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    はとこ

    エリよす専用垢。キスブラの4000字前後の短編を収納予定。

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    はとこ

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    先日やりました癖パネルから。①は鼻血でした。こちらのお題をキスブラで、我設定でよく顔を出すキースが昔世話になったバーのマスターをそえて、のお話。
    我設定のモブマスター視点。こちらのマスターについては別途わかるお話をツイに流します。ブさまとキースができてるのを知っている。むしろ応援している。

    キスブラか…?と言われると要素が薄い気もしますが…楽しんで頂けたら嬉しいです!ありがとうございました!

    『夢見る妖精』「なにがあったらそんなふうになるんだ」

    オープン前の誰もいない店内。本来ならこの時間はオープン準備で掃除だの最後の仕込みをしてる時間だ。無論、その手は休めてねぇ。なんなら、いきなり飛び込んで来やがった狼藉者に手伝いをさせてる。
    テーブルをホコリひとつ残らず綺麗に拭きながらだって、と。ガキみたいな呟きを漏らしてこっちを見たのはキースだった。鼻にティッシュを詰めたなんともまぁ、無様な格好の。あーあ、制服に血ぃついてんじゃねぇか落ちねぇぞそれ。

    「……」
    「ったく、いくつになってもガキのままだな」
    「うるせぇ、ジジイ」

    悪態をつくのはいつものことだが、それにも心なしか勢いがない。
    クソガキがアカデミーをどうにか卒業して、あのエリオスのヒーロー……そのルーキーとして入所したと聞いたのは少し前だ。チームメイトはアカデミーでも一緒だった奴らで、毎日喧嘩ばっかだけどなんとかやってると照れながら、だがどこか誇らしげに言っていたのを覚えてる。チームのメンターが、あのジェイ・キッドマンだと聞いた時は驚いた。そのジェイも手を焼いてるんだろうなと簡単に予想がつく。

    「よし、掃除はもういいぞ。どうせ何も考えずに飛び出してきたんだろ?」

    座れよ。そう、目の前のカウンターを顎で指せば、やっぱりいつもの勢いはどこへやら。俺に文句のひとつも溢さずお利口にカウンターに腰かける。ケツポケットに突っ込んでたスマホを取り出してテーブルにそっと置く。かと思えば画面をしきりにタップして消してを繰り返してる。チラッと見えたが、何件か着信だのメッセージが届いてる報せが見えた。

    「なんだ、俺に構わず電話なりなんなりすりゃいいだろうが」
    「別に……そんなんじゃねぇよ」

    まぁ、俺を気にしてねぇってのはそうなんだろうが。どうにも煮え切らない態度にだんだんイライラしてくる。よく事情は聞いてねぇが、制服姿で鼻血ダラダラ溢して来る時点でたぶん喧嘩かヒーローのお仕事でか……いや、俺のカン的にゃこいつは喧嘩の方だな。それがルームメイトとなのか、それともパトロール中の巻き込まれ喧嘩なのかは知らないが。いや?この悪ガキが巻き込まれ喧嘩でこんなしおらしくしてるわけがねぇか。ってことは

    「なんだっけか……ブラッドとディノ、だったか」
    「っ」

    びくっ、と。スマホの画面を弄る手元が面白いくらいに跳ねる。なんだよそれ。俺がお前の交遊関係に興味ねぇとでも思ったのか?ってかお前自覚ないかもしれないが、わりとその二人の話してんぞ。最近じゃそこにジェイやらロビン?だっけか。同期やメンター、エリオスの職員らしき人間の話が混ざってくる。けど、大半はブラッドとディノの話だ。言うと余計めんどくさくなりそうだから言わんが。

