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    お題一泊二日
    もちこちゃんと会話形式で作っていた物語を転用、小説へリメイクしたものになります。

    #K暁デー

    遠方の依頼 あの夜からひと月、此れまで幾度も暁人と依頼を熟してきたが、それはすべて県内でのものだった。だが初めての事が舞い降りる。それは、県外での泊まり掛け依頼。
    「丁度切迫した依頼も来てないし、貴方達行ってきてくれる?」
    「いや急すぎるだろ!?」
     けろっとした表情で資料を渡してくる凛子に驚愕。なんせ出発は明日朝早くで最速一泊二日、驚かないわけがない。しかし暁人は至って冷静に、受け取った資料を読みながら「田舎の村……」と興味深そうにしている。
    「なんでも、その村に入った仲の良い親子が神隠しに遭うらしいのよ。だから、仲の良い親子として、潜入調査して欲しいの」
    「仲の良い親子っての随分強調するな?」
     自分も資料を読むと、家族三人で旅をしていてとある田舎の村に休憩の為泊った所、奥さんと子供が行方不明になり、事件として捜査されたが結局証拠どころか手掛かりも見つからず未解決。俺らに依頼を出してきたそうだ。
    「……こりゃ、早めに行かねぇとだな。いつ来た依頼だ」
    「丁度ひと月と少し前よ。……その時は貴方一人しか居なかったじゃない?手の打ちようが無いと判断して、こっちでは保留とさせてもらってたの」
    「そんなに、前の……事なんですか……」
     生存している可能性は絶望的な程前の依頼。それでも、父親はまだ探し続けているという。そのことに暁人の表情が曇った。俯く暁人の形の良い頭に手を乗せ、まだ希望はあると経験から言葉にする。
    「神隠しってのは時空を超えるタイプもある。まだ絶望するには早ぇよ」
    「そうね、なんにしても調査してみないと分からない。するにしても、親子でないと村に入れてすら貰えないの」
    「だから最低二人は必要だったんだな」
     仲の良いというワードは少し気になるが、希望がある以上出向かないわけにはいかない。
    「受けます、この依頼。ね、KK」
    「あぁ、すぐにでも準備に取り掛からねぇとな」

     電車を乗り継ぎ揺られて数時間、村の最寄り駅に到着。
    「ここからあと一時間歩きゃ村だ」
    「最寄り駅なのに一時間も歩くの!?」
     生まれも育ちも都会っ子な暁人はたいそう驚いている。そこへちょっとした悪戯心と共に追い打ちで、舗装された道も少ないし虫も多く野生動物だって飛び出してくる可能性があることを伝えると、意外にも目をキラキラさせて動物も出てくるの!?と興味津々になってしまった。そういやコイツ、動物すきだったな。居そうな野生動物やその危険等雑談をしながら着々と歩を進めていく。
     季節は春、風は気持ちよく空気もおいしいが、これだけ歩いてると流石に汗ばみ疲労も溜まってくる。そんな頃、やっと建物の屋根が見えてきた。
    「KKあれ!あの村だよね!」
     資料と照らし合わせて、確かにこの村だと確認。
    「ちょっと待て暁人」
     今にも乗り込んで行きそうな元気な相棒を呼び止め、ここでは仲の良い親子として振舞わなければならない事、旅をしてる体でいる事、互いの呼び方も考えなくてはならない事を説いた。
    「念を入れて本名じゃなく、お前のことはアキと呼ぶから忘れんなよ」
    「僕はアキだね、わかったよ。じゃあやっぱりKKのことは……父さんって呼ぶね」
     父さん、その言葉の響きに思考が停止した。
     KKの動きが止まったことに気づいた僕は、慣れてもらうことを名目にしてもう一度呼んでみると、「お、おぅ」と居心地が悪そうに返事を返してくる。
    「KK、慣れてもらわないと不審がられちゃうよ?」
    「わぁってるっつの……」
     後ろ頭を掻きながら、嬉恥ずかし困った困った、といった様子のKKを慣らすために何度も父さんと呼びかける。相棒であり年の離れた恋人でもある彼を父さん呼びするのは、実は僕も恥ずかしい。
