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    ユウキ

    @mahoyakuaka
    晶フィが好きな人です。
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    ユウキ

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    晶くんオンリー開催おめでとうございました!掲載していた新作の晶フィ小説です。

    展示①恋をする晶くんの話です。
    展示②はこちら→https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=851921&TD=5455233

    感想とか頂けたらとっても嬉しいです!
    お気軽にどうぞ🥳
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    ##晶フィ

    出逢ってくれてありがとう いつからだろう、彼の姿を目で追い掛けるようになったのは。彼のことを、もっと知りたいと思うようになったのは。

    ****

     とある日の穏やかな昼下がり。せっかくいい天気だからと外へ散歩に出掛けてみれば、そこで偶然フィガロに会った。嬉しくて、思わず小走りで彼の元へ駆け寄る。
    「! フィガロ」
    「ああ、賢者様。どうしたの、なんだか嬉しそうだね。何かいいことでもあった?」
     優しく笑ってそう問う彼に、真剣な顔をして「こうしてあなたに会えたことです」なんて伝えたらどんな顔をするんだろう。ちょっとした興味と好奇心が沸いて、けれど結局その言葉は口に出来ないまま終わった。
    「あはは、そう見えます?」
    「見える見える。どうしたの賢者様、もしかして俺に会えて嬉しいとか?」
    「へっ!?」
     曖昧に笑ってやり過ごそうとした矢先にそんなことを言われてどきりと心臓が跳ねる。なにか言わなくちゃと思うのに、加速する焦りと恥ずかしさが瞬く間に胸の中を支配していくだけで何も言葉が出てこない。
    「嬉しいなぁ、そんな風に思ってくれて」
    「っ、か、からかわないでください……っ!」
    「ごめんごめん」
     からかうように微笑みを向けてくる彼は、今日もまた遠慮なんて知らずに俺の心に土足でずかずかと入り込んでくる。その度に、俺がどんな気持ちになっているかも知らないで。
    「好きだよ、きみのそういうところ」
     ほら、またそうやって気軽に好きだなんて口にする。いつだって心を乱されてるのは俺の方で、その度に向こうは俺のことなんて意識すらしていないのだと思い知らされる。何気なく放つ「好き」の二文字に俺がいつも振り回されていることだってきっと彼は知らない、気付いてない。
     いっそ笑えてしまうくらいに、不毛な恋をしていた。

    ****

    「……好き、か」
     さっきまでの出来事を思い出しながら自室で一人物思いに耽る。
     きみを籠絡したいなんて言うものだから正直最初は警戒していた。だってそうだろう、出会って間もない俺に『言いなりにさせるには恋をさせるのが手っ取り早い』なんて言ってくるような人なのだから。
     だけど、一緒に過ごしていく中で案外不器用だったり実は寂しがりやだったりというような一面を一つずつ知ったら、警戒心が薄れるどころか、なんだか放っておけない人だなと思うようになって。そうして彼のことを気に掛けているうちに、気付けばそこには後戻り出来ない程の確かな恋心が芽生えてしまっていた。フィガロの言っていた通り、俺はいつしか彼に恋をさせられてしまったのだ。
     どんなことがあってもこの想いは決して揺るがない。そう言い切れたらいいのだけど、残念ながら世の中そう上手くはいかない訳で。
     (……いつまで、この世界にいられるのかな)
     俺はいつの日か元の世界に帰らなくちゃいけない。それがずっと先の未来かはたまた明日かなんて皆目見当もつかないけれど、どちらにせよいずれ必ずその瞬間は訪れる。そのことを思い出す度、これは恋じゃない、なんて自分の心に嘘をつき続けた。
    「好きだなぁ……」
     届けられない想いが一人きりの部屋に虚しくも吸い込まれて消えていく。一つ大きく溜め息を吐いて、無造作にベッドの上へ寝転がった。
     抑えきれないこの想いを伝えてしまおうと何度思ったことか。だけどもしも拒絶されたら? 憧れを恋と勘違いしてるだけだなんて言われて、胸に宿るこの想いまでもを否定されたら? 寂しそうに笑って「ごめんね」の四文字を紡ぐ彼の姿を想像する度にちくちくと胸が痛んだ。
     もし告白してしまったら、きっと今まで通りなんて訳にはいかない。心地いい今の関係が壊れてしまうことを恐れて俺はいつまでもあともう一歩を踏み出せずにいた。
     誰にも知られたくない、知られる訳になんていかない秘密の気持ち。胸に秘めたこの気持ちは蓋をしたまま押し殺してしまうしか無いと、ずっとずっとそう思っていた。
     ――そう、あの時までは。