    「まぁ、なんだ。腹減っただろ?腐りそうな材料があるから消費に付き合え」
    「んだよそれ……」
    「今さら腹下すようなヤワな鍛え方してねぇだろ?」

    うん、とも嫌だとも言わないから勝手にキッチンに立って早めの飯に取りかかる。まったく。本当にいつまで経ってもガキのままだ。ガタイこそ、初めて会った時に比べりゃずいぶんと立派になったもんだ。ガリガリの、目だけがギラギラと光った野良犬みたいな野郎だった。生き汚くて、足掻いて足掻いて。天井を見ては憧れて。てめぇにゃ向いてねぇ世界だとか抜かしてたくせに、やっぱり抱いてたものに負けて、焦がれて憧れて。ついにその世界に片足どころか全身浸ることに成功した。それでも、まだ慣れてねぇのか。やめりゃいいのに悪ぶって。そういうのは大人になってから死ぬほど恥ずかしくなるからやめた方がいいぞ。
    口に煙草を咥えて、冷蔵庫の中で余ってる魚肉ソーセージとこれまた中途半端に余ってる少ししなびたレタスを取り出す。おお、思ったより食材入ってなかったな……ま、いいか。
    フライパンにオリーブオイルを少し。熱して適当な大きさに魚肉ソーセージとレタスを千切ってぶっ込む。本当はベーコンの方が良かったが……まぁ、賄いなんてもんは食えりゃいい。まずくはないはずだ。なんたって俺が作るんだから文句は言わせねぇ。

    「……ジジイ」

    じゅわじゅわと湯気をあげるフライパンを振るう。別に聞こえてなかったわけじゃなかったが……返答を求めてるにしちゃあんまりにも声がちいせぇからそのままにした。少しだけ、ばつの悪そうな顔をして頭をかく。鼻血は止まったんだろう。鼻に詰めてたティッシュを取り出して、キッチンにあるゴミ箱に捨てるために律儀に席を立つ。まぁ、テーブルに置こうもんならもう百回は拭かせるが。

    「……あのバカは……何回言ってもわかんねぇんだ」

    ちと入れるタイミングが早かったか。思いの外萎びちまったレタスにゃほとんど食感はないだろう。次はキャベツにするか。大きさの合ってない魚肉ソーセージがいい色に焼けてる。まぁ、本来焼かなくたって食えるもんだから火の通りなんざ関係ないんだが。
    フライパンの中に直接蛇口を捻って水を適量加える。コンロに戻ったのを見計らって、だろうな。聞かせる気があるならもちっと大きな声で話しゃいいのに。独り言にしちゃ大きすぎる文句をキースはぽつぽつと、俺じゃなく頭の上に浮かべた誰かさんに向けて話し出す。

    「いい加減にしろって、言ったら手が出てきた。そりゃ、殴り返すだろフツー」

    これは俺宛だった。にしてもさぞいいパンチをもらったんだろうな。左頬を撫でながらキースは唇を尖らせる。殴り返したってガキかよ……いや、ガキだったな。
    引き出しから中途半端に余ってたパスタを取り出す。二人分にしちゃ少し少ない気もするが、まぁいいかと真ん中から二つに折ってフライパンに投げ込む。

    「なに焦ってんのか知らねぇけど……言葉が足りなすぎんだよ昔から。クソっ、また鼻血出てきた……」

    と、カウンター越しに手を出してきやがったから、近くにあったキッチンペーパーを一枚ちぎって乗せてやる。キッチンペーパーってないわ……とかぶつくさ文句を言いつつも、それをさらにちぎって丸めて鼻につめる。怒りがぶり返して熱くなるからだ。血の気の多いガキんちょめ。

    「一丁前にできるってツラして……お前がやってんのはただのムボーなんだよ。なんでわかんねぇんだよクソ暴君」
    「ぷっ、」
    「ぷ?」

    完全に拗ねたガキのツラしたキースが口にしたそれがツボに入った。フライパンをガタガタ揺らしながら爆笑する俺を最初は状況についていけなかったのか。ポカンとしたツラで見てたが、だんだん理解してきたんだろう。毛を逆なでた猫みてぇに、無音の威嚇を飛ばしてきたり、顔を赤くしたり、いつも開いてんだかわからねぇ目ん玉をひんむいたりと忙しくしてる。
    今にもこのクソジジイと殴りかかってきそうなキースより早く、俺の方から近付いてやる。カウンターから乗り出して、鼻血ふかしたマヌケなガキのツラに人差し指を突きつける。

