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    はとこ

    エリよす専用垢。キスブラの4000字前後の短編を収納予定。

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    はとこ

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    以前やりました癖パネルから最後のひとつ、ヴィラン化でした。こちらかなり特殊な話になってしまったのでご注意下さい。

    ・キとブラさまの偽物が出る。この、偽物ですが…某ゲームの別側面を想定して書きましたがちょっとうまくいきませんでした…。
    ・エリくん名物ゴツサブ案件です

    個人的にこれが一番難産でしたが楽しかったです。お声がけ頂きありがとうございました!

    『Fの肖像』――キース・マックスの話をしよう。
    誰ともなにとも関わりたくなかったから。誰も寄せ付けない雰囲気を出してた。でも本当は、心のずっとずっと奥底でメソメソと泣いてた。寂しい。誰か。いや、誰もいなくていい来なくていい。自分はひとり。ずっとひとりきり。それでもなんとかやってこれた。だから今さら誰も必要としない。
    けれど。だけど。それでもよかった。誰にも干渉されない、することもない。命がこぼれおちる、その時を見なくても関わらなくてもいい。だから楽だった。気持ちが楽だった。このままでいい、このままがいい。
    それを破ったのは。土足で踏み込んできたのはどこまでも能天気なヤツ。自分だって本当は寂しくて、仲間が欲しくて欲しくてほしくて仕方がなくて泣いてた。無理に笑って他人に手を貸すような馬鹿な…本当に馬鹿だったヤツ。それと、もうひとり。
    自分はすべて。なんでも持ってる。それを差し出すことをなんとも思っていない。なぜ?それが普通だから。上に在るモノ、導くモノ、施すモノ。それが当たり前で当然で。そういう顔してもっともらしいことを並べ立ててひとに説教してくる。キースがこの世でもっとも嫌いで見たくもないヤツ。なのに、ずっと隣にいてくれたヤツ。
    そいつらが揃いも揃ってキースの世界を壊した。壊された世界にはいられない。けど、その世界しか知らなかったから。自分の世界がなくなって。自分の常識が。暗闇が。痛みがなくなったから。どうやって息をすればいいのかわからなくなったから。だから――

    「世界を壊してなかったことにしようって、そう考えたんだ」



    緊急案件時のみ鳴る最大レベルの警報が鳴り響いた時、俺の前にはすでにその原因と即座に察しがつくそれがいた。
    現れるなりそんな前口上を垂れて、キースと良く似た……もはや同じと言っていい。髪と目の色が……いや違う。目の前に立つキースもどきは、俺が良く知るキースとはまったくの別物だ。それだけははっきりと言える。
    苛ついたように突き出した右手が不可視の力を生み出し、側に止まっていた無人の車を捻り潰す。耳を潰すような爆音。肌を焦がす爆風を間近で受けたはずなのに、キースはむしろ楽しそうに鼻歌をうたっている。良く見れば、キースを守るように集まった紫の粒子が。見慣れたそれが生み出した鉄の壁が、爆風の全てを受け流していた。

    「お前だけ遊ぶのは狡いし、感心しない」

    声が聞こえた瞬間、展開されていた壁が紫の粒子になって消える。霧のようにあたりを漂う粒子のその先には、やはり髪の色と目の色が違う己と瓜二つの男が立っていた。
    互いに白い髪。昏く沈んだ金の瞳。その奥底には……どろりと重く、淀んだ感情が沈んでいるのがわかる。

    「そんなこと言うなよぉ……俺だって、好きでこんなことしてるわけじゃないんだ。ただ、全部なかったことにしたいだけ。全部なくして元に戻したいだけなのに、なんで怒るの?」

    キース、の偽物がそう口にして。ぽろぽろとその金の瞳から涙を落とす。子供のように泣きじゃくるそのアンバランスな姿に背筋が粟立つ。これではまるで、ように、ではなく子供だ。子供そのものだ。

    「悪かった。お前が泣くと俺まで悲しくなるじゃないか。えーんえん。ほら、これで同じだろう?」

    自分と同じような顔をしたそれが泣き真似をする姿に吐き気がする。同じ、ではない。まるで心がこもっていない。事実、キースの偽物を見る目は冷えきっていて、心底どうでもいいと語っている。なのに、愛おしいモノを見るように、愛でるように。泣く偽物の頭を撫でる。本物と同じように癖のついた髪に指先を通す。

