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    hypnorittun

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    hypnorittun

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    ・α×αの地獄のオメガバースです。
    ・幻太郎と自我の強い厄介モブ女ががっつり絡みますので、幻モブ♀が苦手な方はご注意ください。(幻からの恋愛感情はありません)
    ・全年齢レベルですが性行為を匂わせる描写が多々あります。
    ・ハピエンです。

    #帝幻
    imperialFantasy
    #サンプル
    sample

    Strive Against the Fate(無配サンプル) 脈絡なくはじまった関係は、終わりもまた前触れなく訪れるのだろう。瞼をひらけば高く陽が昇っているように、睦み合う夜は知らず過ぎ去っていくのかもしれない。すこし日に焼けた厚い胸がしずかに上下するのを見つめるたび、そんなことを考える。
     ずいぶん無茶をさせられたせいか下肢には痺れるような怠さが残っていて、半分起こした身体をふたたび布団に沈めた。もう半日ほど何も食べておらず空腹はとっくに限界を迎えている。けれど、このやわらかなぬくもりから這い出る気には到底なれず、肩まで布団をかけなおした。隣を見遣ればいかにも幸せそうな寝顔が目に入る。
     夜が更けるまでじっとりと熱く肌を重ねて、幾度も絶頂を迎えて、最後に俺のなかで果てたあと、帝統は溶け落ちるようにこてんと眠ってしまった。ピロートークに興じる間もなく寝息が聞こえて、つい笑ってしまったっけ。真っ暗な夜においていかれたような寂しさと、尽き果てるほど夢中で求められた充足感のなかで眠りに落ちたあの心地よさ。身体の芯まで沁み入るような満ち足りた時間に、いつまでも浸っていたくなるのは贅沢だろうか。
    「んん……」
     藍色の髪をそっとすくったその瞬間、帝統は小さく喉を鳴らした。長いまつげがぴくりと動いて鮮やかな紫が焦らすように現れる。焦点の定まらない瞳に見つめられ「おはよう」と囁けば、彼はむにゃむにゃと曖昧に口を動かした。
    「おはよ」
     あくびまじりにそう言って、ぱちぱちまばたきをする。頭を撫でれば飼い猫よろしく目を細め、眠たげに頬擦りしてくるのが可愛くて、ついついかまいたくなってしまう。子ども扱いされるのは嫌がるくせに、こういうときはすっかり油断した顔で素直に甘えてくるものだから、こちらも自然と心を許してしまうのだ。
    「げんたろぉ……」
    「なぁに」
    「ん……」
     ちいさく身じろぎをして、帝統の太い腕が胸にのる。そのまま抱き寄せられれば、湿った吐息が耳にかかった。
    「ねみぃ……」
    「今日はおつとめはいいんですか?」
    「あとでいく」
    「もう昼近いですよ」
    「んー……」
    「まだ物足りませんか?」
    「ん、もっかいする……」
    「なら、ちゃんと起きてから誘ってください」
     鼻をちょんとつまみながらそう返してやると、帝統はぱちりとまぶたをひらいて、何度か瞬いたあと「いま起きた」といたずらっぽく笑う。
    「ちゅーしていい?」
     さきほどより幾分かはっきりした声色で問いかけられ、許可しましょうと頷けば、戯れのようにやさしくくちびるを合わせられる。満足げに目を細めながらそっと肩を押してくる手のひらがやけにあたたかい。幼い体温に包まれながら見る白昼夢は、溺れてしまいたいほど優しかった。

     重い身体をようやく起こす頃には、時計の針はもうすっかりてっぺんを過ぎていた。先にシャワーを浴びてから軽い昼食の仕度をしていると、帝統はあくびをしながら上裸で現れる。片方だけ長い髪の先からぽたぽた垂れてくる水をバスタオルで拭うと、油断しきった表情で「ありがとなぁ」と笑う。
    「まったく……自分で拭いてから出てきてくださいな」
    「だって幻太郎がやってくれんだろ?」
    「小生はあなたの執事ではないんですよ」
