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    *岐生*

    @jecceeelle

    成人済白鬼左右固定の文字書き
    何かポイピクに置いてけたらって思って作ったけどそんなに頻度は高くないと思います。
    支部とツイがメインです。

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    *岐生*

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    人様にそろっとあげる為のお題のボツ……長くってぇ……忘れないうちに供養。

    #白鬼
    whiteGhost

    すれ違えども片恋、狂恋、恋衣『ごめん寝てた』

    『今から中華天国の集まりがあって暫く帰れなくて。埋め合わせはするから』

    『今度の納品分は桃タロー君に預けてる』

    『スケジュール空けてくれてたんだろ、こんな時位しか休めないんだからたまにはゆっくりしろよ』

    「…………言い出したのは……貴方のくせに……」

    メールボックスにリスト分けされたその簡素な本文を一つ開いては眺め、閉じてまた一つ開いては眺めた鬼灯はベッドに寝転びながらはふ、と小さな溜息を吐いていた。


    ■すれ違えども片恋、狂恋、恋衣■


    ふんわりと、何気無く始まった付き合いだった。
    三月と前、酒に酔っていた白澤と桃太郎を衆合地獄の居酒屋で発見した鬼灯が仕方無しに介抱した時だ。常なら桃太郎の方は泥酔までに至らないのにその日は羽目を外し過ぎたのか起き上がる事も出来ず、ならば白澤を捨て置いて桃太郎だけを桃源郷に送るかと思ったのだが。譫言で桃太郎が『白澤様、大丈夫ですか、飲み過ぎですよ』だなんて宣うものだから仕方無く両者を担ぎ上げて極楽満月まで送り届けた。
    桃太郎を倉庫のベッドへ、白澤も寝室へと投げ入れた時に目を覚ました彼が、離れようとする鬼灯の袖を引っ張り言ったのだ。

    「付き合お、お試しでいーよ。きっと楽しーよ」

    「─────、」

    明確な言葉は皆無だ。彼が何故己に対してそんな発言をしたのか。そもそも相手が己だと、天敵だと分かって言っているのか。

    「鬼灯ですよ、貴方の大嫌いな」

    「分かって言ってるよお」

    「付き合いたいんですか、私と」

    「うん、……付き合お」

    二へ、と笑んだ彼にただ「いいですよ」と返した。それが始まりだ。
    好いているのは己だけだと思っていた。だから単純に嬉しかった。好きだと言われた訳では無いのに後先考える余地も無い程すぐに肯定を返したのだが、それを今は悔いている。
    次の日には忘れているだろうと思っていたけれど、覚えていたのかバツが悪そうに「今更取り消すなよ」と一通のメールが届いた時にはこれが幸福と言うものかと思っていたのに。
    ただ、それだけで。

    配達や店以外で顔を合わせる事はそうそう無く、ただ定期的に届くメールに一喜一憂する日々。気付けば簡素なやり取りが三月も続いていた。
    女人を相手する彼を見過ぎていたのかも知れない。女人相手なら気を使い優しく接し、多少の我儘も受け入れる事は容易いのだろう。己相手には至極さっぱりとしたもので、いや、喧嘩がなくなった分冷たい、興味を失ったのではとすら感じてしまう。

    それなりに労ってくれはするし無理難題を押し付ける事も無いが、手を繋ぐ事すら無い現状では付き合うとはどういう事なのか全く分からなくなってしまった。付き合っているのに、まるで今も片恋をしているよう。今日明日スケジュールを空けたのに反故にされてしまえば尚更で、実は夢だったのでは無いかと何度も思い彼から届くメールを見て確認してしまう。

    「………メールだけじゃ…………これだけじゃ、何も埋まらないですよ」

    パタリ、と閉じた携帯を手に天を仰いだ。三月と経てば恋仲にあるカップルはとっくに互いの温もりを与え合う程近い距離まで発展する時間経過。感じていた幸福はどこへやら、すっかり掬い上げた掌から零れ落ちてしまっていた。
    再び開いた携帯のキーパッドを見つめ、他の何よりも覚えている番号を押し眺める。
    時間は深夜一時。まだ中華天国から帰還していない彼は今、何をしているだろうか。
    番号を眺めながらうつらうつらと瞼が閉じていく。