    「まったく、キースは心が繊細なんだから虐めたらダメだろう?それとも、わかっていてわざとやったのか?なぁ、もうひとりのブラッド・ビームス?」
    「っ!?」

    名前を呼ばれた。そう知覚するより早く、俺は目の前に鉄の壁を展開する。刹那、金属を擦り合わせたような酷い音が辺りに響く。続いて轟音。弾き飛ばされた鎖の矢尻が辺りの建物を、その壁面を抉り削っていく。

    (俺のものより威力が高い……!)
    「はははっ!強いと思っただろう?そうとも。お前みたいに周りなど気にしない。他の誰が壊れようが傷付こうが知ったことじゃない。どうでもいいんだ!なにもかもどうでも!」

    声に怒りが乗る。そんなことはないと反論しようと口を開いて、下からの微弱な振動になにが来るかを察してすぐさまその場を飛び退く。
    タッチの差、だった。足元からせりあがってきた鉄剣が、コンクリートを刺して粉々に砕いていく。あんなもの……人間が受ければ即座にミンチにされてしまう。

    「はははははははっ!!」

    両の手を広げ、狂ったように嗤う。俺を見て、他のモノを見て。温度のない目で嗤う。いや、嗤っているように見えるだけだ。全てが見せかけのハリボテでしかない。口元は笑みを象っているのに、目が死んでいる。感情が見えない。それが……こんなにも気持ちの悪いものだとは思っていなかった。
    自分は、違う。そう思っていても姿が同じ、声が同じである。それだけで……目の前のあれが己自身だと錯覚している。違う。違うと頭で理解しているというのに。

    「考え事か?」
    「あ――」

    いつの間に。など。考える暇もなかった。
    全身を襲う衝撃。咄嗟に生み出した機関銃による掃射をしていなければ、きっと死んでいたとわかる。

    「がはっ……」

    叩きつけられた壁からズルズルと地面に落ちる。頭を打ったのか。視界が曇る。いや、赤い。
    霞む目と意識を唇を強く噛み締めることでどうにか耐え、顔に触れた己の指先が赤に染まる。それなりの出血なのか、音もなにもかもが遠い。

    「ひどい……いたくない、ように、すぐ楽にしてあげようと、思ったのに!」

    弾がかすったのか。額を押さえて癇癪を起こしたように地団駄を踏んで、キースの偽物が声高に叫ぶ。それを横から優しい手付きで抱き寄せて、俺の偽物は痛がるように顔をしかめる。

    「可哀想に。お前は悪くないよキース。悪いのはあいつだ。傲慢で、自分はなんでもできるすごい奴だって勘違いしてるもうひとりの俺。本当はなにをするにも怖くて怖くて仕方ないのに、それを強がってお得意のできるふりで隠してなんでもありませんって顔してるあいつが悪いんだよ。そんな悪い奴はどうするのがいいのか……お利口なキースはもうわかってるよな?」

    うっそりと。もうひとりの俺が笑っている。これは、感情がある。嬉しい。そう、その爛々と輝く目が言っている。

    「わかる。わかるよブラッド。同じだよ。全部、同じように壊そう。バラバラに。めちゃくちゃに。ぐちゃぐちゃに!」
    「そう、その通りだよキース。可愛い、俺の」

    ――バカな人形

    「っ……!!」

    ふざけるな、ふざけるな!
    偽物の口元が音もなく人形、などと言ったことが許せなかった。例え、隣に立つ男があいつの偽物だとしても。俺と同じ顔で、声で。あいつをそんなふうに言ったことがどうしても許せなかった。
    視界を遮る血を腕で無理矢理拭い取って、左手を振るう。生み出された黒剣が偽物たちに降り注ぐ。だが、それは不可視の壁に遮られ届くことはない。元々、俺とキースの能力は相性が悪い。あいつのインビジブルフォースを掻い潜り、攻撃を届かせるためには死角を突く必要がある。視界におさめられた今の状態ではなにをしても全て防がれてしまう。

    「無駄だって。頭がいいからすぐわかるだろう?無駄なことが嫌いなくせに、一番の無駄は自分自身って矛盾に気付いてるくせに!」
    「くっ……!」

    見慣れた機関銃から無数の弾丸が吐き出される。それを鉄の壁を生み出してどうにか防ぐ……が。

    「えっ?」

    ぐにゃり。鉄の壁が粘土のようにねじ曲がるのを目視する。見えない手に握り潰されるようにして、壁は瞬時に破壊される。そして、

    「へへ、今度はちゃんとおわりにするから」

    弧を描く、キース、と目が――

    「バカヤロウ!!」

    声が、聞こえた。
    横からおもちゃのように放り投げられた車が、目の前で不可視の力に圧縮されて……小さな小さな塊になって消えたのを見送る。骨組みも残さず、本当に初めからなかったように消えた。