    ***

     やってしまった。今の俺の脳内はその一点だけで埋め尽くされていた。
     きっかけは些細なことだった。書類の束とにらめっこして疲れた頭を休めようと気分転換も兼ねて談話室へ訪れたら先客がいて、偶然かはたまた必然か、扉の向こう側に見えたのは今まさに想いを寄せている彼の姿で。「せっかくだし俺とおしゃべりしていかない?」なんて言われてしまえば断れないし断る理由もない。
     そんな最中、ふと起こったとある出来事。
    「フィガロ、その……こ、困ります……」
     ソファーに沈む二人分の体重。決して広くはないその場所で、フィガロが息をするように自然に距離を詰めてきた。
     なんだか知らないけれど今日の彼はやたら距離が近かった。至近距離で感じる体温や息遣いに戸惑って、耐えられそうになくて。意味もないのに片手でへろへろと顔を覆ってしまう。そんな俺には目もくれず、視線を本に注いだままフィガロが問う。
    「どうして?」
     そうして不意にそう問われ、気付けば言葉が口をついて出ていたのだ。
    「だって俺、フィガロのことが好きですから」と。決定打となる、逃れようのないその一言だけが。
    「……」
     フィガロが手元の本から俺へ緩やかに視線を移す。群青色の癖のある髪が、眩しすぎる月明かりに照らされながらふわりと揺れた。
     ぴたりと動きを止めてしまった彼は一向に俺から視線を外さない。それこそ、見つめられすぎて穴が空くんじゃないかという程に。
     どんな反応をされるのかわからなくて、わからないからとても怖いはずなのに。それなのに、なぜだかその瞳から目を離すことが出来なかった。
    「ありがとう、やっと言ってくれたね」
    「……えっ?」
     掛けられた言葉の意味がわからなかった。予想外の反応に驚いた拍子に、外しかけていた視線が再びまっすぐに彼を見据える。
    「とっくの昔に気付いてたよ、きみの気持ち。俺だけじゃなくて、ここ……魔法舎にいる皆もね」
     気付いてた? とっくの昔に? どういうことだ、この人は何を言ってるんだ。ぐるぐると混乱した頭が思考を阻んで状況を上手く呑み込めない。……だけど、今すごく聞き捨てならない言葉が聞こえたような。
    「ま、待ってください! 皆気付いてたっていうのは……」
    「そのままの意味だよ。気になる?」
    「は、はい」
    「そっか。……いいよ、教えてあげる」
     フィガロが堰を切ったように話し始めた内容は俺にとって予想外で、それでいて実に衝撃的なものだった。
     フィガロが俺の恋心にずっと前から気づいていたこと、魔法舎の皆も程度の差はあれど全員それを知っていたこと、あまりにもわかりやすい俺の反応を微笑ましく見守っていたこと。そして、フィガロはそれらすべてをわかったうえで俺と接していたこと。
     早い話が、この気持ちがバレてないと思っていたのは俺だけだったと。
    「……俺、そんなにわかりやすかったですか?」
    「うん、すっごく。だってきみ、すぐ顔に出るんだもん」
     言いながらフィガロが顔を綻ばせる。満足気に口元に弧を描く彼は、それはそれは幸せそうに笑っていた。
    「気付かれてないとでも思ってた?」
    「うっ……正直、隠し通せてる自信はありました」
    「あれで? ……なんというか、きみって案外鈍いところがあるよねえ」
     俺だって、きみのことずっと見てたのにさ。フィガロが苦笑交じりに言葉を続ける。言葉の意味がすぐには理解出来なくて俯いていた顔を上げれば、またじいっと見つめられていてどきどきと鼓動が騒ぎ始めた。
     確かに、よくよく考えてみれば人の感情の機微に敏感で言葉を操るのも上手い彼が俺の気持ちに気付いていなかった訳がない。それがつい視線で追い掛けてしまう相手――好きな人とならば尚更だ。よく視線がぶつかるのも目が合うといつも笑顔が返ってくるのも、そこには全部理由があった。
     あの時も、あの時も、それにあの時だって。すべてバレていたのかと思うと今更じわじわと恥ずかしさが込み上げてきて途端に体中が暑くなる。心拍数が急上昇して、息の仕方さえも分からなくなっていくような感覚。