    出来れば夢の中だけでも。
    その温もりが感じられたら良いのに。


    ※※※※※※※※※※


    「………白澤よ、いい加減帰らんか」

    「帰る、帰るけど……」

    「鬱陶しい奴だ。天帝から何のお咎めもなかったのだろう。後は何の問題があるんだ」

    中華天国は深夜も明るい。
    瞬く星や輝く月が近い為だが、年中暇を持て余している神々がそこら中で酒盛りをしたり音楽を奏でたりと、長閑だが喧しい。
    小高い山頂でのんびりと真下の池に向かって釣りをしている仙人の傍ら、酒瓶を転がして眉をひそめた鳳凰が殊更鬱陶しそうに白澤を見やった。

    「無事付き合えて、天帝にも形だけでも結婚したい相手がいて、それが補佐官殿だと伝えて許可が降りたのなら後は何なんだ。ここでうだうだ時間を潰すより補佐官殿の所へ行けばいいのに」

    それはそうなんだけど、と白澤は口篭る。

    長年拗らせた本命、鬼灯とある日突然恋仲になれた。
    酒に酔った勢いだった。意識ははっきりとしていて、一蹴されれば次の日には忘れたフリをするつもりだったのに、鬼灯はあっさりと「いいですよ」と返して来たのだ。
    天にも登る気持ちとはこの事かと思った次の日には色んな手段を考え始めた。冗談だったと思われないよう連絡をし、引かれないように一定の距離を取る。喧嘩はせず、忙しい彼の邪魔にならないように労いもした。
    何か言いた気な雰囲気を醸し出す鬼灯の心情は出来れば今は知りたくなくて、会話もあまり弾まなかったかも知れない。
    無理矢理会う時間をこじ空けてくれただろうが先ずは天帝に結婚の確約を申し出て逃げてしまわないよう先手を打ったのが今日だ。どうしても離したくない相手だからこそ、別れ話の為の休暇だったら怖くて約束を反故にしてしまった。でもこれでやっと、布石は揃えられたと思っていたけれど。

    「やっぱり会うのがコワイ………」

    「ここまでしといて別れましょうと言われるかも知れんしなぁ」

    にらにらと面白そうに笑い酒をかっ食らう麒麟をぎっと睨み付けるが、図星を刺されて白澤は口篭る。三月の間紳士的にしてきたつもりだが、やはりおままごとのようにしか思われていないかも知れないと思うと立ち直れない。
    好きだったのだ。もうこれ以上無い程に好きで、触れたくて、抱きたくて仕方無い相手は鬼灯以外考えられない。

    「大枚はたいて指輪も買った方が良いかな……」

    「知らん勝手に買え。………白澤、電話が鳴ってないか」

    「………えっ、あ」

    地面に置いたままにしていた携帯が震えている。ディスプレイに表示されているのは、正に今想いを馳せていた鬼灯の番号だ。

    「…………、はー。よし、………どうした?」

    深呼吸をして気持ちを切り替えて、落ち着いた声で通話する。何カッコつけてるんだ、いやアレで紳士的に振舞ってるつもりらしいとコソコソ話す二人から離れ、白澤は沈黙が続く鬼灯との通話に首を傾げた。

    「………何?聞こえてる?」

    『…………は………た……さん……?』

    いつもとは違う、ぼんやりとした声。もしかすると寝ぼけているのかも知れない。可愛い。また違う一面を知れた、と心の中だけで思う。

    『………ゆめ……』

    「夢?夢じゃないけど………」

    『こ、……かい、して、ます……』

    己の返答を無視して話す鬼灯のその言葉にドクリと胸が高鳴った。後悔していると言った、その真意は今は一つしか思い浮かばない。
    やはり別れようと言う事か、と。

    「…………ほお………」

    『……こんな、に………辛い………寂し、なら………付き合わ、なけ、れば………知らずに済んだ……の、に……』

    「─────、え………」

    鬼灯の独白は、白澤に確かに届いた。

    胸の高鳴りが一層増していく。でもそれは氷点下へ下がるものでも、絶望等でも無い。
    萎れてしまいそうだった花が、今この瞬間に満開になったような奇跡を感じていた。