    「執事にこんなことさせねーわ」
     どことなく引っかかる物言い。まるで覚えのありそうな言い草がなんだか癪に触ったので、腹いせで頭をぐしゃぐしゃにしてやった。なにすんだよぉ、と情けなく上がる声を無視して「ごはん食べましょう」と促すと、彼は簡単にころっと笑顔を見せる。
    「昼メシなに?」
    「残念ながらソーセージと目玉焼きと漬物ですよ」
    「十分じゃん。俺ごはん大盛りな!」
     言いながら当然のようにどかっと腰掛ける姿は、憎たらしくもあり愛らしくもある。日々自力で生き抜くことの難しさを誰よりも知っているはずなのに、施されることを疑わないその姿勢は、彼自身の性質ゆえか、それとも。
     いただきます、と勢いよく手を合わせて、くちびるの端に米粒をくっつけながらリスみたいに頬を膨らませる帝統。裏表のない真っ直ぐな男に見えて、その内側にはまだまだ知らないことが隠れているのだろう。何もかも知りたいと思う好奇心と同じくらい、彼の人生に過度に踏み込むことを恐れる気持ちもある。それは同時に、本当の俺を見せられない罪悪感の表れなのかもしれない。
     いつか夢野幻太郎ではない俺自身として、帝統ともう一度心を通わせたいと思うけれど、そのいつかがやってくる保証はどこにもない。俺が選んでしまうのは、彼ではない他の誰かかもしれないのだから。
    「げんたろー?」
     不意に顔を覗き込まれ、表情に出ていたかと慌てて取り繕う。どうしたのかと聞けば「おかわり!」と元気よく茶碗を差し出された。勘づかれていないことに安堵しつつ、食べ過ぎですよ、なんて笑いながら、ほかほかのご飯をいっぱいに盛って返してやる。
    「お前が食わなさすぎ。すぐへろへろになるんだから、たくさん食っといた方がいいって」
    「『素寒貧でよぉ〜三日何も食べてねぇんだよぉ〜』なぁんて情けなく泣きついてくるあなたがよく言えますねぇ」
    「似てねぇよ!」
     渾身のモノマネに噛みついてくる帝統をひらりとかわして、空いた食器を下げに台所へ。食器棚から目当てのものを取り出し、グラスにたっぷりを水を注いで戻ると、帝統は白米をかきこみながら不思議そうに首を傾げた。
    「あれ、今日どっか出掛けんのか?」
     視線の先には手に持ったピルケース。外出するときにだけ飲む、α用の抑制剤だ。いかにも鈍そうに見えて案外目敏い。
    「担当さんと打ち合わせがありまして」
    「へぇ。前に言ってた連載ってやつ?」
    「いえ、今日は新作の話です。次回作はミステリーの予定なんですよ」
     興味はないだろうと思いながらも話のタネにそう言うと、帝統はなぜだか「覚えとくわ」と相槌を打った。それから所在なげに目を逸らして、ごちそうさん、と呟きながら食器を片付けに台所へ向かう。たったそれだけの他愛無いやりとりだけれど、なんとなく気まずくて、帝統の目を盗むように小さなカプセルを口に含み、冷えた水で一気に飲み干した。
    「それさ」
     不意に背後から声を掛けられ、思わず肩が跳ねる。無造作に詰め込まれたカプセルを見て、珍しく何か言い淀んでいた。
    「帝統も飲んでおきますか?」
    「……おー、もらうわ。ありがとな」
     ごつごつした指がそっと薬をつまんで舌の上に乗せる。残った水を手渡せば、帝統はひとくちでコップを空にして、ごくりと喉仏を動かした。ほんの小さなカプセルが帝統のなかに消えていくたび、言いようのない虚しさが胸をよぎる。同じαである帝統とのこんな関係に、意味も未来もないのだと嘲笑われているような気がして。
     人は生まれながらに「運命のつがい」を決められているらしい。そしてそれは、α性とΩ性の間でしか生じ得ない特別な繋がりだ。運命のつがいに出会ったその瞬間、本能的に惹かれ合い結ばれるのだと、御伽噺のように語られている。恋愛ドラマの流行は五年に一度くらいの周期で「αとΩの運命の恋」に焦点が当たり、今はちょうどそんな時期に当たる。世の中の大多数を占めるβの人々からすれば夢のような美しい恋愛模様に映るのかもしれないけれど、当事者にとっては全くもって喜ばしい話ではない。
