レオ監︎︎ ♀|🦁監♀SS(全年齢)② 「酷い女」「というわけで、フロイド先輩たちと海に行ってきますね!」
「はぁ?」
珍しく呆気に取られたような表情をした先輩は、徐々にその眉間に皺を寄せて溜め息をついた。ゆらゆらしていたしっぽが、左右に振れてベッドを叩いている。
明らかに、分かりやすく、ご機嫌ナナメである。
「グリムもエースも一緒ですし……あ、先輩も一緒に」
「行かねえよ、そんな面倒なメンツで」
秒殺。ああ、難しそうな本まで開いてしまった。強硬手段だ。
本を押しのけて、太い首に両腕を絡めて頬にキスを贈る。
「妬いてくれるんですか?」
「妬くかよ。俺は恋人に蔑ろにされて悲しんでるだけだ」
まだ抱きとめてくれない。まだ弱い。
「だってレオナさん、お休み中はご実家に帰っちゃうでしょう?」
「お前を連れて帰る予定だったんだが」
「えっ聞いてないです」
「今言った」
「……どうせ予定なんてないって思ってましたね」
「……」
しれっとした顔も相変わらず呆れるほど美しいが、これはさすがに酷いのではないか。私にだって学生らしい夏の予定が、まあ無かったのだけれど、こうして出来たわけで。
顔をそらすとさすがに逞しい腕が背に回される。
「この間だってデュースの地元に遊びに行きましたし、私だって忙しいんですから」
「はっ、草食動物どもが草食動物の格好したやつだろ?あれは面白かった」
「もう、馬鹿にして」
諦めて身体を離そうとすると逆に強く抱き締められた。
低音が甘く耳に吹き込まれる。
「で?お忙しいお前はいつになったら俺の相手をしてくれるんだ?」
「……っ」
ぞくり、痺れが背を駆け抜けたのが分かったのだろう。先輩の勝ちだ。私が勝てたことは無い。
いつだって、わがままなこの人の言いなり。
にやりと笑った形のままの唇に、唇を食まれる。しっかりと抱きしめられたまま、手袋をした指先に耳の輪郭をなぞられて。
「なあ、ダーリン?」
もうレオナさんの独壇場だ。拙いウソが通じる相手でもない。
「……海から、帰ったあとなら」
「それはお忙しくて大変だな。お前が帰ったら迎えに来る。荷物は全部置いて着いて来い」
……またそういうセレブなことを言う。先輩は何かと金銭的に私を甘やかそうとするが、これに従っていたら庶民の生活で満足できない身体にされてしまう。困る。
「課題は持っていきますし、全部買うって言うでしょうからトランクひとつ分くらいは持っていきます」
「真面目だなァ、本当によく疲れないことで。課題なんて休みが終わってからやりゃ良いんだよ」
「ダメです。海の後はずっと私と居てくれるなら、課題も見てくれるんですよね?先輩って本当に優しくて大好き」
なんだかんだ言ってきっと相手をしてくれるから間違ったことは言っていない。
「俺が選んだ水着を着るなら良いぞ」
「えっ……王子様の隣に『女の私』が居たら困るんじゃ」
レオナさんの選ぶ水着なんて間違いなく女物だろう。しかもセクシーなものだろうが、問題はそれよりも国民の目じゃないのだろうか。
「王都からはだいぶ離れるが、王族所有のプライベートビーチがある。存分に『女のお前』でいてくれよ。これも必要ない」
とんとん、と胸を潰している布を服の上から叩かれる。
「えっ本当に……?」
この世界に来てから男装をし続けて、ずっとし続けるものだと思っていて。まさかこんな休暇を過ごせるとは。
「で、でもその……セクシーな水着なんでしょう?」
「俺しか見ないんだからむしろ裸でも良いくらいだろ?」
「いやいやいや、デザイン見せて下さいよ」
「それは着いてからのお楽しみで」
「ええ……」
どうしよう、むしろ裸の方がマシなんてレベルで際どい水着だったら。レオナさんなら十分有り得る。
想像して頬が熱くなった私に、ご機嫌なパリスグリーンの瞳の蕩けるような視線が注がれる。
「それより、海で他の雄共に女とバレることが無いようにな」
「あはは、大丈夫ですよ。『僕』なんかを女だと思うの、先輩くらいですから」
誰も私を女だとは思わない。ヘマもしない。隠し通せる。けれど。
「酷い女だな。俺はお前ほど可愛い雌を知らない」
こんなふうに甘く甘く囁かれて、甘い甘い口付けをされてしまうと、少しだけ泣きたくなる。
「レオナさん、好きです……。もっと、して下さい……」
「良い子だ、愛してるぜダーリン。しかし俺を悲しませたお仕置をしようかと思ったのに、求められたらお仕置にならねえな」
ご機嫌な溜め息の後、押し倒されてキスの雨が降る。柔らかな髪の毛がくすぐったい。
「酷くして下さい、レオナさん……」
「良いぜ、俺以外のことは考えられないくらいに優しく抱いてやる」