    「おい、もうやめろって、慣れた慣れたからよ、」
    「ははっじゃあ潜入しようか!」
     二人並んで入村すると、若い第一村人が警戒するように僕達を見てきた。このような交渉の場合KKはちょっと威圧的なので、暗黙の了解で僕が担当する。
    「あ、すみません!この辺りに泊まれる場所はありませんか?」
    「……お前たち何者だ?」
     ものすごく怪しまれているのがビリビリと伝わってくる。
    「僕達親子で旅をしていまして、今夜だけでも泊まれる場所を探しているのですが」
    「親子で旅ですか!いいですねぇ!二人旅なんてさぞ仲がよろしいのでしょう!」
     僕が最後まで言い終わらないうちに、親子旅ときいて手のひらを返したように態度が百八十度変わった若者に少し圧倒されてしまう。「ま、まぁそれなりに……」と二人で照れながら肯定すると、警戒した事の謝罪をもらい、嬉々として村の宿に案内してくれた。
    「どうぞ一晩と言わず、疲れが癒えるまでお泊りになってください!後ほど昼食もお持ちしますので、ごゆっくり……」
     二十人ほどの村人と思われる人々にニコニコと快く迎え入れられながら、豪華な部屋へと通され二人きりになった。荷物を置き、用意されたお茶をいただいて、少し足を休めつついきなりとんとん拍子の間の違和感を話し合う。
    「話し方は古いってのに、見た目若いのしか居なかったな」
    「それ僕も思った。あとやたらと仲の良さを確認されたよね」
     資料の通り仲の良い親子が重要であり、最大に歓迎して引き止めどうするのか。
    「村の裏は森と山だったな確か。そこにいる妖怪どもにでも聞き込みからはじめっか」
    「動物たちも何か知ってるかもしれないよね。お昼ご飯が来る前にすぐ行ってみよう!」
     足も休まり、すぐに観光と称して森へと入って霊視をすると、タヌキやキツネの姿が浮かび上がる。動物たちを驚かせないように歩みを進めて行くと、広場にそびえたつ大樹が見えてきた。
    「すごい……こんなに大きな木初めて見た……」
    「いい御神木だな。周り見てみろ、木霊も沢山いるぞ」
     KKの言葉に広がる枝から目を離して見渡すと、茂みから数匹の木霊がこちらの様子を窺っていた。そのうちの一匹が警戒を解いたのか、僕の足元にすり寄ってくる。
    「あはは、かわいいな」
     しゃがんで優しくなでれば、他の木霊達も次々に撫でてもらいに集まってきた。
    「おーおー、モテモテだねぇ暁人君は」
     立ったまま僕らを見下ろし茶化してくる恋人に「嫉妬?」なんて反してみれば「するか」とあしらわれてしまった。わらわらと群がる木霊たちは一通り撫でられると、何かを話しかけて来ていることに気づく。何だろうと霊視で確認してみると、知らない匂いがする。怖くないからこの村の人じゃないよね。どこから来たの?とザワザワしていた。早速情報が得られるかもしれない。
    「僕たち村の外から来たんだよ。村の人たちが怖いのはどうして?」
     木霊達の村人の話を要約すると、明るいうちは滅多に来ないが、夜になると森の奥の山へと入って行くし、その山奥にはよくないものが住んでいるから行かない方がいいと教えてくれた。
    「確かに、あの山からは嫌な気配がするな……もし、仲の良い親子をそこへ連れて行っていたとしたら……ちっ」
    「捧げられてるかもしれない……?」
     最悪な状況を想像して青ざめる僕を、木霊達はぴっとりと身を寄せ合い、KKは「まぁまだ仮定だ、考えすぎるなよ」と慰めてくれる。
    「うん……ありがとう」
     さらに元気づけようとしてくれたのか、一匹の木霊が木の実を差し出してきた。元気になる木の実だから、困ったときに使ってと、危ないものじゃないと説明してくれた。
    「木霊の言うことだ、大丈夫だから貰っておけ」
    「わかった。ありがとう皆、おかげで僕はもう大丈夫だよ」
     受け取った木の実を大切にしまい込み、笑顔で立ち上がる。
    「KK、まだ時間もあるから、他の妖怪にも聞いてみよう!」
    「だな」
