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    はとこ

    エリよす専用垢。キスブラの4000字前後の短編を収納予定。

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    はとこ

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    死神キと執事(南ハロ)ブさまの月見話と言いはる。シリアスめ。キスブラ。
    キはそのまま西ハロの死神ですが、ブさまは自動人形執事という設定になっています。それらを始め、ほのかな我設定が垣間見える感じのお話ですが、雰囲気で読んで頂ければと…。

    月だけが見ている頬に当たる空気はキンっと冷えきってる。いつもここは寒いけど、今日は一段と冷えてる。つっても、寒くて凍えるなんて弱い体とは昔々にオサラバしてるけど。
    冷えても焼いても切ってもオレは死なない。なんたって、その死を運ぶ死神さまなんだから。今日も今日とてお仕事お仕事~っと、懐から出した箱から煙草を一本咥える。あれ、火、火ぃどこに仕舞ったっけな…?別に魔力を使えば火のひとつ付けるなんざ造作もねぇけど…こんなことで力を使ったらお上がうるせぇし。
    ゴソゴソと重っ苦しいマントの中やら服を漁る…その、最中。

    「ひぇ!?」

    目深にかぶったフードを浅く裂いて、目の前を通りすぎたなにかに声を上げる。瞬きの間に通り抜けてったそれは、鈍色に光るカトラリーだった。いや、カトラリーってのは食事に使うもんで人様に投げるもんでもねぇし、こんな切れ味良かったら料理ごと皿が真っ二つになる。
    今いる場所…辺りは暗く影が落ちている。その中に浮かぶデケェ洋館の屋根にオレはいる。ここから見える森の木々は黒くおどろおどろしいオーラが出て、入るもの全てを拒む雰囲気がある。が、木自体はすこぶる元気に育っていて、ここの主が植物の世話好きだというのは本当なんだと納得する。
    洋館の周りは人を寄せない雰囲気で満ちてるってのに、洋館自体は手入れが行き届いていて、この中に化け物が住んでるだなんてとても思えない。まぁ、化け物って言ったけど、ここの奴らが人をどうこうしたなんて話は百年聞いたことがねぇし。むしろ、迷い混んだ人間を手厚くもてなし人里へ帰してるって話。まぁ、もてなすかどうか、それを決めるのは洋館の主であり、そこを預かるこの…

    「キース・マックス…貴様、懲りずにまた来たのか。学習能力が不足している、早急に改善しろ」

    この、鉄面皮自動人形のブラッドだ。執事として、館の厄介ごとはこいつが全部、文字通り処理してる。
    初めて会った時、こいつはただ綺麗なだけの心ない人形でしかなかった。殺すため、壊すため、処理をするだけの簡単なお仕事しかできねぇ、ただのお人形。けど、…目だけは気に入ってた。月並みだけど、血のような暗く、でも人目を惹く鮮やかな赤。ピジョンブラッドの、目。それが、屋根にいるオレを見上げて爛々と輝いている。

    「お前こそ、昔に比べりゃずいぶん覚えたな。けど、お前が今ナイフよろしくぶん投げたカトラリーってのは飯を食うのに使うんだよ、知ってるよな?」
    「…貴様に出す食事はない。よって、この使い方は誤りではない」
    「そういうこと言ってんじゃねぇの!」

    ここの連中がブラッドにあれこれ教えて、共に暮らして、そうして今のブラッドが出来上がった。オレの同僚…狼男のディノにはめちゃくちゃフレンドリーだって聞いたし、飯も食わせてくれるって聞いたけど、オレに対しては相変わらずだ。
    …まぁ、元々ここの主の魂に用があって来たせいか、印象最悪でそれをずっと、このカタブツは引きずってる。今はお上の命令が変わって、逆になにかあったら守れって言われてるもんだから、ブラッド以外の奴には歓迎されてる。
    ガキのアキラはしょっちゅうパチンコでオレを狙ってくるけど…あんなのはこいつのカトラリーに比べりゃ鳩の豆鉄砲みてぇなもんだ。

    「はぁ…クソ…お前に見つかるとめんどくせぇんだよな…」
    「なにをブツブツ言っている。屋根は貴様のような怠惰な者が羽を休める場所ではない。降りろ。煙草も吸うな。屋根に灰が落ちる」
    「だぁ~~っ!うるさいうるさい!なら、これならどうだ!」
    「っ!?」

    キィン、と空気が震える。
    視界に捉えたブラッドの体を、緑の光が包み込み、オレの手招きに応じてゆっくりとこっちに向かって浮かび上がる。前に一回やった時は…お前は高いところが嫌いな猫かよってほど暴れられてえらい目にあった。今は学習したんだろうな。顔だけはお前コロスみたいな殺気まみれのツラで、体は能力に素直に従ってる。おかげで難なくオレの横に下ろすことに成功する。
    ぱちん、と泡が弾けるように能力が解けた…瞬間、両手にカトラリーを握りしめたブラッドの腕がオレに向かって繰り出される。それは…予測済み。

    「…くっ!」

    オレの喉元を殺人…いや、死神だからなんだ?死神殺し?のカトラリーが貫く前に、再び能力でその動きを止める。今度は抵抗してるらしく、ぎちぎちと、その作り物の腕が縛りに反抗して音をたててる。