    「むかしむか~し、誰かさんにおんなじこと言ってゲンコツくれてやったな~って思ったらおかしくてよ。そうだろ?誰かさん?」
    「ッッ~~!」

    ……むかしむかしの話だ。生き汚さに定評があったどこぞのクソガキは、ひとりでもどうにかなるって噛みついて、挙げ句無茶してぶっ倒れたり変なのに絡まれたりと、とにかく生傷やら中には結構重傷で危うくってのもあったから。頭にきてぶん殴って言ってやった。あの時もびゅーびゅー鼻血出して情けねぇツラしてたっけか。
    体に染み込んだもんなのか、それとも根っこの部分がそういう生き方しか知らなかったのか。言ってもなかなかよくはならなかったが、会った時から引き際の良さだけは目を見張るもんがあった。それに一層磨きがかかったように見えた。
    そう。てめぇの命なんつーもんはここ一番の大勝負以外は賭けるもんじゃねぇのさ。このクソガキはずっと、天秤の片側にてめぇの命を丸ごと賭けてやがった。いつ消えても構わねぇって。そんなツラして、そんなことを口にして。なのに、夜毎死にたくねぇって震えて泣いてんの見たら、そりゃ誰だっていい加減にしろと殴りたくもなる。ガキのくせに一丁前なツラして、なんでもないふうを装いやがるから頭にきたんだ。まぁ、手が出ちまったのは悪かったと、今なら思う。昔は俺だってガキに毛が生えたようなもんだったからな。

    「……」

    突きつけられた人差し指をうざったそうに、けど力なく払い落として、キースは逆に指を俺に……いや、その後ろのコンロに向ける。

    「のびる」
    「……そうだな。飯がまずくなっちまう」

    カウンターから引っ込んで、指摘通りちとのびちまったパスタに、仕上げのコンソメと軽く塩コショウをふって味を整える。皿にざっとパスタを盛って、フォークと一緒にキースの前に出す。

    「まぁ、なんだ。上手い飯でも奢って話しゃ大抵どうにかなんだろ」
    「話って……」
    「対話を止めんなってことだ。言い続けてりゃいつかしつこいって聞く気になんだろ」
    「そういうもんかよ……」
    「そういうもんだろうが。ほら、さっさと食え」

    萎びたレタスと茹ですぎたパスタ。短くしちまったからフォークで巻くのがどうにも難しくて。だが、ここにはクソガキとこの城の主である俺がいるだけ。なんの遠慮もお行儀もいらねぇ。かっこむようにパスタを口に流し込みながら、ちらりと目の前のクソガキを見る。納得がいかないとありありと書いたツラで、難しいだろうになんとかフォークにパスタを巻いたり乗せたりして不器用に飯を食ってた。


    「だから、なにがあったらそうなんだ?」

    ずっと昔……いや?そんな昔でもなかったな。記憶を手繰ればすぐ引き寄せられる程度の昔にも、そんなツラ見たっけなと頭をかく。今度は両鼻にティッシュつめてら。おまえ、巷じゃ料理もできるダラダラヒーロー、よく見ればもしかしてイケメン!?とか言われてんのし……らねぇよな。興味なさそうだし。
    しかも相変わらず制服に血がついてて、だからそれ落ちねぇんだって。おまえんとこのメカ?に叱られるってボヤいてたの忘れたのか?
    あの時と違うのは、こいつの胸に輝く星の数が四つに増えたことくらいか。それと、もうひとつ。

    「このカタブツ暴君が加減しねぇからだ」
    「煩い。貴様こそ本気だったくせに、俺だけが悪いように言うな。腹が立つ」

    カラリと店のドアベルを鳴らして入ってきたもうひとり。あの時は喧嘩相手として名があがっただけでこうして来ることはなかった。というか、普通殴り合った奴と一緒に来るか?
    言う通り、お互い本気でやり合ったらしい。どちらかと言えばキースの方がボロボロに見えるが……まぁ、こいつの場合は変なところで優しいというかなんというか。相手であるブラッドは良くも悪くも手を抜かない手合いだとキースの話や見ていて思った。それが例えガキのくだらねぇ喧嘩だったとしても、手を抜くことが相手に対して失礼、だとかド真面目なツラして言うんだろうな。まったく、相変わらず難儀な男だ。