     いつか突然、前触れなく現れる運命のつがいとやらに、何もかも塗り替えられる恐怖。自分の意思で歩いてきた人生に、突如として侵入してくる誰かを、本能が許してしまう。理性でどうにもならないその瞬間が、ただ怖い。隣で鼻歌を口ずさむ帝統を愛おしく思うこの気持ちまで奪われるくらいなら、運命なんてクソ食らえだ。
    「な、今日勝ったらさ、寿司でも食いに行こうぜ!」
    「……いいですね。期待せずに待っていますよ」
     期待はしろよ! と不服そうに声を荒げる帝統に心からの笑みを返す。こうして傍にいられる時間を、今だけのものとして、大切に噛みしめておくしかないのだろうか。


    「では先生、締切までよろしくお願いします」
    「はい。面白い物語にできるよう頑張りますね」
     新作の打ち合わせは存外あっさりまとまって終わった。トリックがやや単純すぎるのではと懸念していたものの、全体の構成と犯行動機の描き方に重点を置くという方針で合意が取れたので、あとは細かく詰めていくだけだ。もちろん作家としてはここからが本番ではあるものの、まずは一歩前進といったところ。それなりに連載を抱えているのでこの時点で躓くとかなりスケジュールが苦しくなる。とにかくほっと安堵していると、資料をまとめ始めていた担当氏が思い出したように口を開いた。
    「そういえば、今、先生にぜひ恋愛小説を書いて頂きたいと編集部で話しているんですよ」
    「恋愛もの……ですか」
    「えぇ。実はテレビ局との連携の話が持ち上がっていて、夢野先生原作の恋愛ドラマをぜひ作りたいと」
    「なるほど……」
     恋愛もの、か。ドラマ化が前提となれば、かなり大衆向けに寄せる必要がありそうだ。食い扶持としては悪くない提案だけれど、自由に書けるかどうかはちょっと怪しい。とはいえ、あくまで話題に上がっているレベルなら、まだ渋る段階でもないだろう。
    「……どうしても大衆向けになってしまうので、先生の書きたいものとはズレてしまうかもしれませんが」
    「あぁ、それは構いませんよ。書きたいものはいつも書かせてもらっていますから。ちなみに、内容の希望などは?」
    「えぇっと……やっぱり今の流行りだとαとΩの運命の恋、といったところでしょうか」
     ぴくりと眉が動いてしまったのを見とめたのだろう。まだ具体的な話はしていませんが、と彼は慌てた様子で付け加えた。α性であることは特段公表していないが、作家や音楽家、スポーツ選手など、こういった特殊な職業の人間にα性は多い。何かを察したらしく気まずそうにコーヒーを飲み干す彼に「考えておきます」と笑顔で告げると、ほっとした顔で「また話が進んだらお伝えします」と頭を下げた。
     打ち合わせを終え、新作のプロットを練りながら追加で頼んだコーヒーも飲み終え、陽が暮れるのに合わせて家路につく。シブヤの街はすっかり夜の匂いがして、ずいぶんな賑わいを見せていた。スーパーに寄って帰ろうか、と考えて、帝統が「勝ったら寿司でも」と言っていたことをふと思い出す。あの男は結局勝ったのだろうか。何も連絡がないということは、十中八九負けている。どうせ「メシ食わせてくれぇ〜」と泣きついてくるのなら、結局食材のストックは必要か。勝ったら勝ったで、また明日の分にすればいい。
     どこか浮き立つような気分で、人混みの中を流れていく。いつもの人間観察もすっかり忘れて、脳裏に浮かぶのは半べそで足元にすがってくるギャンブル馬鹿の顔ばかり。今日はどんな風に揶揄ってやろうか。そんなことばかり考えながら歩いていると、スーツ姿の女性とすれ違ったその瞬間、不意に強烈な甘い香りが鼻腔をついた。
     ぐらりと大きく脳が揺れる。息も出来ないほどの匂いに心臓を押し潰され、全身の血が瞬時に沸点に達した。足元がふらつく。視界がぼやける。経験したことのない衝撃は、Ωのヒートに充てられたあの感覚にどこか似ている。
     崩れ落ちるような音がして振り向けば、すれ違ったばかりの女性が道端に膝をついて倒れていた。助け起こそうと近づいたそのとき、長い髪の隙間から覗くうなじに目を奪われる。ぷつん、と血管の切れる音がした。
     噛みたい、噛みたい、噛みたい。