     聞き込み調査をした結果、依頼者の家族の生存は絶望的。山の奥には神とやらがおり、村人は仲の良い親子をその神に生贄として捧げていることが分かった。もっと早く来ていればと考えてしまうがもう遅く、悔しくてたまらない。そのことを吐露するとKKは、気持ちは痛いほどわかるし大事なことだ。と言って頭を撫でられる。
    「これ以上犠牲を出さないようオレらで止めるぞ」
    「……だね!後はどうやって止めたらいいかだ」
    「あの宿に他の客がいないあたり次の生贄はオレ達だ、それを利用する。仲良し親子を演じてりゃ問題ないだろう。」
    「生贄として神のところに連れて行ってもらってからが問題だよね。神を倒せるかどうか……」
    「まだ調査が必要だな。昼飯食ったら村の資料室でも探してみるぞ」
     次に必要な情報は神の正体。一歩進んだ所でとりあえず昼食の為に村へと帰ると、これまた豪華な料理と見慣れない村人が数人並んでいた。
    「この者たちは是非お二人の旅のお話を聞きたいと申しておりまして、宜しければ食事をご一緒してもよろしいでしょうか?」
     おそらく品定めだろうとアイコンタクトを取り、快諾。見せつけてやろう。絶品な食事を頂きながら、嘘と本当を交えつつ仲の良さをアピールする。
    「僕は新米社会人ですよ。今回は父の為に有給をとって旅に来ているんです」
    「随分と父親思いの息子さんだねぇ」
    「自慢の息子ですよ」
    「へへ、大好きな父なので……尊敬もしているんですよ!」
     依頼の為だと恥を捨て、赤くなる己の顔を無視してこれでもかとKKを見つめながら話す。すると予想外にもKKまで本気で顔を赤くしていた。
    「よせよ、照れんだろうが……」
    「本当に仲がいい親子で微笑ましいですよぉ」
    「社会人になってからあまり自慢できる場所がなかったので、つい話過ぎてしまいました」
     和気あいあいと話している間にあっという間に料理を平らげ、午後の調査の為の行動を開始する。
    「御馳走様でした!あの、この村に資料室のような場所はありますか?」
    「ありますが……なにゆえ?」
    「善くしていただいているこの村の歴史も知りたくなってしまって……駄目でしょうか?」
    「そういう事でしたら喜んで案内いたしますぞ」
     交渉は成功、怪しまれもせずにすんなりと資料室まで案内してもらった。帰るときは入口の係りの者に声をかけるようにと言われ二人きりになる。あまり広くはないが本棚だらけ本だらけ……。
    「オレはそれっぽいもん探しておくから、オマエは何気なく好きなもん読んでてくれ」
    「あ、うんわかった」
     この手の調べ物は得意であろうKKにまかせ、僕は邪魔にならない様それとなく背表紙を眺める。その中に、目を引くものを見つけた。レシピ本だ!開いてみれば昼食に出てきた料理も載っている。すぐさまスマホを取り出し、KKが気に入っていたもの、好きそうなものを片っ端からメモしていった。
    「……成程な」
    「!何かわかった?」
     メモをし尽くした本を戻してKKのそばへと寄ると、一緒に本をのぞき込む。
    「ここの記述だ、昔子供を生贄にした記録が載ってる。生贄の儀をやる理由としては、天災や厄災、飢饉から救ってもらいたくて神頼みをする為に執り行われるもんだ。だがな、神ってのは何処にでも居るもんじゃねぇ……古くから祀られてきたなんて話があるならまだしも、あの山にはそんな逸話は全く無い」
    「えっ……まさか、居もしない神に生贄を捧げていたかもしれないって……?」
    「察しがいいな、その通りだよ。……この初めての儀式以来暫くは執り行われていないな、だが、儀式自体を忘れるくらい経った後に飢饉が発生し、生贄の儀式を覚えていた村人が山の神を鎮めようとして同じように子供を捧げようとした。そのときに初めて神は姿を現し、親子を贄として寄越せと言っみたいだぜ」
    「現れた神様の特徴とか、弱点はない?」
    「さすがにそこまではな……つか、こんな資料よく捨てられずに残ってんな、見つかったらアウトだろ」
    「その資料はワシが管理しているので、他の村人達も勝手に処分はできんのだよ」