    「ところで、賢者様。何か俺に言いたいことがあるんじゃない?」
     優しく応援されているような、頑張れと微笑ましく見守られているような声が大きく耳の奥に響く。それだけで、その声の意味するところが何なのかを瞬時に理解してしまう。
     それ以上何も言うつもりがないのか、フィガロはにこにこと微笑みながらまだ俺のことを見つめている。俺の言葉を待っている。それが優しくも力強い視線からひしひしと伝わってきた。いつものからかうものとは違う、どこか照れたような笑顔に思わず視線が釘付けになる。
    「えっ……と。じゃあ、その、改めて言葉にするのは照れますけど……」
     握りしめた手にぐっと力を込める。手のひらに爪がくい込むのもお構い無しに、カラカラに渇いた唇から必死に声を絞り出した。
    「フィガロ。俺……、俺、あなたのことが好きです……っ!」
     宝石のような翡翠の瞳から目をそらさずにそう告げると、フィガロは声をあげて笑い出した。
    「なっ……! なに笑ってるんですか!」
    「ふ、あははっ! ごめんごめん!」
     人が真剣に告白してるのにその態度は無いだろう。怒りに勝る恥ずかしさを瞳いっぱいに詰め込んでじとりと睨むと、そんな俺の視線を受けてかフィガロがぽつりと呟く。
    「嬉しくってさ」
     心なしか、少しだけ照れたように。
    「それって、どういう……」
    「ふふ、もう今更言わなくたってわかるでしょ?」
     今この瞬間を大切に仕舞い込むようにして瞳を閉じた彼の言葉に、俺はふるふると首を横に振った。好奇心に後押しされて喉に這い上がってきた言葉を慎重に、ゆっくりと全部紡ぎ出す。
    「……言ってくれないと、わからないですよ。ほら、フィガロもさっき言ってたでしょう? 俺って案外鈍いところがありますから」
     冗談めかして言った言葉の真意は果たして彼に伝わっているのだろうか。驚いたように目を見開いた彼の姿が、今は何よりも愛おしい。
    「あなたの口から直接聞かせてほしいんです」
     心臓が跳び跳ねそうになりながらも、早くその言葉が聞きたくて強引に距離を詰めてみる。そうすると、フィガロはゆっくりと俺から視線をそらした。
    「フィガロ、……俺の目を見てください」
     珍しく困った様子なのが可愛くて、ついついそんないじわるを言ってしまう。沈黙が流れ続けて息が詰まりそうになった時、ようやくフィガロが観念したように口を開いた。
    「俺も好きだよ、きみのこと」
     それはずっと、ずっと長い間待ち焦がれていた言葉。照れくさそうな瞳が今度こそまっすぐに俺を捉える。慈しむようなその眼差しに込められた意味がわからないほど、俺はもう子どもじゃない。
    「きみが俺を想ってくれてるのと同じくらいには、ね」
     俺がフィガロを想う気持ちと同じくらい。それは、つまり。
    「つまり、すごく好きってこと」
     俺が何か言う前にフィガロが再び口を開く。思考を読まれたようにさらりと放たれたその言葉は、それだけでこんなにもこの胸を高鳴らせた。
    「……ねえ、賢者様」
     返事を待たずして顎をくいと持ち上げられる。視界いっぱいが彼色に染まると、いつになく真剣な表情に緊張して息が詰まった。頬に添えられた手のひらの温もりをどこか夢のように感じながら、重なった唇の熱を確かにこの身に感じていた。
    「え。……あの、フィガロ今のは……」
    「どう? 俺の気持ち、ちゃんと伝わった?」
     唐突に渡された言葉の意味を一拍遅れてからようやく理解する。嬉しさよりも恥ずかしさの方が勝ってしまい、こくこくと何度も何度も無言で頷く。それならよかった、そう言ってフィガロはまた屈託のない微笑みを俺に向ける。
    「でも、ちょっと残念だなぁ。これでもまだわからないって言うなら、伝わるまで何度だって同じことをしようと思ってたのに」
    「同じこと、って。……ッ!」