    「なにぼーっとしてんだ!死ぬつもりか!?」

    胸ぐらを掴んで俺を地面に立たせたのはよく知った男の熱い掌だった。
    そんな言葉を吐いていながら、眉を潜めて……今にも泣いてしまいそうな表情でそれは、俺の良く知るキースはこちらを見つめていた。透き通った金緑石。偽物とは違う、命の輝きに満ちた……若草に良く似た光が俺をじっと見ている。見て、訪ねている。お前はまだいけるのかと、心配と優しさと。少しの挑発めいた色を乗せて俺を見つめている。

    「……問題ない。少し、遅れを取っただけだ」
    「はぁ?お前、もう少しオレが遅かったらやられてたヤツが、そんなドヤ顔で言うことか?普通はありがとうって言う場面だろこれ」
    「ありがとう。これで気は済んだな」
    「っ~~~~とに可愛くねぇな!」

    いつもの会話。いつもの雰囲気。それに心から安堵する。決して仲睦まじいものではないだろう。どちらかと言えば、互いを足蹴にしているような言葉のやり取りだ。だがそれが俺とお前で。昔も今も、そしてこれからも変わることがない、距離だ。

    「で?なんだよあのうすっ気味悪いヤツは。お前なんかここにいるお前ひとりで十分だっての。それに……あのオレは……まぁ、控え目に言ってないわ」

    言葉こそ軽いが、その表情は苦みばしったものだった。誰であれ、自分と同じ容姿のモノを見れば戸惑いもする。だがキースは……どちらかと言えば、怒り、だ。

    「お前はオレでしょ?ならわかるだろ!全部なかったことにしたいんだ。そうすれば昔のことだってなかったことになる。消える、消せるんだ!親父のことだって」
    「黙れよクソ偽物野郎が」

    ひっ、と偽物のキースが殺気にも似た怒りにひきつった声を上げる。それを庇うように、偽物の俺が一歩前に出る。

    「酷いな。お前だって消したいことじゃないのか?忌まわしい昔話なんて」
    「聞こえなかったのか?黙れよ偽物野郎どもが。ひとさまの人生にケチつけんじゃねぇよ」

    地面に転がる砂利を踏みしめ、キースが偽物と同じように俺を庇うように前へ出る。それはあえてなのか、それとも無意識なのかをはかることはできない。だが、その大きな背中は語っている。今まで歩いてきた道の中で……俺が見てきた背中は言っている。

    「良いことも悪いこともな、全部をひっくるめて固めたのが今のオレなんだよ……って、こんなクセェこと言わせんじゃねぇよ恥ずかしい。要するにおとといきやがれってことだクソ野郎!」

    キースの全身が仄かな光を放つ。迸る光の矢が、同じ光とぶつかり空中に余波だけを残して砕け散る。偽物のキースが同じようにインビジブルフォースを使い相殺したのだ。それが、連続で宙に足跡を刻む。

    「くそっ!我ながらめんどくせぇな!」

    互いに体は動いていない。だが、忙しなく視線だけが動いている。バチバチと静電気のような音が辺りに響く。しかし、少しずつ……キースが押されていることに気付く。相殺されたインビジブルフォース、その余波が間近に迫る。砕かれたなにかの破片が雨のように降り注ぐ。

    「ふふふ……ダメだなぁ……だって、最初から違う。オレは全部なかったことにしたいんだ。それは、オレだって入ってる。だから初めから必要ないんだ。初めから両目で見てる。よく見える。おまえたちが悔しそうにしてる顔が、すごく、よく見えるんだぁ……」

    つっと、偽物の目から鼻から血が零れ落ちる。両目。その言葉が本当だという証明。初めから生き残るつもりがない。だから初めから本気でこちらを消しに来ている。
    偽物だったとしても…胸の奥が痛むのを感じる。違う。目の前のモノは偽物でしかない。だというのに……その、哀しそうに笑うその表情から目が離せない。血だらけで笑うその顔に触れて、そんなことは言うべきではないと叱りつけてやりたい。
    そんな俺とは真逆で、もうひとりの俺はただ後ろに立っているだけ。助けるでもなく励ますでもなく、感情を削ぎ落とした無表情でこちらを眺めるだけ。