     資料に集中しすぎて気配にまったく気が付かなかった。突然の老人の声に肩が跳ねて振り向く。
    「漸く爺さんらしい爺さんが出てきたな。ここの村人達、言動はジジ臭いのに外見が不釣り合いに若くて不気味だったんだよ」
    「あやつらは若さという欲に取りつかれた愚か者たちだよ、嘆かわしい……いつか、この馬鹿げた儀式を止めてくれる人が来ないかと、待っていた甲斐があった……」
    「お爺さん、詳しく教えてください。儀式の事」
     突如現れた老人は、この村において唯一の味方だった。儀式についてはこうだ……。
     贄にされた子供は親との仲が良くなかったらしく、村人達は仲の良い親子を引き離すよりはとその子供を親から引き離し贄にした。居もしない神に捧げられさぞかし恨んだ事だろう。その恨み辛みにより、贄の子は神となった。
    「神の正体は確定だな。あとは弱点だが……」
    「弱点のう……一度、神の前で大喧嘩をした親子がいたが、その時はどうなったんだったか……そうじゃ、神が動揺し激怒して連れてきた村人を喰い、親子の方は村人に消されてしまったんだったかのぉ」
    「それだ。大喧嘩演じて動揺を誘ったところを討つ。決まってきたな」
    「……お前さんたち、ただの親子ではないな」
     流石にここまで根掘り葉掘り村の習慣を聞き出せば、バレもする。
    「あぁ、オレ達は親子じゃない、巷では祓い屋なんて呼ばれているよ。それに……オレらは親子よりも深い仲なんでな」
     文字通り魂でつながっている深い深い仲ではあるが、実際言葉にされると照れてしまう。
    「ふむ。やはり只者ではなかったか。ワシにできることがあれば言ってくれ。……頼みましたぞ」
    「ありがとうございます。必ず、解決してみせます」
     神の正体と弱点と把握した所で、ちょうどよく夕食の時間となっていた。老人と別れ、宿へ戻ると豪華な食事と数人の村人。また話を聞きたいらしいので、作戦の為にこれでもかと惚気てやる。
    「父さんは見ての通りちょっと強面で他の人からは怖がられることが多いんですけど、中身はとっても優しくて人の為にいくらでも頑張れる自慢の人なんです」
     昼には出されなかった酒の力も借りて、普段言えないことをペラペラと話す。ふとKKを見てみれば、また顔を赤くして片手で額を抑えていた。僕はそんな彼の様子を頬杖をつきながら眺め観て、無意識に言葉を零した。
    「ふふ、照れて可愛い……」
    「バッカ、オマエ……!」
     口角が上がってしまう。彼が愛おしくてたまらない。また本気で照れてくれてる。
    「褒められるの慣れてないもんね」
    「人前で話すような事じゃねぇだろうが……」
    「聞いてもらいたいんだからいいだろ?それに、照れてるところも観たいし、ね」
    「みせもんじゃねぇぞ」
    「いやぁ、本当に、随分と仲がよろしいことで……」
     心なしか村人の目がギラついているのを目の端で確認しつつ、本気で照れている珍しいKKを心行くまで堪能した。その後、大きな露天風呂を貸し切りで堪能して部屋へと戻る。
    「よく歩いて美味しいものをおなか一杯食べて、気持ちのいいお風呂で温まって、なんだか楽しいかも」
    「そうか?それならよかったよ」
    「ふふ、父さんが一緒だからだね」
    「オマエなぁ……さっきからそんな事ばかり言いやがって……」
     宿の中ではずっと村人の視線を感じている。恐らくずっと品定めをしているのだろうから、親子設定は忘れない。
    「ほら、寝るぞ」
     布団を二枚くっつけ、持参した大きなバスタオルを敷いた上へ先に寝転んでいるKKが、その腕の中に来いと誘ってくる。僕は素直にその腕の中へと潜り込んだ。KKの体温と程よい疲労感にすぐ眠気が襲って来てあくびが出る。
    「ふわぁ――……」
    「お休み暁人」
    「うん、おやすみ、けぇけ」

     翌朝、早くに起きて朝風呂を楽しんだ後ある一室の前を通ると、何やら村人の声が聞こえてきた。
    「まさか、あんな親子が来るとわの」
