排球夢 -空-/始まりの息吹-1「ナイスキー」
「オーライ!」
「ナイスレシーブ」
――2011年7月某日。様々な掛け声が響く体育館。
オレはコートに立っていた。
相手は優勝候補、次世代の怪童。
間に合わせの調整しか出来なかったオレがそいつに勝てるなんぞ思わない。数年、逃げたオレが勝てるなんて思うわけが無い。
でも、同じコートに立つコイツらが信じてくれるのなら。オレという選手を待ってくれているのなら、応えたい。
それにここは心地好い。騒がしくて、熱くて、苦しくて――
「智早」
高く、高く、跳んで、飛んでいるような。
そんな感覚が、オレは――
「逃げんなよ」
*
谷地仁花は迷っていた。目の前――厳密に言えば、隣の席ですやすやと眠っている、マスクをした男子生徒。彼は今朝、今日から部活が始まると嬉しそうにしていた。けれど今は放課後、何やら険しい顔をしていた彼はホームルームが始まってすぐに夢の世界へ向かってしまった。真面目な彼が珍しい、そんなに疲れているのかな。
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