    「ったく、おまえら……特にブラッド、あんたは人の話と約束は守る質だと思ってたが?」
    「……これは……あの時の話を違える程では……」

    とか言いつつもこちらをあまり見ないようにしているのはばつが悪いってことだろうが。まったく、ちゃんとしてるように見えてもまだまだ青いな。
    以前、俺は約束って言うにはなんともな話をブラッドだけとした。キースというクソガキをひっぱたいて引きずって。前へと蹴り出した男なら、どんな形であれきっと辿り着くことができるだろう、俺の大好きなハッピーエンドってやつに。それはブラッドだけではなし得ないと、おそらく本人も気がついてるはずだ。

    「まぁ、確かに。忘れてくれ。少し意地が悪かったな」
    「いや……」
    「なんだよおまえら……いつの間にそんな仲良くなったんだよ」

    鼻血はもう止まったのか。つめてたティッシュを引っこ抜いて、不貞腐れたように横目で俺とブラッドを眺める。羨ましいかクソガキと、からかってやってもいいが、あいにくまたオープン前の忙しい時間帯だ。遊んでる暇はねぇ。こいつらわかって来たのか?それこそ意地が悪い。

    「で、今度はなんだクソガキ。わかってると思うがこちとら店の準備がある。喧嘩の仲裁とかくだらねぇ案件ならよそをあたりな」
    「ばっ!ちっげーよ!その、飯……」
    「飯?」

    聞き返す俺の言葉にキースは唇を尖らせてゆっくり頷く。飯、飯ね。だからそれはここじゃなくてもできんだろうが、どうせ隠れ家の一個や何個もあんだろうが。と、まとめて追い出してもよかったが、俺だって鬼じゃねぇ。それに……いい歳してとクソガキに笑われるかもしれないが、知りたいと思った。

    「賄いを作るにゃまだ早いな。おまえら、ここにツラ出せるくらい暇なんだろ?なら手伝え」

    ――バー、ティンカーベル。
    俺の夢と希望と拘りで作り上げた城だ。この城は、大人になりきれねぇ奴らがよく集まる。そう、目の前でなにやらまた揉め始めたクソガキみたいな奴らがゴロゴロと。
    手に手に酒を、旨い飯を。食らって飲んで語らって。静かな雰囲気を作り上げたが来る奴らがそんなのばかりじゃ、ここはたちまち海賊船みてぇになっちまう。けど、夜も更けりゃそれも静まって……そう、内緒話をするにはちょうどいい静けさになる。ちいせぇ声で言ったごめんなさいだって聞こえるだろう。

    「ちょうど腐りそうなもんがあんだ。おまえら、そんなもんで腹下すようなヤワな鍛え方はしてねぇな?」

    冷蔵庫にはあの日と同じちょっと萎びたレタスと魚肉ソーセージがある。今度はちゃんと話し相手がいるから、俺がパスタをのばすこともないだろう。

    「ったく、ヒーローをこき使うなよ……って悪かったから睨むな拳をあげるな!」
    「黙れ。まったく、邪魔をしているのはこちらだと言うのにふざけているのか。申し訳ない、それでなにをすればいいだろうか?」

    ブーブーと文句を垂れるキースを視線とちょっと振りかぶった拳で黙らせて、ブラッドは本当に申し訳なさそうに眉と頭を下げる。おお怖い。うちの母ちゃんよりおっかないなこの美人さんは。
    互いの距離、ごく自然の動作、ごく自然の言動。この二人の普段が透けて見えるようで、なんというか見ていて少し恥ずかしい気持ちになるのはなんでだろうな?青い春とか言うやつかね?いやだいやだ。歳はとりたかないね。

    「なら、ダスターでテーブルを拭いてくれ。なにてめぇは知りませんみたいなツラしてんだ。おまえもだクソガキ」
    「うっせ!いつまでもガキ扱いすんなクソジジイ!」

    投げつけたダスターを受け取って……文句を垂れるキースの横っ腹に強烈な肘鉄が入ったような幻が見えたが気のせいだろう。わーわー騒ぎながら、二人仲良しこよしでテーブルを拭き合う姿に込み上げる笑いを耐えることができねぇ。おまえら、喧嘩してここに来たんじゃねぇのかって。
    拭きながら、ここはこう拭けだのこうじゃねぇだの言い合いながら、それでも着実に綺麗になっていくテーブルを見送って、俺は冷蔵庫へと足を向けた。
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