    「いい供物になるであろう。捧げるのはいつにするか」
    「親子が帰ると告げてきたのちの食事の後にでも……」
     KKと目を合わせ、静かにその場を去り部屋へと戻る。今日が勝負になりそうだ。朝食を頂いた後、散歩と称して森へと出かける。村では作戦会議なんてできない。
    「村人の奴ら、絶対生贄にしてやるって目をしてやがったぞ。アピールしまくったかいがあったな?」
    「まぁ、確かに……でもやっぱり恥ずかしいからそろそろ勘弁してほしいな、視線も痛いし」
    「それもそうだ。だがこれで奴らは着々と準備を進めてんだろう。決行時はオレらが帰ると言った後の食事……手口としては恐らく、料理に薬を盛って連れ去るんだろう」
    「その薬って、大丈夫なものなのかな」
    「昨日木霊からもらった実を食っとけば大丈夫だ。だから、飯前にオマエが食っとけ」
    「なんで僕だよ!KKかもしれないだろ!?」
    「大丈夫だ、先に狙われんのは確実にオマエだよ。元刑事の感舐めんな」
    「……KKに危険がないなら、いいけど」
    「決まりだな」
     それから僕たちは食事の前に英気を養う為、のんびりしてから宿へと戻った。
    「いやぁもう少しゆっくりしていくものとばかり……本当に夕方には帰ってしまうのですか」
    「息子の仕事もありますからね」
    「それでは仕方がない……残念です。昼食はいつもよりおもてなしさせていただきますので!ささ!たくさん飲んで食べてください!」
    「すみません、ありがとうございます!」
     座敷へと案内される間に隙を見て、僕は木霊の木の実を食べておく。席に着くと、続々と豪華絢爛な料理が運び込まれてきた。KKは何かしら理由をつけて酒だけは拒み、料理を楽しんでいる。僕は村人にやたらと飲めや食べろやとどんどん勧められ、言われるがままに美味しい料理をがっつりと頂く。
    「ほらほら!たくさん飲んで!食べてください!」
     だんだんと、村人の声が遠くなって行く。強いめまいと眠気……。
    「あ、あれ……」
    「おい、大丈夫か」
     酒の入ったコップを倒し、机にもたれるも支えきれずKKに抱えられる。
    「少々飲ませすぎましたかいのぉ」
     僕の記憶は、KKの口がまかせろと動いたところで途切れた。

     寝かされた状態で体が揺れる感覚に意識が浮上する。どうやらどこかへ運ばれているみたいだ。段々と意識がはっきりとしてくるのは、おそらく木霊の木の実のおかげだろう。目を開けてみても箱か何かに入れられているのか視界は真っ暗で、隙間から流れ込んでくる空気はあの森と同じような匂いがしてくる。体も少しずつ動くようになってきているのを確認していると、目的地に到着したのか揺れが収まり視界に光が差し込んできたので眠ったふりをする。
    「山神様!山神様!生贄をお持ちいたしました!今回は大変上物になります!どうぞお姿をお見せください!」
     薄く目を開けて様子をうかがうと村人の高らかな声に応えるように、沼から藻や水草が絡まり水気を帯びた大きな虎のような獣の姿の山神が姿を現した。
    『ほう……これは息子か』
    「左様でございます!父親の方は今他のものが連れて来る所でして……」
     僕をのぞき込んでくる山神から水滴や水草が落ちてくる。顔のある場所へ視線を移していくと、山神は目をばっちりと合わせてきて不気味な笑みを浮かべた。これが、山神……。緊張感からか目を逸らすことが出来ない中、村人が慌てて息を切らしながら走ってくる音が聞こえてきた。
    「どうした、父親は連れてこなかったのか」
    「そ、それが……姿がみえませんで……」
     その言葉を聞いた山神が、不機嫌そうにワナワナと体を震わせ始める。危険を予期して体を動かそうとしたとき、聞き覚えのありすぎる緊張感の無い声が響いた。
    「おーここか。まったくこんな所まで探させんじゃねぇよ」
     突然木々の間から姿を現した父親もとい、KKの姿にホッとしてしまう。
    「い、いつの間に!?いったい何処から!」
