― サバ★フェス DAY2 深夜 ビーチ ―
昼間は観光客で賑わっているビーチも夜更けとなれば人気は無い。満点の星空とホテルの明かりが寄せては返す波を静かに照らすばかりだ。
「え、えーと、まーちゃん?こんな時間にこんなとこに呼び出して、どうしたの?」
「どうしても、どうしてもおっきー……いや、刑部姫に伝えたいことがあって」
刑部姫をここへ呼び出した張本人であるマスターの表情はどこか固く緊張しているが、それでいて瞳には強い意志が秘められている。
誰も居ない夜の浜辺、満点の星空、思いつめた表情のマスター……創作物にどっぷりと浸かりきっている刑部姫の脳が導き出した答えはたった一つだ。
―――ひと夏のアバンチュール。
「ま、まーちゃんとなら、姫、いいよ……?」
「ほんと!?よかったあ!」
緊張で強張っていたマスターの表情が一息に緩む。まさに喜色満面といいた表情でマスターは刑部姫の手を取り、あるものを握らせた。
これはなんだろう、ひょっとして……指輪!?もうまーちゃんったら気が早いんだから……と刑部姫がゆっくり手を開くとそこにあったのは。
「USB?」
「これ!!おっきーのスペースで委託販売!!させて!!ください!!」
◆
「ちょ、ちょっと待って、確かまーちゃんもサークル参加することになったって言ってなかった?」
「うん、そのつもりなんだけど。……ねえおっきー、今回の顛末、どのくらい知ってる?」
「えーっと、ノクナレアを助けるためにワンジナ?にお供えの寄せ書合同誌作ろー、ついでにまーちゃんも新刊出しちゃおーみたいな?」
「まあ大体そんな感じなんだけどね。この流れでさあ、私が出す同人誌が趣味100%半ナマ元ネタスケスケむしろナマ?BL小説本、出した時の空気ってさあ……想像できるじゃん」
「あー……。前回のサバフェスのこともあるからまーちゃん大注目だしねえ」
「え?マジ?そういう系?しかも小説本?地味じゃね?ってなるじゃん!!!絶対!!!!いや別にね?いいんだよマシュたちと作る本のプロットは大体考えれたしそれはそれで楽しそうだし描きたいこともいっぱいあるしね!!!楽しみだよ!!!でもさあ!!!!この温めてた原稿データをさ!!!行き場のないパッションをさ!!!!胸に秘めたまま夏が終わるのはさあ!!!あまりにも寂しすぎるじゃん!!!」
「それで姫のところに委託を依頼しにきた、と」
「そういうこと!ねえおっきー!お願いします!!」
基本、同人活動というのは自分の『好き』を追及するもの。周りの目や反応を気にするのは二流、いや三流以下。だが。同人作家も同人作家である以前に人間(いやサバフェスにおいてはサーヴァントが大半なのだが)であり、交友関係だってある。ましてやマスターという特殊な立場であればなおさらだ。それでも自分の『好き』を発信しようともがくマスターを刑部姫が拒めるだろうか。いや、拒める訳がない。
「う~~~~ん……分かった!義を見てせざるは勇無きなり!おっきー、まーちゃんのために一肌脱ぎましょう!」
「やった~~~~!!!!」
「まーちゃんはこれから合同誌と自分のところの新刊で忙しくなるっしょ?こっちの方は入稿とか諸々私の方でやっとくから。まーちゃんはそっちに専念して。どうせスケジュールカツカツなんでしょ?それは姫も一緒だけど」
「ほんと!?ありがとう帰ったら絶対お礼するね!それでさ、その原稿なんだけどサバシブに上げてたやつの再録と書きおろしなんだけど、再録分はサバシブに勢いでアップしたままだから誤字脱字とか禁則処理とか甘いかもしれなくて……。本のサイズはA5、本文は淡クリームキンマリ90㎏でいいかな、普通に。表紙は今さら絵師さんに依頼してる余裕もないしフリー素材を使っていく方向で考えてて。メインキャラのイメージカラーに合わせて紫×赤を基調にさし色は金色系統で高貴だけど下品にはならない方向で。あとあと今回箔押しにも挑戦してみたいんだよね!遊び紙はそうだな―――」
「ちょちょちょまーちゃん?まーちゃん!?」
◆
概 念 摘 出
THE NEW CRAFT ESSENCE
「クミン×ターメリック」
第一回サバ★フェスで刊行された「カレー×ライス」の二次創作小説本。
原作ではサブキャラだったトンチキ王子と憤怒の戦士に焦点を当て、彼らの愛が戦争と3000年にもわたる放浪の旅に引き裂かれる姿を描く。
サバシブに投稿されたものに加筆修正を加え、書下ろしの掌編が数編収録されている。
『次回作は転生現パロ幸せ本の予定です!(予定は未定)/あとがきより』