     抑え込んでいるはずのαの本能がけたたましく叫ぶ。操られたように、顔も名前も知らないその女に手を伸ばしていた。歯止めが効かない。今にも理性の切れそうな自分がただただ恐ろしい。少なくとも俺にとって、目の前にいる女がただのΩではないことだけはわかる。抑制剤すら効かないこの強烈な衝動。まさか。
     嫌な予感が胸を支配して、どうにもできず立ちすくんでいると、通行人に声を掛けられていた彼女が勢いよくこちらを振り向いた。逃げる間もなく、彼女は苦しげな呼吸のまま這うように足元にすがってくる。そして、恍惚に溶けた表情で言った。
    「嬉しい……っ! 夢野先生が運命のつがいだったなんて……!」
     夕暮れどきのシブヤの街にざわめきが広がる。口々に噂する者、カメラを構える者、好奇に満ちた野次馬の視線が一身に突き刺さる。
    「……期待に添えず申し訳ありませんが、人違いかと」
    「嘘! どうしてそんなこと言うの 先生だってわかってるでしょ……」
     努めて平静を装いながらそう突き放すと、彼女は怒ったような悲しむような、寂しげな絶望を顔に浮かべて甲高く喚いた。周囲の人々から見れば、過激なファンが街の有名人に行き過ぎたアプローチをしているようにも見えるかもしれない。現に、くすくすと嘲るような笑い声も響き始めた。
     自分もそう切り捨てられたらどんなによかっただろう。でも今この瞬間、間違いなくこの世で俺一人だけが、目の前にいるこの女性が甘く熟した果実のように見えている。
     こんなものが運命だと言うなら、運命ってやつはなんて醜くて穢らわしいんだろう。獣のような欲望が込み上げて全身を締めつける。必死に理性を繋ぎ止めてまで耐えなければならないこれが、美しい感情なんかであるものか。
    「ねぇ、お願い……! こんなに苦しいのに、どうしてなかったことにするの もうあたしには絶対先生しかいないの……!」
     切羽詰まった彼女の様子に、只事ではないと感じ始めたのか、嘲笑していた野次馬たちもどよめき始める。人気商売をしている以上、冷たくあしらって逃げれば悪評が立つし、かと言ってこの場に留まって騒ぎを広げるわけにもいかない。
    「……わかりました。場所を移して少し話をしましょう」
     苦渋の決断ではあったが、そう言って彼女を立ち上がらせ、通りかかったタクシーを急いで止める。人々の視線を受けながら彼女を奥の座席に押し込み、適当に走ってもらうよう運転手に促して早々に逃げ去った。荒い呼吸を繰り返す彼女からできる限り距離を取って、窓の外を見つめながら無言でやり過ごす。そうしている間も、甘すぎる匂いに熱を煽られて、ぐらぐらと理性を揺さぶられ続ける。このままだとおかしくなってしまいそうだ。今すぐにでもここから逃げ出したかった。
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    ・全年齢レベルですが性行為を匂わせる描写が多々あります。
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    Strive Against the Fate(無配サンプル) 脈絡なくはじまった関係は、終わりもまた前触れなく訪れるのだろう。瞼をひらけば高く陽が昇っているように、睦み合う夜は知らず過ぎ去っていくのかもしれない。すこし日に焼けた厚い胸がしずかに上下するのを見つめるたび、そんなことを考える。
     ずいぶん無茶をさせられたせいか下肢には痺れるような怠さが残っていて、半分起こした身体をふたたび布団に沈めた。もう半日ほど何も食べておらず空腹はとっくに限界を迎えている。けれど、このやわらかなぬくもりから這い出る気には到底なれず、肩まで布団をかけなおした。隣を見遣ればいかにも幸せそうな寝顔が目に入る。
     夜が更けるまでじっとりと熱く肌を重ねて、幾度も絶頂を迎えて、最後に俺のなかで果てたあと、帝統は溶け落ちるようにこてんと眠ってしまった。ピロートークに興じる間もなく寝息が聞こえて、つい笑ってしまったっけ。真っ暗な夜においていかれたような寂しさと、尽き果てるほど夢中で求められた充足感のなかで眠りに落ちたあの心地よさ。身体の芯まで沁み入るような満ち足りた時間に、いつまでも浸っていたくなるのは贅沢だろうか。
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