    「……!」

    ゆっくりとキースの腕が持ち上がり、眼帯に触れるその前に、俺は手の中に生み出した黒剣を握り前へ出る。

    「行くぞ。援護は任せる」
    「……簡単に言いやがって」

    すれ違い様にそんなやり取りを交わし、明確な答えを聞くより早く駆け出す。答えは、聞かずともわかっている。
    走る先に光が弾ける。その光の残滓が前髪を、右肩を掠めて削る。大丈夫。全部当たっていたら今頃俺はここに存在していない。

    「止めろ……来るな、来るな来るなくるな!!」

    拒絶。そして恐怖。歪んだ表情から読み取れる感情に心が揺れる。それを一呼吸の間に振り払う。
    俺は剣。守るモノ……守りたいものは俺の後ろに在る。いや、それこそが傲慢なのか。そんなことをしなくても……もう、俺が手を出さずともあいつはひとりで歩ける。進んでいける。前を向ける。それを、あの背中は語っていた。俺は……その背中に手をそえて、行ってこいと押すだけ。お前がそこにいるなら。俺はきっと、そこへ向かって走り続けて行ける。
    手の中の黒剣を握り締める。敵は眼前に在る。あとは、この剣を振るうだけ――

    「残念。時間切れだ」

    突き出した剣……その切っ先が偽物の俺の眼前で停止する。同時に、己の心臓を貫ける位置に同じような剣の先が向けられていることに気付く。
    あと一呼吸、あれば。だが、その必要がないことはすぐにわかった。

    「ブラッド……」
    「危ない危ない。もう少しで壊されるところだったな?けど、これでもうその心配はない」

    表情はない。言葉に温度もない。なのに、偽物の俺は最後の最後でキースの前にその体を投げ出した。しっかり反撃を、俺を殺せる距離に迫った。だから、あと一呼吸で死んでいたのはこちらだったかもしれない。偽物たちの体が、まるで切れかけの電球のように明滅を繰り返していなければ……。

    「忘れるな」

    忘れるな。もう一度同じ言葉を繰り返して、偽物の俺は手の中から剣を消す。ふわりと風に乗る粒子の向こうで、それは確かに笑っていた。すべてを諦めた、空の笑顔だった。
    程なくして、偽物の俺たちは一瞬だけ見慣れたダイアモンドの形を取って、瞬く間に砕けて消えた。



    「あ~~~……しんど……」

    エリオスタワーへ帰還して数時間が経過していた。
    町中に突如現れた俺とキースの偽物は、結局正体不明のアンノウンとして処理された。監視カメラの映像から解析をしようと試みて……なにも映されていなかったのならそのような結末になっても仕方がない、と思った。納得はいかないが。

    「ったく……なんかヤベェから行けって言ったじゃねぇか。なら、あれは存在してたってことじゃねぇのかよ」
    「知らん。まぁ……なにかと都合が悪かったのかもしれないな」
    「なにそれ。怖っ」

    ドラマの見すぎだとかなんとか失礼なことを隣で喚くキースを横目に、先の戦闘で負った頭の傷に触れる。サブスタンスの力で順調に回復しているが、この傷が、最後の言葉が頭から離れない。

    「……忘れるな、か」
    「え?なんだって?」

    忘れるな。自分たちを忘れるなということか。それとも、この姿が、思考が……もしかしたら自分たちに起こりえたのだということを、か。

    「……まーた難しいこと考えてんだろ」

    懐から煙草の箱を取り出して、キースはいいか?とアイコンタクトで俺に許可を求めてくる。まったく。
    無言で少し頷いたのを見届けてから、キースはお気に入りのジッポーで煙草の先端にゆっくり火をつける。

    「ここにいるのは今のオレで、今のお前。なんか馬鹿やって喧嘩して、それでもなんとかここに辿り着いたオレたちだってこと。それだけでいいだろ」

    自分で言っておいて恥ずかしかったのか。らしくねぇ、とボヤくように呟いて、キースは乱暴に頭をかく。らしくなくとも、それは確かに俺を納得させるに足る理由だった。腹立たしいことに。

    「……ふ」
    「はぁ!?今の、笑うところか?」
    「キースのくせに正論を言うのだと思ったら面白くてな」
    「お前……クソっ!苦労した損だ!酒の一杯二杯は奢ってもらわねぇと割に合わねぇよ!」

    唇を尖らせてぶつぶつと文句を言い出すキースの姿にさらに笑ってやれば、完全に不貞腐れたのか。子供のように頬を膨らませる始末だ。これは酒に付き合わねば機嫌をなおすのは難しいだろう。
    俺の思いを肯定するように、キースが咥えた煙草がゆらり、と。風もないのに揺れて静かに消えた。

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