    「…………寂しい、の?」

    『………は………』

    はい、と聞こえた鬼灯のか細い声は、それきりになりすぐにすうすうと寝息が聞こえて来る。

    会いたいと、思ってくれていた。
    己だけが鬼灯を想っていたのでは無く、酔った勢いだったのに肯定で返した鬼灯の真意は最初から嘘偽りも、ままごとでも無かったのだ。

    「…………っ、ごめん二人共!帰るから!!」

    二人を振り返る事も無く、白澤は地を蹴って転変する。

    己の気持ちにしか目を向けなかった。そんな事よりも鬼灯の気持ちを確認する方が先で、何より大事な事だったのに。

    離したくない。離れたくない。
    やっと掴みかけた己の幸せは、鬼灯が握っているのだから。


    ※※※※※※※※※※※


    「…………夢、じゃ………?」

    白澤の怒声ではっと意識が戻った。
    鬼灯は暗くなった携帯の画面を凝視し、愕然とする。耳に残っているのは白澤の叫んだ声と、その後切れた通話終了を告げる無機質な音だ。

    今、己は何を喋っていただろうか。
    確認するように通話履歴を開くと、やはりそこには先程まで白澤と通話をしていた形跡が残っている。時間にして数十秒だが、何を口走ったかは思い出せずただ動揺する事しか出来ない。
    何たる失態だ、と思い頭を抱え込みそうになった次の瞬間には、目の前に舞い降りて来た白い獣の姿をその目に捉えてしまっていた。

    「────…………っ!」

    「あっごめ、いきなり入っちゃって……っ」

    ふわりと転変を解き人型を象っていく白澤が、焦った表情を隠す事無く床に足を着けた。
    もう終わりだ、この付き合いは片恋のまま終わる。鬼灯の思考はそれだけに埋まり聞きたくないとばかりに狭いベッドを後退った。

    「……もしかして起こした?ごめん」

    「………そうですね。遅い時間ですから、今日はもうお帰り下さい」

    「聞いて欲しい話があるんだ」

    「いやです」

    少し上がった息を整えながら近付く白澤の、その空気に触れたくない。どうせ終わりを迎えるのなら、覚悟をしてからにして欲しい。
    乱れる襦袢も布団も今はどうでもよく、そっと敷き布団に手を下ろした白澤に向かって枕を投げつけた。

    「鬼灯、」

    今更名前を呼ぶな。
    女々しく縋ってしまいそうになる。
    今から彼の恋仲にあった十把一絡げの一人になってしまうと言うのに、新たな思い出を作らないで欲しかった。

    けれど。


    「僕、結婚したいんだ。……お前と」

    「……………………………は、?」


    伸ばされた腕が布団ごと鬼灯の身体を抱き込み、そんな現実味の無い言葉が吐息と共に吐き出された。
    この神は、何を言っているのか。

    「………貴方、頭沸いたんですか。これ以上お遊びには付き合いきれません」

    「うん、ごめん。何か色々裏目に出た。お前の気持ちを聞く方が……いや、僕の本心を知って貰う方が先だったのに」

    ぎゅう、と強い力で抱き締められる。ずっと期待していたぬくもりが、布団越しにほのかに伝わって来た。

    「遊びじゃない。ずっと好きだった。大切にしたかっただけで、どうすればお前が手に入るかしか考えが及ばなかった」

    だから仕事の邪魔をしないように、邪険にされないように振る舞った。密かに天帝に報告して、もう後戻りが出来ないように。好いてはいないだろう鬼灯がいつか、諦めて己に絆されてくれたら、と。

    「…………なん、ですか、それ………」

    白澤の懺悔に、鬼灯の身体から力が抜けていく。今の今まで悩み抜いて来た時間をどうしてくれる、と思うと同時に。

    やっと気持ちが重なった歓びが、胸の中を埋め尽くしていた。

    「好き。大好き。鬼灯、ねえ、お前は?」


    そんなの、ずるい。


    もう、答えは知っているくせに。



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