    『……お前がコイツの父親か……今からこの息子を嬲り殺してから喰ってやるからそこで見ておくといい……まずは目玉をくり抜いて』
     KKを見て不気味に歪んだ笑顔を作った山神は、僕へと狙いを定める、が。
    「あー勝手にしろ。清々すらぁ」
    『……は?』
    「は――、やっとお前とバイバイできる」
     木に寄りかかり高みの見物を決め込むKKの言動に、山神の動きが止まった。
    「逃げたと思ったけど、僕が殺されるところをわざわざ見に来たんだなアンタ」
     何とか上半身を起こし、父親をにらみつける。
    「最初はトンずらこいてやろうと思ったがよ、ホントに贄んなったか見ておかないと後がおっかなそうだったもんでなぁ」
    『え、は?ええ……』
     突然険悪になった僕たちをみてオロオロとし始めた山神を追い詰めるため、更に追撃をする。
    「アンタの事は怨んでも怨み足りないっ(いくら感謝しても感謝し足りない)妹が死んだのも、こんな身体になったのも全部アンタのせいだ!(麻里が生きているのも、戦える力を得たのも全部KKのおかげ)僕から逃げられると思うなよッ!死んだとしても何処までも追いかけて呪って(愛して)やるからなッッッ!」
     顔を真っ赤にして叫ぶ僕を見て、KKは怖いねぇと言いながらニヤリと笑った。どうやら真意は伝わったようだ。
    『な、仲が、悪いだって……!?』
     ワナワナと震えだした山神に、更なる追い打ちをかける。
    「言わせてもらうがなぁ!オレだってオマエのせいでこの世に留まる事になっちまったんだ(オマエのおかげでまた生を得ることが出来た)せっかく楽になれると思ったのにこのザマだ、もう失うもんは何もない筈のこの世に未練なんて更々ねぇのによ(ただ成仏していく筈だったのに未練が出来た、失いたくないものができた)、全部オマエのせいだよ(全部暁人のおかげだよ)」
    『ふ……ふざっ……ふざけるなぁッッ!』
     KKの言葉が終わった途端に激高した山神が繰り出してきた攻撃を、咄嗟に土のエーテルでガードする。
    「ひいいいいぃぃいい!!お助けを!お助けぇぇえ!!」
     暴れだした山神を恐れた村人たちは散り散りに逃げ出していく中、僕はガードをし続けて猛攻を耐え続ける。
    『くそ、くそッ、仲の悪い親子は持ってくるなと言っていたのに!』
     幾人も喰らってきたおかげなのか一撃が重く、今にもガードが割れてしまいそうだ。しかし、もう割れるといった寸での所で、横から飛んできたKKの風のエーテルが山神の動きを止めた。
    『あ?……なんで手をだす?この息子のことが嫌いなんだろう?どうしてだ』
     攻撃が止んだ隙に、僕は山神から静かに素早く離れてKKの近くに退避する。
    「……あの時、お前も父親に助けて欲しかったんだよな。仲が悪いわけじゃなかった、たまたま大喧嘩した場面を村人に見られて生贄なんかに選ばれちまった。違うか?」
    『なんで、なんでお前がその事を……ち、違う!違う違う!!』
     再び激高して繰り出された攻撃を、KKの前に飛び出しジャストガードで逸らす。
    「お前の父親から直接聞いた。あの時助けられなかったことを死んだ後も悔い続けているよ。そこで、ずっとな」
     KKか指さす先にゆらりと青い浮遊霊が現れ、大人の男の形になって行く。
    『は……?……ホントに、お父さん……?』
     山神はその霊に近づいていくにつれ、おどろおどろしい声から子供の声へと戻って行った。
    「……暁人、大丈夫か?」
    「うん、なんとかね」
     KKが儀式のときにいなかったのは、山神の父親と話をしていたからだったらしい。
    「ところでオマエ、さっきの」
    「さっき?」
    「……オレだってオマエを手放す気は更々ないからな?覚悟しておけよ?」
     何のことかと思えば、ばっちりと伝わっていた真の思いへの答えだったことに、顔が真っ赤になるのが自分でもわかってしまう。そんな僕を見ているKKはニヤニヤ笑っており。
    「人前であんな大胆な告白してくるなんて、暁人くんは肝っ玉が据わってるねぇ」
    「喧嘩のフリしてただけだろ!KKこそ人の事言えないじゃないか!」
