

     ずっと山に籠っていたせいか、グルーシャにとって海は縁遠い存在だった。けれどこうやって見ると、思いのほか近くにあったらしい。

    「行ってみようかな」

    「ホエホエ!」
     グルーシャの独り言に、アルクジラはピョンと小さく跳ねた。良いアイディアだと言っているみたいだ。確かに気分転換になるかもしれない。

     グルーシャはスマホロトムで空飛ぶタクシーを呼んでから、アルクジラを連れてジムへと戻った。その足取りはさっきより少し軽くなっていた。

    ***

     そう、海に対してそんな感慨に浸りながら来たはずだった。確かに、静かに波打つ海も、吹き抜ける潮風も、どれもグルーシャにとっては新鮮で心地よい。アルクジラだって波打ち際で嬉しそうにはしゃいでいる。来て良かったと素直に思えたはずだった。

    「グルーシャさんのバカぁぁぁ!!」

     聞き覚えのある声が海に向かって自分を罵倒していなかったら。

    「おい、そろそろ止めろって!オレまで恥ずかしいんだけど!」

     そんな叫びのすぐ後に困惑した声が続く。グルーシャはその声に思わず近くの岩に隠れた。その岩場から覗くと、砂浜で叫び声の主のアオイと知らない誰かが喋っていた。

    「叫ぶくらいいいじゃない。ここあんまり人いないし」

    「いや、いるだろオレが!?てか、この裏がチーム・ルクバーだって知ってんだろ!?オマエがうるさいって苦情が来てんだよ!」

     小柄で全身ピンクの派手な男がアオイに突っかかる。アオイは男の言葉に「ちぇっ」と小さく悪態をつくと、砂浜に座って膝を抱えた。男は俯くアオイを見ていたが、しばらくすると「あー、クソッ!」と痺れを切らして自分も隣に座った。

    「オマエさ、何そんなにむしゃくしゃしてんだよ?ナッペ山のジムリーダーに負けたのか?」

    「違う。ちゃんと勝ったよ」

     アオイはむくれた顔で短く答えた。

    「じゃあ何があったんだよ。こんな迷惑なことまでしてさ」

     男の問いにアオイは目を伏せたままボソボソと話す。その声は波の音に掻き消されるほど小さく、グルーシャにはよく聞こえなかった。けれど、隣の男には十分聞こえたらしい。アオイが話を終えると男は大きな声を上げた。

    「はぁ!?何だよ、そんなことかよ!?」

    「そんなことって何よ!これでもスランプですっごい悩んでるのに!」

     アオイは頬を膨らませて男を睨みつけたが、男の方はフンッと鼻で笑った。

    「完全無敵のチャンピオン様でも苦手なことってあるんだな」

    「なによ、その言い方!だったらオルティガもちょっとは考えてよ!」

    「だからなんでオレが!」

     と、オルティガと呼ばれた男はそう言いつつも、結局はアオイと一緒に考え込んで、そしてふと口を開いた。

    「なぁ。考えたんだけど、その方法合ってないだろ。オマエらしくないし」

    「えー、じゃあどうすれば……」

    「いつもみたいに勢いでどうにかしろよ。ケンタロスみたいにさ」

    「なっ!?誰がケンタロスよ!」

     目くじら立てて怒るアオイに、オルティガは気にせず声を上げて笑った。そんな仲睦まじい二人の様子を見て、グルーシャの眉間に皺が刻まれていく。

     誰だよ、アイツ。

     馴れ馴れしくアオイと話すオルティガにグルーシャは冷たい視線を向けた。

     だいたいスランプだなんて聞いてない。それなら僕に相談してくれたっていいのに。

     グルーシャの視線は、怒りつつも楽しそうに話すアオイに移る。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤👍🙏❤☺👏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works