    「躾がなってねぇな?」
    「黙れ。貴様を見ていると腹が立つ」
    「へぇ?どうして?」
    「わからないからこうして試している」
    「殺すのか?」
    「わからない、だ、が、」

    キュイ、と。ブラッドの作り物の体の中がなにかに反応して音をたてる。なにをロードしてるの?なにを思い出そうとしてる?なにを――お前は忘れた。
    明滅を繰り返し、その体から力が抜けていく。あんなにも輝いてキレイだった目から色が抜けて、濁って…。

    「もう、いい」

    能力を解いて、その冷たい体を腕の中におさめた。しばらくアップロードを繰り返して音を鳴らすだけの人形だったブラッドに光が戻ったのは一分にも満たない時間。けど、その時間が…オレには怖かった。

    「自我再構成、開始。学習機能、問題なし。記憶領域、再構成開始…」

    口から溢れる、ブラッドであってないものの声を聞きながら、ぎゅっと力を込める。そうだ。お前はまだここにいろ。その入れ物がお前であってお前でなくても。オレはここにいて、その体を、心を、記憶を、存在を繋ぎ止めてやる。

    「キース」
    「っ!」

    声が、聞こえた。それは、ブラッドの声だ。
    オレがよく知る、ブラッドの。
    オレの腕の中で、お前は相変わらずキレイな目でオレを見上げて、どうした?と少し首を傾げる。込み上げるものを全部噛み砕いて飲み込んで、オレはどうもしねぇよとなんでもないことのように答えた。
    なんでも、ないわけねぇのに。

    「あぁ、」

    キレイな目が、オレからそれる。それた先には、この屋根から一等大きく見える満月がある。冷たくて、暖かい。白くて黄色くて、大きい。それにゆっくり手を伸ばして…違う。オレの頬に手を伸ばして、ブラッドはどこか挑戦的に笑う。

    「泣き虫なのは相変わらずか」
    「…誰が泣き虫だ。泣いてねぇだろ」
    「いや、泣いている。俺には、わかる」

    お前が、俺のよく知るキースである限り。

    「ブラッド…?」
    「ほん……に…」
    「ブラッド…!」

    キレイな目が閉じていく。まるであの時の再演とでも言うように。オレの脳みそに深く刻み込まれた、どんなに時を経ても忘れることはない、ブラッドの顔が、仄かに浮かべた笑みが、鮮やかに更新されていく。そうして、胸に刻まれたこの痛みも、熱を帯びて叫びとなって外へ出る。情けなく名前を呼んで、ブラッドの体を強く抱き締める。返ってくる、ものなんかないのに。馬鹿みたいに、オレは。

    「…どうした、キース・マックス」

    返ってくる。背中にそろそろと持ち上げられた腕が、遠慮がちにオレの体を抱き締めてくる。少し、加減が悪くて苦しいくらいだ。でも、それでいい。その方が、いい。

    「はは…なんでも、ねぇよ物騒執事。目ぇ覚めたかよ」
    「…キース」
    「…!」

    キース、と。しきりにオレの名前を口の中で転がして、なにに納得したのか。ブラッドはうんと首を縦に振り、オレの頭を撫で始める。え?なに、これ。

    「なに、してんの?」
    「いや、泣いているものには優しくしろと主が言っていた。お前のような者でも泣くのだな」
    「…泣いてねぇし、ガキじゃあるまいし止めろよ」
    「そのわりには抵抗する気配が感じられない。こうして撫でてやるといいと、主に教わった。俺のような者の手で安心とやらを得られるかはわからないが、主は」
    「いい」
    「なんだ?」
    「いいから、黙って続けろよ」

    一度は止まった手が、やれやれというため息と共に再開する。頭を撫でる手に温もりはなくても。それが、言われた…教えをただ実行しているだけにすぎなくても。

    「………」

    安心は得られたよ。お前がここにいて、オレに触れてる。その事実だけで救われるものは確かにここに在る。
    それは、空の月とオレだけが知っていればいい。それで、いい。

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    はとこ

    DONE死神キと執事(南ハロ)ブさまの月見話と言いはる。シリアスめ。キスブラ。
    キはそのまま西ハロの死神ですが、ブさまは自動人形執事という設定になっています。それらを始め、ほのかな我設定が垣間見える感じのお話ですが、雰囲気で読んで頂ければと…。
    月だけが見ている頬に当たる空気はキンっと冷えきってる。いつもここは寒いけど、今日は一段と冷えてる。つっても、寒くて凍えるなんて弱い体とは昔々にオサラバしてるけど。
    冷えても焼いても切ってもオレは死なない。なんたって、その死を運ぶ死神さまなんだから。今日も今日とてお仕事お仕事~っと、懐から出した箱から煙草を一本咥える。あれ、火、火ぃどこに仕舞ったっけな…?別に魔力を使えば火のひとつ付けるなんざ造作もねぇけど…こんなことで力を使ったらお上がうるせぇし。
    ゴソゴソと重っ苦しいマントの中やら服を漁る…その、最中。

    「ひぇ!?」

    目深にかぶったフードを浅く裂いて、目の前を通りすぎたなにかに声を上げる。瞬きの間に通り抜けてったそれは、鈍色に光るカトラリーだった。いや、カトラリーってのは食事に使うもんで人様に投げるもんでもねぇし、こんな切れ味良かったら料理ごと皿が真っ二つになる。
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