    「おっ、ちゃんと伝わってたのか」
    「伝わってたよ」
     さらに笑みを深めるKKを、恨めし恥ずかしながら睨む。もうやけくそだ。
    「あちらさんも、ようやく伝わったようだな。ほら」
     KKが顎でさす方へ視線を向けると、もう山神ではなく元の子供の姿へと戻った男の子と、その父親が抱きしめあっている光景があった。
    「よかった……でも、あの子に殺されてしまった親子の怨みは……」
    「この沼の底に溜まってるだろうな……浄化してやろうぜ」
    「うん」
     酷く澱んだ沼の前に二人で並んで立ち、同時に同じ印を結び、浄化する。息の合ったその浄化は一度ですべてを祓い、沼から漸く解放された感嘆の声が聞こえてきた。
    「僕は、とんでもない事をしてしまったんですね……人を、何人も食べてしまった」
     山神だった子供は父親と手をつないだまま俯く。
    「そうだな。あの世で相応の罰を受けることになるんだろう。極楽には行けねぇな」
    「はい、でも……今は父も一緒です。だからしっかりと罰をうけます」
     覚悟を決めた目で僕たちを見上げた子には、山神の面影はかけらも残っていなかった。
    「これからも、親子仲よくね」
    「うんっ!お兄ちゃんも、お父さんと仲よくね!」
    「うん、ありがとう」
     父親の霊は深く頭をさげ、その子供は満面の笑みで大きく手を振り、光の粒を残して消えていった。
    「山神様を……あの子を救ってくれてありがとうな、お二人さん」
    「爺さんも、少しは楽になったか?」
    「それはもう……漸く、肩の荷が降りましたわい」
     軽くなったと言わんばかりに両肩をぐるぐるさせるお爺さんに、笑みが零れる。そこでふと、思い出したことを訊ねてみた。
    「若返っていた村の人たちはどうなるんですか?」
    「あやつらの若さは、山神様が食べた人間の寿命を分け与えていただけだからのう。今はもうワシのようにシワッシワのヨッボヨボになっとるわい」
     カッカッカッカと高らかに笑うお爺さんの表情に、曇りはもうなくなっている。
    「苦労するだろうな、若い体から一気に年相応の体になるのは」
    「やつらにゃ痛い目を見てもらいませんと……間接的とはいえ、人を殺めたことに変わりはないでの。然るべき対応はとるとも」
    「それならここに連絡すると良い。喜んで検挙しに来ると思うぜ」
     KKが渡したメモの内容はきっと、警察時代の仲間の連絡先だろう。
    「何から何まで助かったよ……落ち着いたら、改めてお礼をさせてくれんかの」
    「いえ、お礼はもう頂いていますよ。豪華なおもてなしとその料理のレシピで、ですが」
    「いいのかい?それで」
    「はい、充分です!」
     それから僕たちは老人に車を出してもらい下山、荷物をもってそのまま帰ることにした。

     数日後
    「お、暁人これ見てみろ」
    「ん?なに?」
     KKの差し出すスマホをくっついてのぞき込むと、この前の村の記事が書かれていた。
    「丸く収まったみたいで本当に良かったね、にしても濃い一泊二日だったなぁ」
    「もっとゆっくりしても良かったかもしれねぇなぁ」
    「イチャついてるところ悪いけど、エドから伝言よ」
     唐突に表れた凛子さんがボイスレコーダーを投げてよこしてくる。KKは難なくキャッチして再生ボタンを押した。
    「僕だ。今回の依頼については無事解決したようで感謝しているよ。依頼人も悔やんではいたが今は前向きに生きて行く事にしたらしい。そこは心配ない。さて、君たちに今後お願いしたいことがある。今回のように遠方での出張捜査だ。ここの所何件か依頼が来ていてね、少しずつでいいから頼みたい。」
    「……ゆっくりしていられなさそうだね」
    「もっともっとゆっくりしてくりゃ良かったなぁ……」
    「今回の報告書、早く出してちょうだいね」
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