    「はは、そんなに照れなくたっていいじゃない。それとも、賢者様は俺とこういうことするの嫌?」
    「嫌、って訳じゃないし、むしろ嬉しいですけど……。今はまだちょっと恥ずかしいんです。キ…さっきみたいなことも、それ以上のことをするのも」
     そこまで言ってちらとフィガロの様子を窺い見れば、なんだかまた妙ににこにことしている。なんとなく嫌な予感がして「ど、どうしたんですか」と恐る恐る尋ねてみると、返ってきたのは予想外の答え。
    「いや? もうそんなところまで考えてくれてるんだなぁって思って」
    「えっ? ……あっいや! 今のはちが、」
    「何が違うの? やっぱり俺とはそういうことしたくない?」
    「いえ、それはもちろんしたいですけど……あっ」
    「したいんだ。そっか、そっかあ」
    「う、うう~……」
     話をそらすつもりが、うっかり口を滑らせたばかりに余計墓穴を掘ってしまった。頬に熱が集中すると彼の顔を直視出来なくなって、また自然と視線が横に逸れる。
    「……あははっ、ごめんごめん! ちょっとからかいすぎたみたい」
     いつもよりテンションが上がっているのか上機嫌なフィガロの笑い声が軽快に部屋の中に響く。やられっぱなしで悔しい気持ちもあるけれど、そういうところが好きなのもまた事実だった。
    「それにほら、俺も好きだって何度も言ってたじゃない」
    「それは……、その、俺の好きとは違う意味なのかなって」
    「はは、賢者様らしいね。でも、今ので同じだったってちゃんとわかったでしょ?」
     見ているこっちまでつられて笑ってしまうような、幸せいっぱいをぎゅっと詰め込んだ笑顔。それが今、こんなにも俺の心に深く染み渡る。
     まさかあの二文字にそんな意味が込められていたなんて夢にも思わなかった。自惚れや勘違いなんかじゃない、あれは正真正銘の『告白』だったのだ。そのことを実感すると、嬉しいやら恥ずかしいやらでまた一層顔が熱くなる。
    「ほら、この音を聞いてみて」
     大きくて温かい手に導かれて彼の左胸、心臓の辺りに手のひらが触れた。どくんどくんと忙しなく動き続ける鼓動の音が聞こえて、驚きのあまり彼の顔をじいっと見つめてしまう。
    「こっちもさ、余裕なんて無いんだよ」
     照れくさそうに、けれど瞳いっぱいに嬉しさを湛えて微笑むフィガロの顔は心なしかいつもより優しくて。そんな彼の姿を目の当たりにして、言葉では言い尽くせない愛おしさを覚える。
    「……好きだなぁ」
     言葉になりたがっていた想いの塊がシンプルな一言となって姿を現す。独り言のつもりだったそれは彼の耳にも届いていたようで、頭上から不意に優しい声が降ってくる。
    「俺も」
     また一つ重ねられた幸せ。幾重にも折り重なった幸せの糸は境目もわからないほど雁字搦めになって、それは決して切れることなく俺たちのことを頑丈に繋ぐ。
    「ねえ。俺、こんなに幸せでいいのかな」
     声にまで滲み出す幸せな気持ちが嬉しくて大切で、またぎゅうっと胸が締めつけられる。
     喜びと照れと嬉しさと、確かな幸せでいっぱいになったこの胸の中。とくんとくんと音を刻む様が、今はこんなにも心地いい。
    「……いいんですよ。きっと」
     地面から俺に視線を移したフィガロが、ぱちりと大きく瞬きを一つ。
    「嬉しそうだね?」
    「ふふっ、わかります?」
     欲しくて堪らないと切実に願っていたものがすべて手に入って、夢みたいだけど夢じゃなくて。
     ああ、上手く言葉に出来なくてもどかしいこの気持ちをどうしたら全部伝えられるだろう? 考えても考えても答えは出ないから、いっそ行動で示してみることにした。
     抑えきれずに緩む頬と満面の笑みをフィガロに向ける。そして、そのまま強く彼を抱きしめた。
    「だって、幸せですから!」
     どんなことがあってもこの想いは決して揺るがない。今なら、そう言い切れる気がした。
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